第14話:反撃の狼煙
パワーブランチ、表向きの条件は整った。今回僕らには、ロクの言う裏向きの解釈の方は必要ないから、万全の状況といっていいだろう。パワーブランチのおかげというよりは、ロクのおかげというべきではあったが、まあなんにせよ、リラックスしたいい雰囲気である。
ねこ父のひと声で開始と相成った。
「霊殿内部の砂鉄はほぼ除去が完了したのじゃが、霊殿外部の砂鉄除去はどうするかじゃ。タカよ、おヌシの話では後回しでよいということじゃったが、どうじゃ?」
「現時点では、まだいいかと思います。霊殿内部での活動が完全に復旧してからの方がむしろいいと考えています。霊虎が大軍を率いて、波状攻撃を仕掛けてくる可能性もあるからです。十分に迎え撃てる態勢を整えられるまで、霊殿の外はそのままでいいんじゃないでしょうか。ただ、砂鉄除去の方法は検討しておきたいですね」
「うむ。アルタゴスよ、何かよい案はあるか?」
「今のところでは、さらに大きな掃除機を作るか、いっそのこと空間を開けて砂鉄をどこぞの異空間に捨てるか、どちらにしても規模がとてつもないものになります」
「それなら少し考えていたことがあるんですが……」
「なんじゃタカ、申せ」
「爆発当初は粉塵として巻き上がっていた砂鉄ですが、今はもう完全に磁力の影響ですか? で、下に落ちています。そこで、ここ霊界で雨を見たことはないのですが、その雨を降らせることができるなら、砂鉄は水の流れるところへ集まっていくことになります。そうすれば、ひとつの箇所に集めることができるんじゃないかと」
「なるほどのぅ。どうじゃ、アルタゴス?」
「面白いですね。とても楽しそうで、いい案かと」
「あ、できれば集めた砂鉄ですが、捨てずに保管しておいて欲しいのです」
「どうするというのじゃ?」
「戦術の対策に使いたいと考えています。攻撃を仕掛けられた場合、どう防衛、回避していくか? 反対にこちらが攻撃手段として用いることができないか? これらの検証に使いたいのです」
「あいわかった。アルタゴス、頼んだぞ」
「はっ」
まあ、防御面にしても攻撃面にしても、いずれにしてもアルタゴスの開発力が肝なんだけれど……。
「あのー、砂鉄爆弾ですが、一発目以降は霊界に向けて打ち込まれていますか?」
「三発ほど来ておるぞ。ひとつは霊界急行列車の貨物として、もう二つは空間転移で直接じゃ」
「えっ、黄泉列車も使われたんですか?」
「おヌシと話して運航を再開して早々にな……。じゃが、運行再開時にその可能性は想定済みであったし、積み込まれた爆弾は時限式であったから爆発そのものを阻止しておる。爆弾は不発のまま防御網で囲って霊殿まで持ち込み、技術部と情報部で解析中じゃ。そういえば、解析の進行状況はどうなっておるのかのぅ。アルタゴス、何か聞いておるか?」
「はい。まず、信管は取り外せましたので、爆発が起こる危険性はほぼなくなりました。で、解析ですが、あくまでも砂鉄を広範囲にまき散らすための爆弾のようです。爆破や爆風で我々を吹き飛ばす、殺傷を目的とした作りはしていないですね。それにしても……、こんなものを作り出したのか? それとも手に入れたのか? いずれにしても下界で一体何が起こっているのか、想像もつきません……。」
「うむぅ。まあ、予想通りの結果じゃということか……」
爆弾の仕様は僕も想定内だ。それにしたって、追加で三発も来てたとは知らなかった。砂鉄爆弾からの次の一手、こちらが仕掛けられるか? それとも受けるしかないか? 僕としては、仕掛けたいところだ。
基本的に攻撃を仕掛ける場合には、仕掛けるだけの攻撃能力と十分な防衛能力の両方がいる。この両方が満たせなければ、防衛で受けるしかない。ただ今回は、攻撃能力に関してはどうにでもなる。その力量に応じた作戦に限定すればいいからである。敵の完全制圧から、敵拠点の一部機能不全まで、僕らの攻撃能力に応じた作戦にするのである。極端な話、失敗して途中撤退したっていいのだ。だから、今回重要なのは、防衛能力の方である。
「ええっと、少し戻しますが、まず砂鉄爆弾は今後すべて防御することが可能ですか?」
「大丈夫じゃ。砂鉄爆弾が霊界内に送り込まれる可能性はほぼ皆無じゃ。そういう体制を取っておる。じゃが、万が一霊界内に紛れ込んだとして、仮に霊界内部で爆発が起こってしまったとしても、大丈夫じゃ。すべての建物にこれまで以上の防御網が展開されておるから、砂鉄はもちろんのこと、爆発そのものでも耐久出来るようにしておるぞ」
「爆弾ではなく、霊虎が大軍を率いてきた場合の防衛は、問題ありませんか?」
「そちらの方がむしろ容易であるぞ。霊体襲撃の防衛は、霊虎が存在しようがすまいが、二十四時間体制じゃ」
「えっ! それは、僕ら……というか、ロクやシャルがいなくても大丈夫ってことですか!」
「むろんじゃ。何を今さら、というぐらいじゃが、まあ、おヌシは知る由もなかろうな。フォ、フォ、フォ」
「すみませんでした。でも、それなら安心です」
