最強ギルドを追放された《植物王》、実は世界樹に選ばれていたので植物の力で無双します
こはるんるん
1章。【植物王】と【世界樹の剣】
1話。闘神の息子、無能と呼ばれて追放される
「アッシュ、お前には完全に失望した。もう俺の跡目を継ぐ資格は無い。追放だ!」
俺は突然、親父から追放を言い渡された。
親父は世界最強の冒険者ギルド【神喰らう蛇】(ヨルムンガンド)のギルドマスター、闘神ガインの異名で知られる男だった。
「……はぁ? 親父、な、なんで俺がクビなんだ? 俺は任務を達成して、部下たちも全員無事に帰還させたんだぞ?」
あまりの物言いに、俺は呆気に取られてしまった。
俺は親父の命令で、部下たちを率いて復活した神獣フェンリルを討伐した。
神獣フェンリルはルシタニア王国の都市をたった一匹で壊滅させた、厄災級のモンスターだ。
王国の誇る騎士団が討伐に向かったが返り討ちにされた。最後の希望として、国王は俺たち【神喰らう蛇】に討伐を依頼したのだ。
このままでは罪もない大勢の民が犠牲になる。どうか助けて欲しいと、国王は頭を下げた。
親父はこの任務を達成したら、俺を後継者として正式に認めると告げた。
だから俺は死にものぐるいで戦って、勝ったんだ。
俺はもちろん部下たちもボロボロになってギルドに戻って来た。
報奨を受けることはあっても、クビ宣告を受けることなど、有り得ないハズだった。
「アッシュ隊長の言う通りです! アッシュ隊長のスキルが覚醒したおかげで、私たちのパーティーは全滅せずに済んだのですよ! なのに、どういうことですか!?」
俺の部下の副隊長サーシャが、猛然と反発する。サーシャはいつも冷静沈着な魔法使いの美少女で、これほどムキになることは珍しかった。
この世界では16歳になると、特別な能力であるスキルが覚醒する。今年16歳の俺は、神獣フェンリルとの戦闘中にスキルに覚醒した。
「その覚醒したスキルが問題なのだ! 代償として、筋力のステータスが80%も低下するだと? ゴミスキルもはなはだしいではないか!」
戦いの顛末は通信魔法を通じて、すでに親父に伝えていた。
当然、俺のスキルの詳細についても報告した。確かに代償が大きいスキルだったが、まさか勝利したのに、ここまで激怒されるとは思わなかった。
「生まれた時から、ずっと目をかけてきたが……この俺の期待を裏切りおって、出来損ないが!」
親父は俺の頭上に拳を振り下ろす。
とっさに腕でガードしたが衝撃を殺しきれずに、俺は床に叩きつけられた。地面がクレーター状に陥没し、ギルドの建物全体が軋む。
「ぐぅ……っ!?」
「やはりか!? ……昨日までのお前であれば、こんな無様をさらすことはあり得なかった。なるたるざまだ、この闘神ガインの息子ともあろう者が! もはや、お前は決して最強にはなれぬ!」
親父は心底、失望した様子で俺を見下ろした。
出来損ないだと? 最強にはなれないだと?
俺は痛みにうめきがら、歯ぎしりした。
俺は親父の跡目を継ぐために、危険度A級以上の魔獣討伐依頼ばかりを昼夜関係なくこなしてきた。
死にそうな目に合ったのは、一度や二度ではない。
親父の期待に応えるため、【神喰らう蛇】の発展のために身を粉にしてきたのに、あんまりな言葉だった。
「アッシュ隊長!? マスター、な、なんてことをするんですか!?」
俺がよろめきながら立ち上がろうとすると、サーシャが肩を貸してくれた。
「スキルは使えば使うほど、進化してくモノです! それをまだ覚醒した段階で、将来性無しと切り捨てるなんて……!」
サーシャの反論に、親父はつまらなそうに鼻を鳴らす。
「ふんっ。おい、スキル鑑定師。もう一度、アッシュのスキルの詳細について教えろ」
「はい。ご子息のスキル【植物王(ドルイドキング)】は、植物を支配するスキルです」
親父の隣に立った見慣れない男が説明する。
どうやら俺のスキルについて事前に知った親父は、スキル鑑定師を雇ったらしい。
スキル鑑定師はスキルの効果のみならず、その将来性、発展性についても、詳しく知ることのできる者だ。
「今は植物を召喚することしかできませんが。スキル熟練度を上げていけば、さらなる能力に目覚めるでしょう。
ただし、いくらスキルを進化させても、代償となる『筋力ステータス80%低下』のマイナス効果は消えません。よって戦闘スキルとしての判定はDランクです。戦士ではなく、薬師などの生産職向けのスキルです。薬師になれば、大成なされるでしょう」
「マスターの息子ともあろうお方が、薬師だと!?」
居合わせたギルドメンバーたちが、ざわめく。中にはあからさまな嘲笑を浮かべている者もいた。
【神喰らう蛇】では、強さこそ正義だからだ。
このギルド名には、天界の神々すら凌駕するという意味がある。
―――――――
【植物王(ドルイドキング)】
植物を支配するスキル。
代償として筋力ステータス80%低下を常時発動。
Lv1⇒植物召喚(触れたことのある植物を召喚する)
Lv2⇒????
