第53話 勝頼が今川の嫁をもらった件

 勝頼が今川の嫁をもらった事について各武将はどう考えたのであろうか?


<徳川家康>


 家康は酒井忠次から勝頼が嫁をもらう話を聞きました。酒井忠次は三雄の歴史では後に徳川四天王と呼ばれる4人に入る功労者です。ちなみに四天王とは酒井忠次のほか、本多忠勝、榊原康政、井伊直政を言います。年齢は酒井が上で本多、榊原は下の世代、井伊直政においてはさらに下の世代です。この時はまだ井伊直政は小姓にもなっていませんし井伊家は今川に属してます。譜代では無い井伊家が幕末まで続き大老にもなるのですから世の中は不思議がいっぱいです。


 さて、家康は今川から嫁を向かい入れると聞き驚きました。


「忠次、信玄は義信が死んだあと今川の嫁を返した。義信には今川と組んで謀反の疑いがあった、それには間違いはないか?」


「はい。草の情報では確かに義信は死に、今川から来ていた義信の妻は離縁となり駿河へ戻されました。今川館に於津禰というその女が戻っているのは間違いありません」


「どういう事だ?信玄は今川と事を構える気がないのか?なぜ、また世継ぎ候補の勝頼に今川の嫁をもらうのだ?」


 前回、穴山と勝頼が岡崎に来た時にはいずれ今川の領地を双方で攻めて奪い取る構想を話し合ったのです。あれは策略で実は違うのか?今川と組んで三河を攻めてくるというのか?不安が先行します。そこに酒井忠次が、余計な事を言います。


「それと、織田信長様の養女と武田五郎盛信との縁談が決まりました。最悪三河は孤立無縁になるやもしれませぬ」


 家康は織田信長、武田信玄との関係を強化すべく思案し始めました。勝頼の結婚祝いは酒井忠次に運ばせ、探りを入れさせました。



<織田信長>


 織田掃部から五郎盛信と養女にした雪との縁談がまとまりとりあえずホッとしたところに勝頼の縁談話が飛び込んできました。まさかの今川義元の娘です。


「信玄め、何を企んでいる?」


 そこに木下藤吉郎が現れた。


「お呼びでございますか?」


「おう、猿。お前は以前駿河にいたな、実は武田信玄が………」


 信長は今川の嫁をわざわざ帰したのにまた今川から嫁をもらおうとしている状況を告げました。


「信長様。今川氏真は木偶の坊です。あんなのはいつでも倒せましょう。それがしが思うに時間稼ぎでは。信玄が病んでいて直ぐには責められないという噂もありますゆえ、何かしらの理由で今は事を荒だてたくはないということです」


「それだけだと思うか?」


「まだあるので?」


「たわけが、誰の案かは知らぬが楽しんでおるのよ、この俺を混乱させようとしているのだ。さすがは信玄。なに、あと数年経てば武田など屁でもないわ」


「その際には是非この藤吉郎に先陣を………」


「たわけが!お前なんぞ信玄の前に出たらあっという間にあの世行きぞ、下がれ!」


 藤吉郎はなんで呼ばれたかわからぬまま下がっていきました。信長は藤吉郎と会話をしながら信玄の思惑を理解したのです。この時の信長には勝頼のかの字も頭に入ってはいませんでした。


<北条氏政>


「信玄め、義理堅い振りをしておるわ」


「父上、振りと申しますと?」


 氏康は意味を理解しない氏政にイライラしはじめます。


「わからぬのか?」


「同盟国との縁が切れるのを防いだのでは?」


「ふん、そのような単純な話ではない。お前は氏真を、いや今の今川をどう思う」


「氏真は好戦的ではありませんが、優秀な重臣がおりますので手強い相手かと。同盟を結んでおれば我等も関東を攻めやすく、仲良くしておくべきかと」


「信玄はどう思っているだろうな?わかるか?」


「他人の考えはわかりませぬ」


「そこよ、それをどう推測し先を読むか。信玄はそれに長けている。わしにはこれは策にしか思えん。おそらく近いうちに向こうから挨拶があるだろうな」


「挨拶、ですか?」


「もういい、下がれ!」


 氏康は氏政の愚鈍さに呆れながらも氏真よりはマシか、と前向きに考えました。近いうちに信玄から申し出があるのだろう。今川分割について。

 北条にとって武田は上杉の抑えなのです。それは武田も同じ事、表面上の関係ですが戦局を大きく左右する関係です。


<上杉輝虎>


 輝虎は、川中島で上杉の策略に簡単に引っかかり無様な醜態を晒した武田義信を処罰したと聞いて、


「ふん、あの愚か者が跡を継げば良いものを。さすがは信玄、身内でも容赦しない」


 と呟いたとか。ところが、今川の再度縁を結ぼうとしていると聞き意図が分からず混乱しました。武田は信濃の決着がついたと思っているでしょう。実際、上杉は関東管領に任命され北条の相手をしなければならず、さらに一向一揆の鎮圧にも勢力を削がねばならず信濃へ攻める余裕はありません。

 武田の次の狙いは東海道だと思っていました。折角縁が切れたのだから攻めやすくなった今こそ機ではないのか、と。


 ふっと川中島から善光寺に戻る時の事を思い出しました。思えばあの時、善光寺からの兵が間に合っていれば武田信玄はこの世にいなかったのです。それを邪魔した者がいました。


「主な武将は川中島にいた筈だ。ならば誰だ?」


 山から鉄球を飛ばした攻撃があった事はわかりましたがどうやったのかはわかりませんでした。山にあった人の気配、後日、部下を派遣して調べさせましたが兵が配置されていた痕跡が残っていました。


「どこかでぶつかる事もあるだろうが先の事は誰にもわからない。その勝頼とかいう男、どんな器か?」


 結婚祝いを送り運搬人は間者として派遣しました。今回は堂々と躑躅ヶ崎の館へ近づけます。なにかがわかるとも思えませんが勝頼に関する情報は持っていません。公式には初陣前ですからなくて当たり前です。


「上杉から祝いの品が届いて信玄はどんな顔をするかな。それを考えるだけでも面白い」




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る