14.人知れず育てた狂気は肥大する
可愛い可愛いジェラルディーナ――あなたは覚えていないでしょうね。私にとって、あなたは失った我が子の生まれ変わりなのよ。最初に身籠った子は、側妃に殺されてしまった。母である私が何としても守らなければならなかったのに。
身籠って腹が目立ち始めた頃、王妃リーディアは側妃主催のお茶会に参加した。あの日は酷く暑くて、季節外れの好天に冷たいお茶へ手が伸びかけたほど。あの時腹を蹴飛ばして抗議した我が子に、苦笑いした王妃は木陰の席へ移動した。やや温くなるまで冷まして、お茶に口を付ける。
お腹を冷やさないよう、冷たいお茶を避けて腹の上にショールを乗せた。口を付けた時に零してしまい、ハンカチで口元を拭う。初めての我が子、女でも男でもいい。ただ健康に生まれて欲しかった。きっと愛らしいはず、私の命と交換にしても産むわ。そう決意した王妃の想いをよそに、赤子の命は奪われてしまった。
お茶会の翌日、奇妙な腹痛に襲われる。混乱する王妃を診察した医師が、青ざめた顔で流産を告げた。原因は何らかの刺激物を摂取したことと聞いて、心当たりはひとつしかない。側妃主催のお茶会だ。あの日出されたハーブティに何か入っていたのではないか?
疑惑は疑惑でしかない。お茶はもうとっくに廃棄され……ハンカチは? 零れたお茶を拭ったハンカチを回収させた。結果は想像通り。リコリスが入っていたという。気管支の薬として使われるため入手が容易なハーブで、城内にも利用する者がいたらしい。
入手経路を辿っても罪に問えない。この子はもう生きられず、私は我が子を守れなかった。胎内に残った我が子を、我が侭を言って一晩だけ抱き締めて眠る。乳を与えて育てたかった。生まれたら名を付けて……愛らしく笑う姿を見たかったのに。
あの女が産んだ王子の地位の安泰のため、この子は殺されてしまった。愚かな母を許しておくれ。何度も謝りながら、胎内から出された遺体に名を付けた。月の名を持つ女の子として、ルナ――まだ人の形を成したばかりの小さな手を握り、何度も謝る。王妃の後悔は深く心を蝕んだ。
その夜も、夫である国王アルバーノは側妃の寝室で過ごした。部屋から見える灯りを睨みつけた王妃は、心に固く誓う。あの二人の子ヴァレンテは必ず葬り去る。奪われた我が子の代わりが必要となり、嫌悪感を抑えて国王の子を宿した。
産まれるまで細心の注意を払い、毒見役を何人も用意した。厳重に管理された妊娠期間を経て王妃が産んだ子は、男の子――望んだ通り王子だった。これで、あの女からすべて奪ってやれる。殺された姫の恨みを晴らし、第一王子を廃し、側妃を断罪しよう。そう決めた直後、ジェラルディーナの誕生を知った。
王家の血を引く愛らしい姫の存在に、狂気を宿した王妃は頬を緩める。あの子が帰ってきてくれた。可愛い私の吾子が……ルナが戻ってきたのよ。
一見すると異常がない王妃は、人知れず狂気を育てながら微笑む。今度こそ、あの子を
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