P3

隠井 迅

プロローグ(Prologue)

 西暦二〇二X年――

 世界は〈パンデミック〉の猛威に見舞われた。


 社会における人々の共通認識、すなわち、〈パラダイム〉は一変してしまった。

 例えば、日々の生活面においては、施設に入る際に、検温や手指の消毒が求められたり、飛沫感染防止の観点から、レジには、店員と客の間に透明のアクリルシールドが設けられた。

 そして、仕事の在り方に関しては、時差出勤が推奨されたり、〈在宅・ワーク〉や〈リモート・ワーク〉など、会社以外の場所で仕事をしたり、会議なども、端末のミーティング・アプリを利用して、人を一つの空間に密集させないために、オンラインで行われるようになった。


 隠井迅は、大学で講義をすることを生業にしている、とある大学講師なのだが、このパンデミックのせいで、大学は春学期いっぱい閉鎖されることになり、当然、前半期の講義は教室で行うことが不可能になった。

 だがしかし、学生たちから〈知〉を享受する機会を奪ってはならない。この方針の下、全ての大学教師は、いわゆる〈オンライン〉講義をせざるを得なくなったのである。

 だが、教師も学生も、即時、オンライン講義を授受できる環境が整えられるわけではない。そのため、通常、四月に設けられている春学期の開始時期は、ゴールデンウィーク前後に移行され、この四月の一ヶ月の間は、双方におけるオンライン講義の準備期間とされたのだった。

 

 この物語は、社会が〈Pandemic(パンデミック)〉のせいで、〈Paradaim(パラダイム)〉の転換を余儀なくされた、こうした状況下において、講義準備〈Preparation (プレパレーション)〉に悪戦苦闘する、とある大学教師〈Professor(プロフェッサー)〉の、三つの〈P〉を描いた物語である。


注意:この物語は、たとえモデルがあるにせよ、あくまでもフィクションであり、実在の人物・団体・事件とは、一切関わりがないことを、ここでお断りしておきます。

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