第122話 椅子取りゲーム

信玄と勝頼は京の街並みを散策しながら二条城へ向かっています。実は2人共京は初めてなので周りをキョロキョロとお登りさん状態ですが、お互いに恥ずかしいのか顔には出しません。寺を出た時から2人の周囲には護衛の旗本が付いていますが彼らも京は初めてなので護衛以外には役に立ちません。


「勝頼、二条の館はこっちではないのか?わしの勘がここを左に曲がれと言っておる」


「父上、それでは鴨川を渡ってしまいます。二条御所はまっすぐいってから右です」


「なんでわかるのだ?お前も京は初めてくるのであろう?」


「そうですが配下の者が下調べを済ませておりますので。そこの屋根の上にいるのが例のゼットの人間です」


 勝頼の目線の先に、信玄に向かってピースサインをしている桃がいました。桃はチーム甲、勝頼空軍のメンバーで今回は護衛として同行しています。チーム甲は、徳の弟である錠がリーダーで紅、桃、黄世、紫乃がメンバーです。今回は錠、紅、桃が護衛についています。残りの2人は川根の訓練場で新兵器秘密特訓中です。


「勝頼直属の戦闘部隊だったな。道案内もしてくれてるのか?だがあの指を二本出す合図はなんだ?初めて見るがどういう意味だ?」


「父上。あれはピースというのです。よろしくお願いしますとかご苦労様とか、何かをした時のいい意味で使う合図です。ですが、」


 勝頼は桃に向かっておいでおいでの合図をします。桃は人目につかないように屋根から降りて信玄と勝頼の前に膝まづきました。


「桃、父上に対してピースは失礼であろう。ああいう時は頭を下げれば良いのだ」


 桃はシュンとしています。すると信玄は、


「これが時代が変わるという事なのか。謙信めもだから次の世代に、むむむ……………… 」


 桃は頭を下げて配置に戻っていきました。ものすごく敬うべき人にピースはないでしょう。徳のせいですね、これは。とはいっても特殊部隊は武藤喜兵衛の管轄です。後で説教です。ところが信玄を見ると、信玄は怒っていないどころか悩んで呻いています。


「父上。大丈夫ですか?部下が失礼な真似を致しお詫びいたします」


「いや、そんな事はいいのだ。大事な事を忘れていた。そうだ、勝頼。控えさせている100騎をよべ!武田の旗を揚げよ!武田信玄、武田勝頼の上洛である。二条御所まで行列を組んで進もうぞ!」


 そういえば、初上洛でした。信玄は武田の威厳を少しでも見せたかったのです。公方より上洛の際、最大100騎までは同行の許可が出ていますので問題はありません。


 そして念願の風林火山の旗を掲げた武田家の上洛がここに実現したのです。






 二条御所、勝頼達が到着したのは集合時間の一刻前でした。なんだかんだで時間を食ってしまいギリギリになってしまいました。勝頼は足利義昭に挨拶しようと申し出ましたが準備で忙しいと断られたので、徳を探しに謙信の待機部屋に向かいました。徳が謙信とどんな話をしてるやら…………、考えるだけで頭が痛くなります。向かう途中で明智十兵衛がオロオロしているのを見かけました。何事かと近くまで行って様子を伺うと、どうやら大広間で行われる大名の座る位置で苦慮しているようです。


「明智殿、しばらくでござる」


「これは武田様、今お着きですか?来られないかとハラハラしておりました」


「今さっき着いた。心配かけたか、それはすまない事をした。で、何を焦っておられるのだ?」


「はい。すでに毛利様、長宗我部様、朝倉様、大友様、島津様、伊達様、最上様、佐竹様、そして上杉様がいらっしゃっておるのですが、どなたもご自分が上座だと思っておられるようで。事前に席を決めておきたかったのですが何をどうしても揉め事になりそうで」


 つまらん事に神経を使う男だな。面倒くさい。


「それならば自分で好きなところに座らせればいい。信長殿はどこの予定だ?」


「上様を上座として左右に一列、上様から見て左の一番近いところが信長様のお席です」


  公方に近いところが上座だ。誰もが上座に座りたがるということか。


「早い者勝ちにしたらどうだ?余が信長のところへ座ろう。父上はその横でいいぞ。両側を武田がとっては揉めるであろう」


 と言って勝頼はいち早く信長の席にあぐらをかいて座りました。この明智十兵衛には以前からムカついていたのでちょっとした嫌がらせでした。焦ったのは明智十兵衛です。


「武田様、お待ち下さい。各大名の方々がそういう無理難題を言うので困っておるのです。誰もが上に立ちたがるので」


「それはそうであろう。この戦国時代、領地の取り合いをしている中で仮に会合の席とはいえ、敵に譲ろう物なら戦に負けを認めたと同じ事だ。そのくらいの事は分かって大名を招集したのであろう。十兵衛殿、公方の真意はなんだ?こうなるとわかっていてなぜお主は止めなかった?」


 明智十兵衛は答えませんでした。ここで勝頼に腹の中を探られる発言はできないのです。適当に取り繕った回答をします。


「公方様の命令に従っただけでございます。それがしなどに公方様を止める事など出来ません」


「嘘を申すな、まあいい。席の事だがこんなのはどうだ?武田八陣の中に円陣というのがあるのは存じておろう」


「はい。ですがそれが何か?あっ、それならば。妙案ですぞ武田様。助かり申した」


 随分と簡単に決断したけどいいのかね?勝頼が言ったのは足利義昭を中心に座らせて、等距離に座布団を置き、大名を好きなところに座らせるといった方法でした。


「公方の背後を取らせていいのかな?まあ、この場で何かをしでかす輩はいないだろうけど」

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