第百六話 当クランを志望した理由を教えてください
◆◆◆第一回“烏合の王冠”クランメンバー選抜試験面接記録
【CASE1 火荊ナラカの場合】
Q:自己紹介をお願いします。
「火荊ナラカよ。『皇立
――――良かったわね、アンタ達。このアタシと話ができるだけでも光栄だというのに、おまけに共に戦える
Q:当クランを志望した理由を教えてください
「そりゃあもちろん、推薦を取る為……じゃなくて、戦士としての経験を積む為よ。まぁ、ぶっちゃけ戦地任務でも良かったんだけど――というか、ほんとはそっちが第一志望だったんだけど――あぁ、いやなんでもないわぁ! とにかくアタシは塔では得られない経験と強さを得る為にここまで来た。
わざわざアンタ達を選んだ理由? えーっと、なんか凄そうな事やろうとしてたからとか、そんな感じ? まぁ、大事なのは動機じゃなくて、このアタシがここにいるという
Q:長所と短所を教えてください
「長所は全てにおいて完璧すぎる事。短所は完璧すぎて中々話の合う相手が見つからない事かしら。いつの時代も天才は孤独よね」
Q:当クランがあなたを採用するメリットを教えてください
「あらゆる不可能から“不”の文字が消え去るわぁ。というかこのアタシを採用しないなんて馬鹿な選択肢を、アンタ達が取れるとは到底思えないけどぉ」
Q:もしあなたが当クランのメンバーとして採用された場合、どんな事をやってみたいですか?
「とりあえず、あのインチキ
Q:何か質問などはありますか?
「どうしてアタシってこんなに美しいのかしら」
【CASE36 ソーフィア・ヴィーケンリードの場合】
Q:自己紹介をお願いします。
「ソーフィア・ヴィーケンリードと申します。フリーの
Q:当クランを志望した理由を教えてください
「“烏合の王冠”様の募集広告を拝見させて頂いた
天の主はこう仰いました。『この者達に仕え、無限光の果てを目指すのだ』、と」
Q:長所と短所を教えてください
「長所は諦めないところ、頑張れるところ、真っすぐなところ。
短所は物事に熱中し過ぎると周りが見えなくなるところ、後、ほんのちょっぴりドジでよく転んじゃうところです。あとあと、気を抜くとつい甘い物を多めに食べちゃうところは自分でも治さなきゃなーって思っておりますっ」
Q:得意な事はなんですか?
「
後、よく聞き上手だねと、言われます。それとお歌も得意です。教会に務めていた頃は、聖歌隊の一員として沢山お歌を歌いました」
Q:ほう、歌。実に興味深い。……なぁ、ヴィーケンリードさん。差支えなければこの場で一曲、歌ってくれないかな。
「あうえっ!? 歌ですか!? えっと、ハイ。分かりました。それでは故郷の歌を一つ。―――♪」
一同。あまりの尊さに漏れなく昇天。
Q:素晴らしい、素晴らしいよ、ヴィーケンリードさん。君の歌声は世界が誇る宝だ。……なあ、一つ相談なんだが、ウチの
「アイドル、ですか。えぇと、それがクランの皆様の手助けに繋がるのであれば、前向きに検討したいと思います。あぁ、でもどうしましょう。わたくし、どんくさいですし、甘い物を食べないと力が出ないですし……うぅっ、でもでも、それが為すべき事であるのなら、わたくしは全身全霊でアイドルを頑張りたいと思いますっ」
Q:完璧だ! そんな所も実にプリティーで最高だよ! よし、決めた! おめでとう、ソーフィア・ヴィーケンリードさん。君を“烏合の王冠”のメンバーとして採用する。
はぁ? 何を言っているんだ凶一郎。採用の段取り? 馬鹿を言うな。私が経営責任者だぞ。トップが良いと言ったら、
というわけで、よろしくヴィーケンリードさん。我が甥の助けになってやってくれ。
「あっ、ありがとうございます! 精いっぱい頑張らさせていただきますっ!」
【CASE84 会津・ジャシーヴィルの場合】
Q:自己紹介をお願いします。
「会津・ジャシィーヴィルと申します。三年程冒険者をやっております。役割は主にアタッカー、サポーター、ジャマーの三つを受け持つ事が多いですね。パーティー内のバランスや
Q:当クランを志望した理由を教えてください
「私は、これまで主に労働者組として活動して参りました。比較的安全な環境で、安定した収入を得る事にこそ成功しておりましたが、心のどこかで閉塞感のようなものを感じていたんです。
一度きりの人生を、こんな形で消費してしまっていいのだろうか? 折角ならば、もっと大きなことにチャレンジしてみたい。多くの人に感動を与え、より一層社会に貢献できる人間になりたい――――そんな風に思っていた自分にとって、今回の試験は渡りに船でした。ここならば自分の本当の願いが叶えられると、そう信じております」
Q:長所と短所を教えてください
「戦闘面での長所は、臨機応変に立ち回れることです。例えば少し前にこのような事がありました。ある日私がパーティーメンバーと共にダンジョンを潜っていると――――(以下、組織のエージェントによる迫真の作り話が続くが、全部嘘っぱちなので割愛)――――短所は、地味といいますか、その場の空気を読みすぎて角の立たない振る舞いをしてしまう所だと、個人的には思います」
Q:当クランに採用された場合、あなたはどんなことをやってみたいと考えていますか? 具体的な目標やビジョンがあれば、教えて下さい。
「そうですね、やはりダンジョンの奥底に眠る
ほら、ついこの間皆様が手に入れた不思議な
Q:イエ、トッテモ素敵ナ夢ダト思いイマス
「ありがとうございます!」
Q:最後の質問です。あなたにとって、一番大事なものは何ですか?
