2021.12/12

 母が病院に滞在を始めて三日目。病院から特別の許可が降り、弟とのテレビ電話をすることとなった。両親はこれまでに何度か面会をしているが、感染対策のせいで私は面会に同行することを許可されていなかった。その為、私にとっては弟が倒れた日以来の対面となった。画面越しに見た弟は酷く弱っていた。野球部で鍛えられて付いていた筋肉は落ち切っており、ふっくらと柔らかかった頬も痩けていて硬そうであった。それでも、外見は変わっていても、弟は弟のままであった。筆談ではあっても約半月の空白を感じないそれまで通りの雰囲気で話をすることが出来た。私が話している時、父はカメラから外れて静かに涙を流していた。

 そして今日は、母が作り置きしていた夕飯も尽きてしまっていたので父が夕飯を作ってくれていた。父が作ったのはカレーであった。この三日間はほとんど私たちの間に会話はなく、数少ない会話も事務的なことであった。だから、食事時も特に話すこともなく、黙々と食べていた。それでもこの日は、

「うまいか?…口に合うか?」

「うん。おいしいよ。…これくらいの辛さが食べやすくていい。」

 こんな風な短い会話があった。

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