第閑話 真夏の夜のノクターン










◆ダンジョン都市桜花・第三百三十六番ダンジョン『常闇』第一中間点「住宅街エリア」




 顔合わせを終えた俺達は、そのままの流れで黒騎士の歓迎会へと移行した。



 といってもそこまで凝ったものじゃない。

 俺が料理を作り、ユピテルおすすめのアニメ映画を流して、遥さんが幸せそうにご飯を食べている――――いってしまえば、いつもの日常に、少しだけ特別感のスパイスを加えただけの立食パーティ。



 えっ、肝心の黒騎士はどうしていたのかって?



 ……旦那は、脱いだよ。



社会型隠蔽擬態ソーシャルミミック、展開」




 そう言って、旦那が黒鎧ごとトランスフォームした時は、全員が吃驚きっきょうしたよ。

 旦那いわく、社会生活を営む上でやむなく素顔を晒さなければならない時用の“見せ素顔”をらしい。

 ……いや、なんだよ見せ素顔って。

 見せパンみたいなノリで、顔を作るんじゃないよ。




折角せっかくお前達が、催してくれた宴だ。こちらも全霊で楽しまなければ無礼であろう?」




 そんな男気溢れる正論を吐きながら、旦那はチビチビとノンアルコールワインをたしなんでいた。


 またコイツが、ビックリする程のイケメンなのだ。


 漆黒の長髪に乳白色の肌、シャープな目元の中で怪しく光る金色の瞳は、魔的な美しさに満ちており、総じてなんだかとってもエロい。



 クソが、何が社会型隠蔽擬態ソーシャルミミックだよ。

 こんな人外美形が一般社会にそうポンポンいてたまるかっての。


 シラードさんといい、黒沢といい、旦那といい、どうして俺の周りの野郎はイケメンだらけなのだ。

 あー、妬ましい。この世全てのイケメンが妬ましい。

 世の中の男ども全員が凶一郎顔になってしまえばいいのに。









「黒騎士さん、中々おもしろい人だったねー」




 歓迎会を終えて、メンバーが各々おのおののプライベートタイムへと移ろいでいった午後十時、俺の部屋のベッドには一匹の恒星系が寝っ転がっていた。



 タンクトップにショートパンツ、両手で流行のファッション雑誌を広げながら足を暇そうにバタつかせているその姿には、一欠片ひとかけらの緊張感もない。完全にダラダラモードだ。




「堅そうな外見とは裏腹に、すっごくお茶目で喋りやすくっておまけに変身とかしちゃうじゃない? いやー、世の中の広さってやつを垣間見た気がするよ」 

「……俺も予想外だったよ」



 まさか旦那があんなにあっさり脱ぐなんて。ていうか何あの魔族系イケメンフォーム。あんなの公式設定資料集にも乗ってなかったぞ。



「ねぇ、凶さん。あたしも変身したい」

「またやぶからぼうに」



 いつだってこの女は唐突だ。

 本能のおもむくままに生きている。



「えー、だってカッコ良くない? こうシュパパーと音を立てながらピカーって光ってババーンって決めポーズを取るの」



 擬音が多すぎて話の要領がイマイチみえてこなかったが、どうやら遥の憧れる変身というのは日朝系のものらしい。



「まぁ、ロマンは認めるよ」



 荷物入れに携帯用の扇風機を突っ込みながら、会話を広げていく。



「変身願望っていうのかな、今の自分とは別の何かになって活躍したいって気持ちは俺にもある」



 たとえばイケメンとか、イケメンとか、イケメンとか。

 もしもう一度生まれ変わる機会があるのなら、今度は笑うだけで発情ニコポ撫でるだけで発情ナデポを使いこなせる人間になりたい。


 笑いかけたり頭でるだけで攻略対象を籠絡ろうらくできるとか、どんなチートよりもインチキだよな。


 いや、最早インチキ通り越してファンタジーだわあんなの。


 だって考えてもみてくれよ。



 同意なしのなでなでとか、現実でやったら普通にセクハラ案件なのに、二次元のイケメン達やつらときたら「ごめん。○○があまりにも可愛くて、つい」とかほざきながらパートナーでもない相手の頭を平気ででてくるんだぜ。         



 何それ、どんな理由? 

