絶対死ぬラスボス令嬢に転生しましたが、なにがなんでも生き延びてやりますわ!
天笠すいとん
第一部 転生・幼少期編
第1話 元一般人ですがラスボスに転生したようです。
「あー、私のばかばかばかばか!」
独り言を呟きながら天蓋付きのベッドの上を右へ左りへゴロゴロ転がる。
せっかくの綺麗な髪がぐしゃぐしゃになっていくのもお構いなしだ。
「そりゃあ、ゲームの中のキャラみたいにキラキラしたいとは思っていたけどさ!!」
室内にある姿鏡に写るのは絶世の美少女。
ツヤのある漆黒の長い髪に妖しげな紫紺の大きな瞳。雪のように真っ白な肌と対照的な真っ赤な唇が少女の存在をこの世のものとは思えないような妖精に仕立て上げている。
まぁ、それも今は目が死んでいるのと口を曲げているせいで台無しである。
「どうしてよりによってコイツなの!?」
ノア・シュバルツ。
それが少女の名前であり、今の私の姿。
どうやら私は乙女ゲームに登場するラスボス系悪役令嬢に転生してしまったようだ。
***
「ふわぁ〜。仕事行きたくないよぉ……」
月曜日の朝というのはなんて憂鬱なんだろうか。
大きなあくびをしながら私は通勤ルートを歩く。
アパートを出て行きたくもない会社へと向かうことがこんなに苦痛だったなんて学生の頃の私は思わなかっただろう。
今も二十代ではあるから若いんだろうけど体は高校生の時と比べれば衰えている。
平凡な高校を平凡な成績で卒業してなんとなくで大学に進学して流されるがまま就職。
すでに同期の数は一人になっており、その子も遠くないうちに寿退社が決まっている。
いいなぁ結婚。
『あなたって優しいからすぐ恋人できるわよ〜』
『面倒見のいい先輩ならモテますって〜』
私の人生でいつも言われていた言葉を思い出す。
結局、そう言って誰ともお付き合いをしなかったし、面倒見がいいと言ってくれた後輩男子が同期の結婚相手だ。
まぁ、ずっとこうして生きてきたから学生時代から恋愛と無縁だし、今更になって誰かと付き合うなんてあり得ない。
「って、電車乗り遅れる」
モノローグに没入していても体は正直者で行きたくないのに乗車してしまう。
なんとか間に合った車内はまだまばらにしか人がいないが何駅か進めばいつもの満員電車になる。
私は空いてる席を見つけて座り、鞄の中から持ち運び用携帯ゲーム機を取り出す。
忙しい社会人のである私の貴重な楽しみ、それがゲームだ。
格闘やアクション、RPGと幅広く楽しんでいる私が今ハマっているのは乙女ゲームだ。
普段ならお近づきにもなれないイケメン達がホイホイ寄ってきてヒロインちゃんをチヤホヤしてくれる。
自分が恋愛をするのとゲームの恋を見守るのは別ものなのだ。
「ぐへへっ。今日はどの殿方を誑かしてあげましょうかね」
周囲の人に迷惑にならないようにイヤホンをしてゲームを起動させる。
最近遊んでいる乙女ゲームは剣と魔法が出てきて、最終的には世界を我が物にしようとする魔王みたいな敵を倒さなくてはならないというファンタジー戦記みたいな世界観にガッツリ恋愛要素が入っている非常に私好みの作品だ。
「そういえば公式からアプデのお知らせもあるんだっけ? 昼休みになったらネットで調べようか」
OPのムービーをスキップして見慣れたタイトル画面に辿り着く。
《輪廻転生物語 エターナルラブメモリー》
大手ゲーム会社が開発した人気作。
ヒロインがいる大国はとある理由で王族が全員亡くなってしまう。
王のいない国をまとめ上げるのは五大貴族と呼ばれる特級階級の貴族で、元捨て子のヒロインは育ての親から魔術師が通う国立の学園に入学させられる。
そこで五大貴族の次期当主達と交流を深めながら心体を鍛え、国に迫る悪と戦って最終的に攻略キャラ結ばれて幸せになるという物語だ。
大雑把なストーリーはテンプレだけど、王道展開はやっぱり胸を熱くしてくれるし、神絵師達を集めて若手からベテランまでの声優陣を採用して莫大な予算で殴ってくるので評判は高い。
そんな作品に嵌った私はゲームのシナリオライターさんのSNSをフォローしたり初回特典の攻略キャラ達のポスターを壁一面に貼ったりしている。
「セーブ地点は……あの女の手前か」
現在攻略中のイケメンとヒロインちゃんが画面の中でとある人物と対峙している。
この作品の中でどのルートでも現れる共通の敵。
物語の序盤から姿を見せて主人公ちゃんに意地悪をしながら終盤にも立ちはだかるゲーム内最強の相手。
このキャラを倒さないと世界が滅んでハッピーエンドが訪れないのだ。
「ノア・シュバルツねぇ……」
それが五大貴族の一つ、シュバルツ公爵家の一人娘にして悪女。
容姿端麗なくせに狂っているとしか言えない性格破綻者で、作中で起こる事件の大元を辿ると大体はこの女が糸を引いている。
「さて、悪者退治と行きますかね」
悪い貴族の御令嬢にはさっさと消えてもらってイケメン達のハッピーエンドスチルを解放しなくちゃ。
「あともう少しで全ルートクリアだし……」
ここのところ徹夜でゲームをしていた私の眠気は頂点だった。
仕事の疲労があるのにいつまでも学生気分で夜更かしをしていた私はゲーム機を握りしめたまま眠ってしまった。
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