いやはや、僕なんぞが気にする必要はなかった。余計な心配、大きなお世話というヤツだ。
「あと一つ気になってのは、この砂鉄爆弾を送り付けたヤツは、霊殿の復旧をすでに認識できているか? ってことなんですが……」
「さあて、それはどうかのぅ。敵がどこまで霊界のことを把握しておるかもわからんしのぅ。列車は、一回目の爆発からおよそ五時間程度止まっておっただけで、その後は通常運行しておるから、下界の神社仏閣には関門海峡掃討の延長線上の出来事と告知しておるし、それを誰も疑ってもおらんからのぅ。今、下界では、この霊界が砂鉄爆弾テロに遭っていることすら、誰も知らん状況じゃよ」
「なるほど………………」
そういう手を打っていたのか……。僕が敵の立場ならどう考える? 砂鉄爆弾そのものが失敗したと考えてもおかしくないよな。ただ、一発目を送り付けてから、約五時間は列車が止まったわけだ。うーん……。今は、列車の運航再開から十時間以上経っている……。一時的な打撃を与えることはできたが、大きな効果は得られなかった……、そう考えるな。
「最後の爆弾を送り込まれたのはいつですか?」
「最後が列車貨物じゃから、約十時間前じゃのぅ」
「じゃあ、十時間前から攻撃は途絶えているんですね」
「いかにも」
「なら、敵はもう霊殿は復旧していると認識しています。その上で十時間以上攻撃をしてきていませんので、今回の作戦は諦めたか? それとも別の作戦を展開する予定か? でしょう。前言撤回です。霊殿外の砂鉄除去は、もう始めましょう。そして、至急、霊虎襲撃作戦を立てましょう!」
僕がそう言うと、その場の全員、いやロクを除いた全員が驚きの表情をした。
場の空気は、一気に張り詰める。
もちろん、なに言ってんだコイツは! という不穏な空気である。
「霊虎襲撃じゃと! ふぅん……。ちょいと急ぎすぎやせんか? そこまで焦らんでも地震や噴火に影響を及ぼしてしまうのは、まだまだ先の話であるぞ。ましてや霊界はこの有様じゃ。もっと十分な体制を整えてからでも遅すぎるということはなかろうて……」
「はい。僕も初めはそう考えていたんです。ですが、この今の状況であれば攻めて出た方が、最終的には勝機に繋がるという考えに至りました」
「ふむぅ。……もう少し根拠を示せ」
「はい。皆さんも考えてみて欲しいのですが、仮に、こちらが霊虎に対して有効であると考えて砂鉄爆弾を送り込んだとします。相手に確実に打撃を与えたハズ、そう思ったところで、作戦は終了させますか? ましてや、二発目から四発目は果たして成功したかどうかわからない状況。その上さらに、ひとつの物差しである列車は動き始めた。四発目はその列車に乗せてみたものの、その後の運休はなかった。もう砂鉄爆弾の対応はすっかりとされてしまったと考えられる。ならば、次の作戦で、追い打ちをかけよう! となりませんか?」
「確かにのぅ……」
「つまりこのまま何もせずにいれば、霊虎は確実に波状攻撃を仕掛けてくるということです。どんな攻撃を仕掛けてくるかはわかりませんが、何かしら攻撃してきます。せっかく立て直した態勢も、また崩されるかもしれません。何より、攻められっぱなしです」
「ふむ。なかなかに手痛いところを突くのぅ」
「もう一度戻します。初手で砂鉄爆弾攻撃。一時的に効果あり、が時を経て、相手は防御態勢を整えたと考えられる。ならば、ここで二手目の波状攻撃。と、考えているところです。このときに自陣を攻められるという発想は出てきますか?」
「うむ。確かに考えにくい状況ではある」
「そうです。仮に防御態勢を整えていたとしても、攻められるとは思ってないんです。油断といっていいでしょう。これがひとつ目の理由です」
「なるほどの…………」
「もうひとつの理由は、ねこ父にはすでにお話ししましたが、霊虎は大量の霊的エネルギーの確保を目論んでいましたが、今回の作戦の失敗で恐らくは十分には獲得できていないと思われます。こちらが列車の早期運行再開をできたからです。欲しいエネルギーが得られなかった。これは、相手は攻撃能力を十分に発揮できない状況下にあるということです。つまり、波状攻撃を仕掛けるべきタイミングなのに、計画の変更や見直しを余儀なくされている。戦局は優位なのに弾切れ寸前、といったところです」
「なるほどのぅ。ようわかった」
「ただ、霊虎討伐は二の次、三の次で構いません。もちろん討伐できればそれに越したことはないんですが、今の状況でそこまで出来るとは僕も思っていません。今やりたいことは『攻める!』ということです。これだけで相手を慎重にさせることができ、うまくすれば、いくつかの拠点を叩き、敵の計画の更なる遅れを生じさせることができるかもしれません。攻撃は最大の防御なり、です」
「よかろう! では、霊虎襲撃作戦を立てようぞ!」
また、空気が張り詰める。
けれど今度は、やってやろう! という高揚感で溢れた空気だった。
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