第15話 初めてメイドと外出した

 リアラと調理器具や服を買いに行く約束をした次の月曜日。俺とリアラは電車に揺られていた。


「なあ、あの子やばくね?」


「ああ、可愛いっていうか、美人ってのが似合うな」


 電車の中では、リアラに多くの男から視線が向けられる。ヒソヒソと話している声もバッチリと聞こえていて、内容については俺も同意である。


「……大丈夫か?」


「問題ありません」


 リアラは視線を向けられる事を嫌そうにしている。正確に言えば、ほんの少しだけ怯えているようだ。

 この反応は教室にいるときでも同じだ。視線……特に男子からの視線は、過去の経験からの拒絶反応が出ていると言ってもいいだろう。


 電車を出てからも視線が向けられることが続く。それほどまでにリアラの美貌は、存在感を放っているのだ。


「そういえば、二人で出かけるの初めてだな」


「そうですね。私一人でもよかったのですが」


「冷たいなぁ」


 一緒に行きたいとは言ってくれない。だが、初めてあった頃より声の感じが、絶対に嫌とは言い切れないように聞こえる。少しは柔らかくなってくれたのか、それとも俺の耳にそう聞こえる補正でもかかっているのか。


「あ、ごめん、ちょっとトイレ行ってもいいか?」


 ちょうどコンビニの前で、電車に乗っている時から我慢していたため、今すぐにでもトイレに行きたかった。


「はい。私は外で待っていますので」


 俺はコンビニの店員に一言声をかけ、トイレの中に入る。


「早く戻らないと。待たせたら悪いし、ラノベのような展開になるのはごめんだし」


 全て出し切った俺はすぐにトイレから出て、コンビニの中からリアラの方を見ると、嫌な予想通りにチャラそうな金髪と黒髪の二人組がリアラに言い寄っていた。


「ベタすぎて言葉が出ない……」


 すぐに俺はコンビニを出て、近くによって金髪の方の男に声をかける。


「あの、その子俺のつれ」


「うるせえよ」


 俺が言い切る前に男に俺は突き飛ばされ、その場に倒れ込んだ。


「どうだい? つれだかなんだか知らないけど、俺らの方が強いし、一緒に来たほうが楽しいぜ?」


 黒髪の男がリアラに手を伸ばそうとした時に、俺はリアラの怯えてしまっている表情を見てしまった。

 

 リアラなら最悪なんとかできると思っていた。だが、リアラの力以上に、記憶にこびりついた恐怖の方が勝ってしまっている。


「おい」


 俺は立ち上がって黒髪の男の手首を掴み、骨の出っ張っている部分を思い切り握る。こいつらナンパできるほど肝が据わっているくせに、体はあまりデカくない。手首をつかんだだけでも細いのが分かる。


「あ、あがっ……!?」


「てめぇ何しやがる!」


「何もしてないのに殴ってきたのはそっちだろ。お前らの下心バレバレだから、早くどっか行ってくれ」

 

「ふざけんじゃねぇ!」


 金髪の男は俺に殴りかかろうとしてくるが、その前に俺は思い切り男の息子を蹴り上げた。


「おおぉっ!? おおっ……」


「早くどっかいけ」


 俺は筋トレはほぼ毎日してるし、握力もかなり高いほうだ。そのため黒髪の男の方も、手首を掴まれた痛みで動けていない。

 俺が手を離すと、まだ動ける黒髪の男が悶絶している男を抱き上げて去っていく。


「大丈夫かリアラ?」


「は、はい……ありがとうございます」


 リアラの強張っていた表情が、安心へと変わった。

 これまでは一人で買い物に行かせていたが、こんなことがあっては心配になってくる。今後は日を合わせて二人で行くことも考えなければいけない。


「悪かったな。俺がトイレなんか行ったから」


 俺はついリアラの頭を撫でてしまった。サラサラな髪の感触は、これまで触ってきたどんなものよりも素晴らしい撫で心地だ。


「あ……」


「あ、いや、ごめん……ついな」


「……いえ、早く行きましょう」


 リアラは少し顔を赤くしたと思ったら、すぐに歩き始めてしまった。


「あ、ちょっ、待てよ」


 俺はすぐにリアラの後を追った。

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