 可愛いかったら頭撫でていいの? 

 ぶっちゃけ「ごめん。○○のオッパイがあまりにも大きくて、つい」って抜かしながらオッパイ揉むのと大差ないよね。



 そう考えるとやっぱナデポはないわ。

 イケメンだろうがなんだろうが、他人の頭を勝手に撫でたらそれはもう立派なセクハラである。

 ……ったく自分の浅はかさに腹が立つぜ。

 どうしてこんな最低の悪行に憧れてたんだか。


 


「というわけで、俺はニコポが使えるイケメンに変身したいです」

「ニコポ? なにそれ」

「ニコッと笑うだけで相手をポッと惚れさせることのできる魔法の現象」

「へぇー。そんな呼び方があるんだ。でも確かに笑顔が素敵な人ってイイよね。見てるこっちまで元気になれるような笑い方のできる人って、老若男女問わず魅力的だと思う」

「だよな。……ちなみに派生形としてナデポと呼ばれる現象もあるんだが、これどういう意味だと思う?」

「えー、なんだろ。まさか頭を撫でて相手を惚れさせるなんてあり得ない解答じゃないだろうし。なで、なで……うーん」

「……………………」

「えっ、まさか正解じゃないよね」

「……………………」

「それ惚れるどころか下手したらおまわりさん案件だよ」



 やっぱりか。

 やっぱりナデポはギルティか。



「そうなんだよ。実は今、こういう形式のセクハラが流行っているらしいんだ。多分、頭を撫でるだけだから大丈夫だろって思ってる輩が多いんだろうな。俺に言わせれば、ナデポはいちじしく常識の欠如した最低の愚行ぐこうだよ。実際に行う奴はもちろん、そんな行為に憧れを抱くような奴も軽蔑されてしかるべきだ」

「おおっ、すごい語るねー」



 そりゃあ取り繕うのに必死だからな。

 自分を良く見せる為ならなんだってするよ、俺は。





「おっと、そうこうしている内にもうこんな時間か。仕方がない。名残惜しくてたまらないが、明日も早い事だし、この辺でお開きにしようか」



 熱い語りからの自然すぎる誘導、我ながら完璧な立ち回りである。




「…………」



 しかしなぜだか遥は動かない。

 こてんと枕に頭を預けながら、心細そうにベッドのシーツを掴む恒星系。

 肩先から垂れる風呂上がりの黒髪が力なく白布の海へと沈む。




「なんだよ、部屋に帰りたくないのか」

「そうじゃないけど、ユピちゃん、まだゲームやりたいだろうし」

「あぁ、そういう事」



 アレはゲームの進捗しんちょく次第で露骨にパフォーマンスを落すからなぁ。


 その癖、気にしいなところがあるから、放っておくと溜めこむし。



「ほら、ダンジョンの中ってスマホとかのゲームできないでしょう」

「ネット使う系は全滅だもんな」



 人界と精霊界の狭間にあるダンジョンに、インターネットの網は届かない。


 ユピテルのようなソシャゲ廃人にとっては地獄のような環境なのだ。



「だから部屋でできるおっきいゲームをやらせてあげたいんだけど、そうすると今度はあたしが眠れなくなるし」

「それでこっちに逃げてきたのか」

「逃げたわけじゃないけど、まぁ大体そういうコト。後そのゲーム、なんかアルちゃんに買ってもらったゲームらしくってさ……お姉ちゃんから貰ったものを大事そうに遊ぶ妹の時間を邪魔するのが忍びなくて」

「ふむ」

 


