先回り

エリー.ファー

先回り

 火の手が上がる。

 ここから外に出ることはできない。

 だとするならば、時間切れ。

 ここで死ぬということか。

 覚悟を決めろということか。

 死ぬ前の時間は残り僅かである。

 何をしよう。

 何もできないが。

 

 思考だけは常に自由である。それは制限されることのない一冊の本に等しい。

 悲壮感の中で生きていくのは余りにも酷だが、それゆえに私たちは人間を名乗ることができる。文化に埋められたすべてを発掘するのが藝術の本来の仕事だと思っている。

 あふれ出る知性と理性は、感情を凌駕しながらも必ずと言っていいほど、情熱というものを高く評価している。重要なのはバランスである。何が大切で、何が回答として適切なのか。

 定義を作り上げていく過程の中で、私たちの歩幅は合っていくのだ。

 会話を行わなければならない。

 共有されるべき情報は、真夜中に生まれる一瞬の隙をついて発生するものだ。

 だからこそ、先人たちの言葉は常に価値が高く、つまるところ歴史という名が冠されることに繋がる。

 倫理は形作られているものの、無意味である。盲目的に従う限り、それらは全くの役立たずだが疑いによって非常に有用な道具となる。使いこなすことができないのなら、備えるべきではない。むしろ、神に供えるべきだ。何かも失って形すら分からなくなったとしても。

 定められた決まり事が持つ効力は人間の想像をこえている。その事実は、人間が作り出した決まり事という枠組みすら破壊してしまうほどである。人間の勘違いは支配できる範囲を誤ることである。ただし、その結果として取り返しのつかない文明を作り出し、その結果を享受できている。

 世界は壊れてから構築されている。しかし、再構築には至っていない。要素の排除によって生まれる。

 歪められた問題には、常に出題者の悪意がある。取り除かなければならないが、それは文章ではなく該当する人間である。私たちはモラルを行使することによって、望みを叶えようとしてきたが、通用しない課題があることを知っておかなければならない。実力行使であってはならない。暴力であってはならない。ただし、才能による蹂躙である場合は許可されるし、最大に等しい利益を得ることができる。

 心の動きをよく観察するべきである。誰もがその手段を探すが、完璧なものは存在しない。常に前を向き、常に歩き続ける。常に思慮深く、常に自分を忘れてはならない。言い聞かせるべき事柄でもない。

 占いとは人間が作り出した遊戯の中で最も上等である。運命を娯楽の装置として扱うことができたのは、人間の尊大さを示している。

 春夏秋冬を繰り返し、準備はすべて整った。




 私は無傷だった。何も失ってなどいなかった。

 気が付けば、椅子に座り見下ろすばかりである。

 見上げれば空もない、星もない、月もない、宇宙もない。

 ただ広くて白い視界である。

 時間的、距離的概念は存在しない。しかし、空虚ではない。満たされている。

 経済的にも、精神的にも、人間的にも、社会的にも。

 高みなのだそうだ。

 そのような会話をたまにするが、中身がない。

 それは私も、私以外も分かっていることだ。

 何人か近づいて、地面をうっすらと見ながら笑っていた。

 意味が分からなかった。

 



 夕食のデザートにクレープケーキを食べた。

 美味しかった。

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