24.強行軍で開けた懐かしい風景
朝早く出発した馬車は、ごとごとと揺られながら進む。馬を途中で交代させる様子を見て、私は首を傾げました。そこまで急ぐ旅ではありません。馬が疲れたら、人もその街で一泊すればいい。なのに、馬を替えて出発するのは、どこか奇妙な気がしました。
まるで何かから逃げているかのよう。
お父様も伯父様も私に教えてくれる気はないらしく、騎士達も口を噤んでいました。お母様に早く会えるのは良いことです。弟のダヴィードは、どれくらい大きくなったかしら。
最後に家族全員が顔を合わせたのは、2年前でした。王宮で行われた新年の祝賀ですね。昨年はお母様が体調を崩されて、参加できなかったのです。今年も王宮でお会いすると思っていました。公爵領へ帰れるなんて、心が高鳴ります。
順調な旅の休憩場所として足を止めたのは、花の咲く草原でした。丘と呼ぶほど高低差はなく、短い牧草に白い野花が美しい場所です。さすがにお茶の準備は忙しいので、果物をいただきました。豪快に齧る騎士様の真似はできず、伯父様が慣れた手つきで剥いてくれましたわ。
「ありがとうございます」
「どういたしまして」
戯けた伯父様と林檎を頂いていると、後方から馬が走ってきます。かなり急いでいるので通り抜けると思ったのに、馬車の前で止まりました。
見守る伯父様の表情が険しくなります。
「王家か」
呟いた伯父様の言葉に、使者の馬がつけた紋章に気付きました。馬車についた騎士が声を掛け、馬車の中からお父様が顔を見せます。
「使者がお見えです」
「私が対応する」
お父様は馬車を降り、何かを受け取りました。さっと目を通し、頷くと帰るよう促す。使者は食い下がったものの、残念そうに一礼して馬に飛び乗りました。王家からの連絡が気になり、駆け寄ろうとしましたが。伯父様は私を抱き寄せて離しません。
「もう少し待ちなさい」
「はい」
木陰に座っていたので、私達の姿は街道から見えないでしょう。使者の姿が見えなくなったところで、先に立った伯父様のエスコートで馬車に戻りました。
「お父様、王家からのご連絡ですか?」
「ああ、大丈夫だ。私の方で処理しておく」
内容は教えていただけないのですね。気になりますが、隠されたものを暴くのは不作法です。私に関わることなら、いずれ教えてくださるはず。諦めて馬車に乗ります。
なぜか夜も可能な限り走り続け、かなりの強行軍でした。シモーニ公爵領に入る橋を渡ったのは、早朝の眩しい日差しを浴びながらです。後ろの方の荷馬車が行軍についていけず、数人の騎士の護衛をつけて速度を落としました。そこまで急いだ理由は不明です。
私は久しぶりの景色に懐かしさを覚えて表情が緩みました。素敵、こんなに美しい景色だったなんて。青と黄色の野花が揺れる街道沿いで、馬車はようやく速度を緩めました。
「もうすぐですわね」
「ああ。ようやくルーナと帰ってきたな」
ほっとした顔のお父様が、ぐったりと座席に寄りかかりました。そういえば、夜の間は私に膝枕をしてくださったのでしたね。
「お父様、よろしければ膝枕をしますわ」
嬉しそうなお父様の隣に座って膝を貸し、目を閉じた顔をじっと見つめます。なぜか泣きたくなりました。
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