 これは中々に由々ゆゆしき問題だ。



 一見するとお子様のわがままに遥が泣き寝入りしているかのようにみえる本件だが、事はそう単純じゃない。



 多分、ユピ子はユピ子で気を遣っていたはずなのだ。

 そしてさとい遥はそれに気づいて、自ら身を引いたのだろう。



 ……ったく、普段滅茶苦茶ばかりやってる癖に、変なところでしおらしいんだよな、こいつら。


 とはいえ、このままヤマアラシの計り合いを悠長ゆうちょうに見守っている時間はない。



 何事もそうだが、悪い芽は早い内に摘んでおくに限るのだ。 



 さて、それらを踏まえた上で今の俺にできることは何だろうか。


 エースと砲撃手、両者のパフォーマンスを落させない為の良策は……うーん、正直パッとは思いつかない。

 となると、仕方ないな。

 急場しのぎにしかならないが、とりあえず今日のところは遥にこの部屋で休んでもらうとしよう。

 もちろん、俺は退散だ。寝床は……リビングのソファでいいか。




 だがその旨を伝えると、恒星系は食い気味にかぶりを振ってこう答えたのである。




「いや、それはさすがに悪いって。あたしの安眠の為に凶さんに辛い想いなんてさせたくないし」

「辛い想いって大げさだよ。リビングのソファでも十分寝れるし、最悪和室で旦那と寝るって手もある」

「ダメダメ。あたしのわがままに凶さんがそこまでする必要はありません。あっ、そうだ! だったらあたしがソファで寝るよ。そしたらみんな幸せ……」

「んなワケないだろ、あんなところで寝て風邪でも引いたらどうするんだ」

「凶さん、さっき自分で言った台詞覚えてる?」

「覚えてるよ。だからこそ俺が適任なんじゃないか。お前さんはここでゆっくりしてけ」

「いやいや、あたしがソファにいく」

「いやいやいや、俺がソファで寝る」

「いやいやいやいや」

「いやいやいやいやいや」



 両者一歩も引かない不毛な譲り合い。

 きっと今の俺達のような有様を、世間では堂々巡りというのだろう。








「ねぇ、このままじゃいい加減らちが明かないからさ、一つあたしから提案させてもらってもいいかな?」




 遥の口から斯様かような言葉が飛び出してきたのは、それから三十分以上経った後の事だった。




「なんだ、言ってみろ」

「うん、あのね……あー、その前にちょっとお水飲んでいい? 喉乾いちゃった」



 暑そうに手うちわをあおぐ遥に未開封のミネラルウォーターを手渡す。




「ありがと。――――んくっ、んっ、んっ、あぁーっ、生き返るにゃー!」



 良い飲みっぷりだ。動画に撮って編集を加えれば、十分コマーシャルとして成立しそうな程に映えている。

 ただ外見がいいだけじゃなくて、一つ一つの動きが本当に綺麗なんだよな、こいつ。



「で、良い案ってなんだよ」

「うん、あのね」



 中の水が半分程度まで目減りしたペットボトルを脇に置き、ほんのりとドヤ顔で事の詳細を語りだす恒星系。



「あたしも凶さんも、お互いをソファで寝させたくないわけじゃない?」

「うん」

「で、その代替案として自分が代わりにソファで寝るって主張しているわけだけど、コレは手段であって目的じゃない。相手に不自由をさせない為に自分がイケニエになろうとしているわけだよね?」

「そうだな」

「だったらさ」


 サファイアのような碧眼が、俺の眼差しを独占する。




「あたし達がここで一緒に寝ればいいんだよ。どう? いいアイディアでしょ!」

「……………………は?」



 聞き間違いだろうか。

 いや、聞き間違いに違いない。

 だってそれは、あまりにもおかしな発案だ。

 ハードルの高さでいえば、『頭を撫でる』よりもはるかに格上、ほとんど最上級クラスのシチュである。



「えっとさ、遥。一応、本当に一応だけど確認させてくれ」

「なに?」



 何ら恥じ入る事もなく小首を傾げる恒星系。いつも通り過ぎて逆に怖い。



「この部屋にはベッドが一つしかない」

「うん」

「そこで俺とお前さんが寝るという事は、つまり、その、なんだ……一般的な定義でいうところのそ、添い寝をするという事になる」

「だからそう言ってるじゃん」



 ポンポン、と弾むようなリズムでベッドを叩く左手、ちょいちょい、と小鳥が羽ばたくような軽やかさでこちらを誘う右手




「ほら凶さんや、こっちにおいで。一緒に寝よ?」



 

 刹那、俺の精魂せいこん喀血かっけつした。


 な、何を考えているのだこのバカは。


 先程のナデポへの反応から察するに、性知識皆無の純粋無垢といわけでもあるまいに。




 ていうか、頭を撫でるのがダメで、添い寝はオッケーってどういう基準だよ。  

 普通逆なんじゃねぇの? 