「それはもちろん、家族です」
【CASE200 ハーロット・モナークの場合】
Q:どうでしたか、陛下。受験生ごっこは楽しめました?
「うむ。それなりに満足したぞ。“ぱんぴー”気分も中々どうして悪くない! “てんしょん”ぶち上げである!」
Q:そいつは何よりです。……どうします? 一応、面接やっときます?
「妾に聞きたい事があるのなら、なんなりと申してみるがよい!」
Q:じゃあ、今回の試験で閣下が個人的に見どころのあると思った受験者がいれば教えてください。
「やはり一番は、あの癒し手だな。他にも面白そうな
Q:あっ、ハイ。その人なら冒険者兼
「あやつを、あいどる? くくっ、くひゃひゃひゃひゃっ! うぇごっほほほほほほほほっ! それはそれは、とんだ
Q:陛下もやってみます、アイドル?
「まさか。今も昔も、道化は
Q:そいつは残念。個人的にはちょっと見たかったです、アイドル衣装を着た陛下が歌って踊る
「ふむ、“こすぷれ”という奴か! ならば今度、“からおけ”にでも行こうぞ! そこでたっぷり“せくしー”で“ぷりてぃ”な妾をお見舞いしてやる!」
Q:彼女
◆◆◆ダンジョン都市桜花・第三百三十六番ダンジョン『常闇』大会議室(一般人立ち入り可能区画):『
「それではこれにて面接を終了致します。お疲れさまでした」
ニッコリ笑顔でスマイリーに受験生を外へと追いやり、しっかりと大会議室のドアが閉じた事を確認してから俺は机に突っ伏した。
「疲れた」
口に出した事で、更に疲労感が増していく。
くそ、面接ってやる側もこんなに大変だったのか。
作り笑顔の
「ねぇ、叔母さん。俺の顔ヘンじゃない?」
「少しやつれてはいるが、栄養剤一発で働ける範囲の疲れといったところだな」
なにその判定。シビア過ぎない?
「本当にヤバい時は人間、無表情になるんだよ。お前の顔にはまだまだ余裕がある」
なんか鬼軍曹みたいな事言いだし始めちゃったよ、この人。
そりゃあ、泣いたり笑ったりできなくなったら色々とヤバいけどさぁ。
「ともあれ、お疲れ凶一郎。始めての割には中々よかったよ。特に
「冒険者としては彼らの方が先輩なわけだし、失礼な態度は取れないよ。というか、それ以前に今後も何らかの形で関わる可能性がある相手と険悪になるのはマズイでしょ」
同じ職場で働けないからといって、その人達と一生無関係でいられるかと言ったらそうでもないのだ。
その人が将来の顧客やステイクホルダーになる可能性はゼロではないし、いやむしろその可能性を潰さないためにも俺達は誠意をもって彼等と向き合わなければならない。
圧迫面接? 論外だよンなもん。
SNS全盛の時代に面接官がクソみたいなマウント取ったりお説教かました日には、あっという間に拡散&火炙りさ。
ただでさえ、
「過度にへりくだる必要はないんだろうけどさ、見る側も見られてるってこと位は自覚しなきゃじゃん?」
「その当たり前に気づけない
紫煙をくゆらせながら、彩夏叔母さんが自嘲的な笑みを浮かべる。
なんだろう、この経験者は語るみたいな感じ。
きっとここまでの地位を得るまでの間に色んな苦労があったのだろう。
「生きるって難しいっすね」
「まぁ、だからこそ楽しくもあるのだがね。さて、次の面接希望者は」
タブレット端末で予約状況を確認し、秘書に該当者の履歴書を提出するよう指示を出す叔母さん。
「あの、それが」
「履歴書を紛失した? どうしたミカちゃん、君らしくもない失態だ」
何やらトラブルの匂い。
いや、でも履歴書紛失は割とガチめにまずいのでは?
「申し訳ありませんっ、昨日までは確かにあったのですが」
「原因と対策については後で考えよう。今は一刻も早く解決を優先して。社のデータファイルから彼女のプロフィールをプリントアウト」
「はいっ、直ちに用意して参ります!」
そうして秘書さんが大急ぎで会議室を飛び出そうとした矢先に
「失礼致します」
そいつは、現れたのだ。
白色の髪に、白銀の瞳。
「お
そう、ここに来ての邪神である。
「アル、てめぇ何しに来やがった」
「
言って、A4サイズの紙切れを提出する邪神。
「これ、受験者の個人情報ですよね。廊下の隅に落ちておりました」
それはどこからどうみても履歴書だった。
顔写真があり、名前があり、これまでの彼女の経歴が綺麗な字で書き込まれたプロフィール。
「……おい、待て。どういう事だ」
嫌な汗が流れ込み、心臓がきゅっと縮まった。
前提が崩れ、掲げていたロジックが
きっとその時の俺は尋常じゃない程に動揺していたのだろう。
あぁ、そりゃそうさ。無理もない。
だってそこには、これでもかという
【CASE232
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・時間さえ止められれば、盗みもアリバイ工作もやりたい放題ですよ。
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