―――――――
これが俺が覚醒したスキルの詳細だった。
俺は神獣フェンリルとの戦闘中、植物召喚の能力を使って、薬草として最上級のエリクサー草を召喚した。これを使って瀕死の仲間たちの命を救い、逆転勝利することができたんだ。
あの時は仲間の命を救いたい一心で、無我夢中だった。もしかすると、その想いが天に通じて、このスキルを授かったのかも知れない。
「Dランクの戦闘スキルだと? 恥だッ!【神喰らう蛇】のメンバーたる者は、最低でもBランク以上の戦闘スキルの持ち主でなければならん!」
親父が吐き捨てるように告げる。
「お言葉ですがマスター! アッシュ隊長のスキルは、後方支援としてこの上なく有用なモノだと……」
サーシャが必死になって俺を擁護する。
「今の話を聞いていなかったのか、サーシャ? コイツの能力は、戦闘向きではない。
いいか? この俺の跡取りは、圧倒的な強者、最強でなくてはならん。最強になる可能性の無い者を、これ以上育てるのは時間の無駄だ!」
「ギャハハハッ! そういうことだぜ、兄貴!」
バカ笑いしてやって来たのは、俺の双子の弟ゼノスだった。
「俺様はSランクの戦闘スキル。【剣聖】を獲得したぜ? もう、てめぇなんぞ、いくら足掻いても、この俺様の足元にも及ばねぇ!」
「【剣聖】だと……?」
【剣聖】は剣技の攻撃力や攻撃速度を何倍にも高めるスキルだ。
戦闘能力はゼノスより俺の方がやや上だったが、これで決して埋めることのできない差ができてしまった。
「そういうことだ。これより俺の後釜はゼノスとする! アッシュがここに残ったところで、どうせ惨めな思いしかせん。追放はむしろ慈悲だと思え!」
一片の慈悲もなく、親父はそう宣言した。
要するに俺は、使い捨てっていうことか?
「ま、待って下さいマスター! アッシュ隊長でなければ、とても一番隊はまとめられません。
なにより私は、一日に一度はアッシュ隊長のご尊顔を拝見して、アッシュ隊長成分を補給しなくては精神の均衡が……!」
サーシャが俺以上に動揺して、まくし立てる。
「ヒャハハハッ! 心配しなくても【神喰らう蛇】最強の一番隊、その隊長は俺様が引き継いでやるぜ。サーシャよぅ、これからは俺様がかわいがってやるから、俺様に尽くせ!」
「ひゃ!? な、なにをするんですか!」
ゼノスがサーシャの腰に手を回すと、サーシャは顔を真っ赤にして怒った。
「へっ、気の強い女ってな最高だな。俺様はな、前からお前のことが気に入っていたんだぜ? 兄貴なぞには、もったいない。これから、毎日、楽しませてもらうとするぜ!」
「おい、ゼノス。お前、サーシャをなんだと思っていやがるんだ? 部下を敵に回して、戦場で生き延びられると思っているのだとしたら、おめでた過ぎるぞ?」
サーシャは何度も一緒に死線をくぐり抜けた仲間だ。
俺が怒りを発すると、ゼノスは俺を睨みつけた。
「ケッ、無能が偉そうに。もう一番隊隊長は俺様なんだ。部下をどう扱おうが、俺様の勝手だろ?」
「お前。ソレ、本気で言っているのか……?」
ゼノスはもともと傲慢なところがあったが。【剣聖】のスキルを得て、親父の後継者となったことから、それに拍車がかかっているようだった。
「あっ? やろうってか、植物野郎? イイぜ。ここでどちらが上だか、ハッキリさせてやらぁ!」
俺たち兄弟の間で火花が散る。
次の瞬間、ゼノスは抜刀して斬撃を叩きつけてきた。
速いッ!?
