第240話 伊勢沖に向かって
明智左馬助は筒井、蒲生を引き連れ滝川領へ入りました。城を一つ一つ落としていく作戦です。
「蒲生殿。慌てなくても良い、一つ一つじっくりと攻め落としていけばいいのだ」
「明智様。そうは言いましても戦は何があるかはわかりません。敵の補給がないのは確かなのでございますか?」
「手は打ってある。このまま攻めあがればそれで勝つ。織田信忠は折角の好意を無駄にしおった。かつての主筋なればと思っておったのにふざけおって。殿より潰せとの仰せだ」
「と言っても滝川一益は織田の司令官の一人、そう簡単にはいきますまい。殿はどうされている?」
「信忠が動けぬよう抑えに回っている。武田の主力は東北だそうだし、慌てる事はない」
それを聞いていた筒井定次は、以前攻め切れなかった事を口に出した。
「明智様。前回は海からの補給があり攻め切れませんでした。武田の水軍は強いと聞いています。どのような手を打たれたのですか?」
「船が陸に近づけなければいいのだ。それだけだ」
駆逐艦欅、武田信豊が所有する船です。武田水軍の主力は高天神城に集約していますが、駿河湾には清水港に、三河湾には名古屋港に小さいながらも水軍の拠点がありました。名古屋港は信豊の管轄で主力の欅の他にも小型船や貿易用の輸送船も配備されています。
欅には小田原決戦後、徳親衛隊のかなが乗るようになりました。徳、ゆづ、はな、かなの仲良しはちゃめちゃ軍団も経験を積み各々が個々に活動を始めています。
「はなは清水なのになんで私が名古屋なのよ。どんどん高遠から遠くなるし」
かなは整備をしている男に話しかけます。欅の整備をしているのは、大崩にあった造船所の生き残りで善左衛門という男です。竹中半兵衛の信頼も厚く、名古屋の所長扱いです。
「かな様、高遠というと信濃ですか?清水とさほど距離は変わりませんよ」
「そんなのわかってるわよ、気持ちの問題よ、気持ちの」
ゆづ、はな、かなはみんな独身です。徳についている間に婚期を過ぎてしまいました。徳はそれを不憫に思ってか引退してどこかに嫁にと勧めてくれましたが、3人とも断っています。かなは歌って踊れる砲撃手です。あれだけの経験をしてただの主婦なんてありえません。徳は仕方なく褒美にと3人に役職を与えたのです。
ゆづは再開発中の小田原城下に武田商店を開き、店長を任されています。武田商店は、海軍を使って輸送された各地の名産品を売るお店で、全国に展開しています。宿屋も兼ねていますが、実態は武田忍びの拠点となっています。小田原城は今建設中ですが、工事人が多いため繁盛しています。偵察に現れた敵の草を尾行したり殲滅するのがメインの仕事になっています。
勝頼は最初駿府に武田商店を開きました。そこは、特殊部隊ゼットのチーム甲の拠点でしたが、今は駿府の武田商店は、はなに引き継いでいます。急速に領地を広げた武田勝頼ですが、その分色々な物を全国展開しなければならなくなりました。まず強化が必要なのは関東以北です。チーム甲のリーダー錠の怪我が治った時に、チーム甲は拠点を関東に移すことになりました。
はなは駿府の武田商店を見る傍ら、清水港の近くにある倉庫も拠点にしています。貿易による収入は武田にとって重要な資金源です。計算が得意で要領もいいはなは全国の武田商店への流通も任されているのです。
かなは最初上杉の領地である越後の武田商店を任される予定でした。ですが、船に乗っていたいと要望を出したため、名古屋配属になっています。
「かな様。越後行きを断られたという噂が出ていましたが本当ですか?」
「そうよ。一度駿河に住んでみなさい。雪が少ないのがどれだけ幸せか。それに徳様とたまには会いたいし、こっち側の方が良さそうじゃない。絶対こっちで戦になるよ。その時こそは徳様親衛隊の出番なのよ!その時まで腕を鈍らす訳にはいかないの」
「それで船にですか。ならば名古屋の方が清水よりいいのではないですか?あんなに愚痴らなくても」
「そうなんだけどね。欅は慣れてるし、ただ源三郎がねえ」
源三郎。武藤喜兵衛の嫡男で武田信豊のところへ出仕しています。頭がいいのですが喜兵衛と違って理知的なのでちょっとムカつくのです。かなは喜兵衛の事を子供の頃から知っていますので源三郎、源二郎が小さい頃に遊んであげた事もあるのですが、今は上司になってしまいました。
「武藤様ですか?そんな呼び捨てにしていいのですか?」
「誰も聞いてないからいいのよ。源二郎は面白みがあるんだけど源三郎はなんかねえ」
「そんな事言って、源三郎が聞いたら泣くぞ。あれはあれでかな殿が来てくれて喜んでいたのだぞ」
かなはヤベっと思って振り返ると声の主がいました。かなは何事も無かったように
「信豊様、わざわざお越しになられるなんてどうかされたのですか?」
「出港してくれ。行き先は三河沖の戦艦駿河マークIIだ。話は中でする、急いでくれ」
かなは小型船3隻を引き連れて出港しました。
「信豊様。さっきの話本当ですか?」
「源三郎の事か、本当だぞ。喜兵衛からもかなを頼りにするようにと言われているそうだ。よっ、人気者!」
「私は徳様の後ろで支えるお役目でしたのに」
「見ている者は見ているという事だ。ゆづ殿もはな殿もかな殿もその功績は素晴らしい。今後は余の為にもその力を使って欲しい」
「ありがたきお言葉にございます」
「で、なんだけど駿河着いたら徳ちゃんに会わずに先に伊勢沖に行ってね、これ命令ねよろしく」
ひ、ひどい。かなはそんなもんだと思いながら伊勢沖に向かって進み始めました。
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