解説

エリー.ファー

解説

 ここから先に問題がある。

 解決をしなければならない。

 大切に保管された事実がある。これらを捨て去るのが物語である。

 状況を分析することでしか、私たちは前に進めない。そのために時間を消費するが、結果的に理解できないのであれば愚の骨頂である。本質は理解にある。知識として表面的に流し込むことに意味は存在しない。

 解説を行っても、距離を感じるのは言葉の問題である。

 心の距離であると思われがちだが、より表面的な部分にこそ問題は存在している。


「解決をお願いしたいのです」

「誰に願っているのか」

「あなたです」

「私には不可能だ」

「解説をしてください」

「できない。諦めろ」


「このままでは、人類が消えてなくなります」

「いいじゃないか、別に」

「よくないでしょう。観測者としての責任を感じないのですか」

「感じないね」

「解説をしてください」

「解説というか、説明だと思うんだけれども」

「なんだっていいです」

「まぁ、少しだけ考えてみてよ」


 悲壮感が嫌いだ。

 憎しみを滲ませる人が嫌いだ。

 噂では、ここから先に死体が積み上げられているらしい。

 嘘をつくべきではない。

 分からないまま終わることを望んでいる。

 そうでなくては、人間ではない。

 この議論は本質に近づいている。


「解説をお願いします」

「解説はしない」

「なければ、これを使用することはできません」

「使用しなさい」

「お願いします。解説をしてください。私は、もう怖くて怖くて」

「いいから、始めなさい」

「でも」

「始めなさいっ」

「人が、死にます。取り返しのつかないことになります」

「だとしても、私たちの責任ではない」

「それでも、研究者ですか」

「だからこそ、研究者だ」


 調査は必要だと思っている。しかし、解説はなくてもいいだろう。何せ、全員が困惑しているのだ。

 百を数える研究を行う。

 絶対に近づいてはならない。


「夜を数えなさい」

「もう、数えるのも飽きました」

「飽きても数え続けるのがあなたの価値です」

「殺してください」

「殺しません」

「殺して下さい」

「殺せません」

「死んでやる」

「あなたは死ねません。死ぬ権利も与えていない」

「死にたい、死にたい」

「気持ちは分かります」

「じゃあ」

「でも、殺しません」


「執行します」

「お願いします。書類の用意だけはちゃんとして下さいね」

「後でやります」

「今、やってください」

「別にあとでもいいでしょう」

「いいわけないでしょう」

「いや、いいでしょ」

「いいわけないでしょ」

「執行します」

「中止です」


 問題というものの重要性は、その答えにあるのではない。問題という存在、そのものにあるのだ。性質として認めなければならないのだから、厄介そのものである。

 解説は後ほど行う。

 楽しみにしていただきたい。


「結果的に不正解ということになりましたが、回答者の久田さんいかがだったでしょうか」

「とても楽しい一日でした。クイズには自信があったんですが、最後の最後で間違えてしまうなんて、詰めが甘かったとしか言いようがありません。お恥ずかしい限りです」

「いやはや、謙虚な方ですね。正直、ここまで正解されるとはスタッフも想像していなかったのではないでしょうか」

「あぁ、そうですか。それはそれは」

「ぜひ、また遊びに来てください。それではまた来週です。ごきげんよう、さようなら」

「あの、問題の解説は」

「そんなものはありません」

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解説 エリー.ファー @eri-far-

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