反射的に剣で受けたが、俺はパワー負けして弾き飛ばされた。壁に激しく激突して、一瞬、意識が遠のく。
「アッシュ隊長!? ゼノスさん、実のお兄さんになんてことを……っ!?」
サーシャが悲鳴を上げた。
「ハッハッハッハッ! これで、てめぇが雑魚だってことがハッキリしたな。てめぇが独り占めしてきた地位も女も、これからは俺様のものだ! ずっと目障りだったんだよ! てめぇは、ここで死んどけや!」
ゼノスが容赦なく追撃を仕掛けてくる。
コイツ、そんなに俺が憎かったのか? 衝突することはあっても、心の底では通じ合えていると思っていたのは、俺の勘違いだったのか?
なんとか剣を持ち上げで防いだが、うまく攻撃を受け流せず、剣がへし折れた。
「そのあたりにしておけ、ゼノス。死合を許可した覚えはない」
親父がゼノスの肩を掴んで止めた。
「だがアッシュよ。こうまでお前が醜態をさらすとは思わなかったぞ。力無き者に、何も言う資格などない! この世は力こそ正義だ。悔しかったら、ゼノスより強くなってみせるのだな。おいコイツを叩き出せ!」
親父が居丈高に怒鳴る。
すると他のギルドメンバーが、俺の両腕を掴んだ。
「くそっ……!」
抵抗しようにも、筋力が80%も低下した俺では無理だった。まるで自分か自分でないくらいパワーが落ちており、そのまま外に連れていかれる。
「あっ、待ってください! アッシュ隊長! 隊長!」
「おいサーシャ、次の仕事の依頼が来てんだ。いつまでも、そんな雑魚に構ってんじゃねえ!」
サーシャが追いすがってくるが、ゼノスに腕を掴まれた。
「嫌です! 私はアッシュ隊長が良いんです!」
「俺様の命令に逆らうとは、クビにされてぇのか? ええ? 病気の妹の治療費を稼がなくちゃならねんだろう?」
「うっ!?」
ゼノスに脅されると、サーシャは押し黙った。サーシャは難病の妹の治療費を稼ぐために働いていた。
サーシャに【神喰らう蛇】を辞めるという選択肢はない。莫大な治療費をまかなえるだけの給料が出るのは、ここくらいしかないからだ。
「ヒャハハハ! サーシャちゃんよ、てめぇが事実上の奴隷だってことを理解できたか? わかったら、俺様の命令通り働けや! 『上司の命令は神の命令』、それが【神喰らう蛇】のルールだ。
おっ、そうだな。おもしれぇことを思いついたぜ。お前の大好きなアッシュに、ファイヤーボールをぶつけろ!」
ゼノスは底意地が悪い笑みを浮かべた。
「はっ? な、なんですか? その命令は!? 絶対にお断りします!」
「おいおい、部外者が許可なく【神喰らう蛇】の敷地内に入ってんだぞ? 親父から叩き出せと言われてんだ。何か問題あんのかよ?」
「そうだな。サーシャよ、新しい隊長への服従を示す儀式だ。アッシュにファイヤーボールを撃ち込め! 無論、全力でだ」
親父がゼノスの命令を後押しした。
「い、いや、絶対に嫌です!」
サーシャは必死に首を振った。
しかし、サーシャがこのまま拒否を続ければ、ギルド内での彼女の立場が悪くなるのは明白だ。上司に逆らう愚か者は鉄拳制裁。それがここの掟だ。
ギルドへの忠誠心を試すため、ときどき、こういった受け入れ難い命令を強要する服従の儀式が行われていた。
「サーシャ、大丈夫だ。俺を撃て。一発くらいなら、なんとかなる」
「アッシュ隊長……っ!」
サーシャはボロボロと涙を流しながら、俺を見た。
「でも、でもぉ!」
「……いいから、やれ! 俺の最後の命令だ」
「あっ、ぁあああああ──ッ!」
サーシャは絶叫を上げながら、俺にファイヤーボールを放った。
俺を拘束していたギルドメンバーが離脱する。ファイヤーボールは俺に直撃し、爆発した。
超高熱の嵐に視界が焼けて、すさまじい痛みに気を失う。
「見事な魔法の腕前だ、サーシャよ! それでこそ【神喰らう蛇】の一員を名乗るのにふさわしい!」
最後に俺の耳に届いたのは、親父の笑い声だった。
◇
アッシュを追放した闘神ガイン。
彼はアッシュでなければ一番隊をまとめられないというサーシャの忠告に耳を傾けなかった。
誰のおかげで王国を救うという大偉業が達成できたのか、理解していなかった。
闘神ガインも剣聖ゼノスもまだ知らない。
やがてアッシュが史上最強の英雄として歴史に名を刻むということを。
闘神ガインも剣聖ゼノスもまだ知らない。
アッシュを敵に回したことで、【神喰らう蛇】が没落し、全てを失う地獄を。
――――――――—
作者からのお願い。
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