2021.11/29

 今日は弟が隣県の大学附属病院へ転院する日である。弟の意識はまだ戻っていない。けれども心機能は僅かながら回復の傾向にあるらしかった。そんな私は今日も変わらず学校があった。共通テストが約一ヶ月後に迫っていた。学校で友達と居ると気が楽であった。そこで生まれた心の余裕のおかげか、私は少しずつ現実を受け入れつつあった。正直な話、家にはあまり帰りたくなかった。弟が倒れた日以来、父は夜な夜なトイレや風呂ですすり泣き、母は何とか自分を保っていたが、その足元は覚束無かった。そんな家の空気は当然鉛のように重く息苦しかった。受験への不安なんて口に出来ないほどに。

 私はとにかく普段通りに振る舞うことを心掛けた。「意識しすぎると弟への負担になるから。」なんて母に言っていたが、本当は自分を楽にしたかったのかもしれない。

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