「それは良く分からない人の場合でしょ。凶さんがあたしの頭撫でたいっていうなら、まぁ特別に? 触らせてあげてもいいし」



 心臓に、まるで巨大な撞木しゅもくが打ちつけられたかのような衝撃が駆け巡る。

 息がうまくできない。

 身体中が熱い。

 頬のボルテージはいうまでもなく真っ赤っ赤だ。



 おおおお落ち着け童貞。今までの人生を振り返ってみろ。

 学生時代はずっと玉砕ばかりだったよな。勘違い特攻による盛大な爆死経験も一度や二度じゃない。異性に優しくされる度に「あいつ、俺のこと好きなんじゃね」と気持ちの悪い思い込みを発生させ、その度に自分と周りを傷つけていたあの地獄の日々を忘れたとはいわせないぞ。



 そうさ。きっとこれはアレだ。逆に異性として見られていないパターンというやつだ。


 だって、ご覧なさいよ彼女の表情を。まるで自然体じゃありませんか。


 

 もしも百億万が一こいつが俺に異性としての好意を抱いていたとして、こんな平静の状態で添い寝の誘いができるかって話ですよ。

 ……いや、無理だろ。俺が同じ立場だったら絶対に頭が沸騰してロクに台詞を回せない自信があるぞ。



 だからこれはつまり、そういう事なのだ。


 おそらく遥にとって俺という存在は、年の近い弟の様なものなのだろう。


 姉さんがちょっとした事でハグしてくれるのと同じ感覚である。

 身内だからこそ許されるスキンシップ、性的な対象としてではなく家族に接するような気安さ――――おぉ、大分理屈が立ってきた。このロジックなら変な勘違いをしなくてすむ。




 ……まぁ、だからといって、一緒に寝たりはしないんだけどね。



「というわけで、お休み遥。また明日な」

「なにさりげない足取りで、外に行こうとしてるのかな」



 ドアノブに手をかけたところで襟首を掴まれた。痛い。



「いや、リビングで寝ようかなと」

「だーめ。凶さんは、あたしと一緒のベッドで寝るの」



 後ろから聞こえてくる声はまったくもっていつも通りなのに、引っ張る力だけが異常に強い。

 天凛てんぴんの剣士は、膂力りょりょくも一級品だった。




「寝るっつったって、そもそもこのベッド、二人で寝るにはかなり手狭だぞ」

「その辺は今後の課題だねー。まぁでも、身を寄せ合ってシーツにくるまればなんとかなるでしょ」



 ずりずりずり、とベッドに向けて引っ張られていく俺の身体。抵抗したいのは山々だが、この寝巻お気に入りなんだよなぁ。今暴れたら絶対に破けるだろうし。



 つーか今後ってなんだ。お前まさかこれから先ずっと――――いや、深くは考えまい。このワクワク狂いの言動に一々気を揉んでいては日が明けてしまう。



 今はうろたえている場合じゃない。冷静に、かつ真摯に説得してこの楽園から脱出するんだ凶一郎。

 

 決して一時の衝動に任せて真夏の夜の馬鹿をやるんじゃないぞ。




「仮にベッドに身体が収まったとしても、きっと寝苦しいぞ。二人で寝ても、ただ身体に疲れが残るだけだ」 

「んー、多分それはないね。むしろかつてない程絶好調な朝を迎えられる気がする」

「その根拠は?」

「勘」



 くそ、言い切りやがったこいつ。



「なぁ、遥。やっぱり別の方法を試そう。俺達が同じベッドで寝る必要なんてないって」

「もうっ、凶さんは強情だなー。あんまり愚痴愚痴いってると、ヘタレ扱いしちゃうザマスよ」

「結構ザマス」



 ドキドキして眠れなくなるよりは、よっぽどましザマス。



「ほらっ、ベッドに着きましたよー。ごろんちょして下さいねー」

「しない。俺はリビングで寝る」



 後ろを見上げると遥の美しいかんばせが、不服そうに歪んでいた。



「……けちんぼ」

「何とでもいえ」

「かいしょーなし」

「えぇ、甲斐性なしですとも」



 幼稚な煽りだ。

 ネットの世界で数多のレスバトルを経験してきたこの俺に、その程度の口撃が通じると思うなよ。




「まったく、ここまで誘ってるのに乗ってこないなんて凶さん男気ないよ!」

「――あぁ?」



 瞬間、脳の中の理性が、弾けて飛んだ。



 男気がない、だと?

 言うに事かいてこの筋肉紳士にその言葉を口にするというのか。


 それはいけない。それだけはいけない。


 童貞といわれるよりも心外だった。




 怪訝そうな顔を浮かべる恒星系の手を取り、腰と両足を抱きかかえ、極めて紳士的にベッドへと降ろす。




「ちょっ、ふえ――――!?」



 呆然とする恒星系を尻目に部屋のシーリングライトを豆電に切り替え、そのまま先客のいるベッドへと潜り込む。



「ほらよ、お姫様。全部お前の言う通りにしてやったぜ。これで満足か?」

「いやっ、あのっ、えっと」

「なに焦ってんだよ。別にやましい事をしているわけじゃない。ただ同じベッドで寝るだけさ。あぁ、まったくもって健全だよ」



 身体のいたるところに柔らかいものが張り付いて頭がどうにかなりそうだったが、それを鋼の自制心で押し殺し「え? 全然気になりませんが」と効いてない風を装う。


 全ては己の中の男気を証明する為。その為ならば、この程度の天国ごうもん、全然大したこと――――あっ、なんだろうコレ、とってもポカポカする。あったかくてふわふわしていて、程良くムニムニで、よくわかんないけどこころがすっごくピョンピョンす――――大したことない。



「……………………」

「なんだよ遥、言いだしっぺのくせに今更になって怖気づいたのか?」



 俺は黙する遥に向かって軽口を叩いた。



「まぁ無理もねぇよ。添い寝ってのは滅茶苦茶ハードルが高い。一部界隈では『ソイフレ』だなんだと騒がれちゃいるが、それでも一緒に寝るって行為はある種の危険性をともなうわけで――――」

「ねぇ」



 耳のそばから聞き慣れているはずの声が流れてくる。高さもトーンもいつも通りの遥の声だ。


 なのにどうして、




「なんで、こっち向いてくれないの?」




 

 どうして彼女の声がこんなにも蠱惑こわく的に聞こえるのだろうか。



「なんでって、そそんなの当たり前だろ。向かい合ったりなんかしたら色々と……危ないし」

「凶さんは、あたしに危ないことする気なの?」

「しっしねぇよ! するわけがない」

「じゃあ何も問題ないじゃん。ほら、こっち」



 こしょこしょ、と耳元で囁きかける言葉達。

 密着しているせいで、彼女の温かい吐息がダイレクトに俺の聴覚器官へと伝わり、溶けていく。


 あぁ、まずい。これはまずい。



「でも、男には朝方に発生する生理現象的なものとか――――」

「いいからさ」



 そして遥の口から極上の吐息が漏れ出た時




「男気みせて」




 俺の中の何かが壊れた。




 脳髄をしびれさせる甘い感覚と、男気というフレーズを利用されたことに対する脊髄反射的な反応。


 それらが重なり合い、混じり合い、綾模様のようにもつれ合った結果、俺の身体は自然と彼女を求めて寝返りを打っていた。



 豆球のかすかな光に照らされた暗がりの中で横たわる一人の少女。


 艶やかな黒髪、薄着をまとった白い肌、紺碧の瞳は闇の中でも淡く輝き、桜色の唇は弧を描きながら妖艶にわらう。




「あはっ。顔、真っ赤だ」




 あぁ、まずい。

 これはまずい。

 非常にまずい。







―――――――――――――――――――――




Qダンマギはエロゲーの移植版ですか?

A違います。無印からずっとコンシューマーオンリーです。

 エクスタシーという名前の十八禁版もございませんし、○○アフターだとかわふたーだとかそういう形のアフターストーリー作品も出ておりません。

 とっても健☆全な作品です。


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