会社が倒産したら世界も破滅していた件
まわたふとん
第1話「会社更生法は突然に」
今日も1日頑張るゾイ、って何処かのアニメの決め台詞を言いながら、髭を添ってる。
朝風呂に浸かりながら髭を剃る、これ社会人の嗜みの一つ。
俺の務めている会社は正直に言ってヌルい、学生時代にやっていた飲食のバイトの方が100倍はきついだろう。
会社の給料はそれなりだったが、年2回のボーナスには期待が出来た。
冬のボーナスは封筒が縦に立って、嬉しさでニンマリしてしまった。
「よっしゃ行きますか」
地下鉄とJRを乗り継いて会社に急ぐ、始業時間は10時からなのでラッシュに巻き込まれず余裕で間に合う。
ちょっと無理をして都心の高層マンションに引っ越したが正解だった、前に住んでいた千葉のド田舎だと通勤時間だけで2時間は掛かったからな。
「おはよっす」
駅を降りた所で女子社員の集団と出くわした、何を考えて居るのか分からない連中で、いつも給湯室で何なら秘密の話をして暗い顔をしていた。
「上堂さんいつも元気ですね」
「だって明日は夏のボーナスだよ、楽しみに決まってるじゃん」
俺が入社してから5回目の夏のボーナス、冬のボーナスの1.5倍は出るんじゃ無いかと楽しみにしていた。
「直樹君あなた夏のボーナスが支給されるだなんて、まだ本気で考えて居たの、おめでたいわね」
説教魔神のお局に捕まってしまった、うちの会社の業績が落ちている事は事実だ、だけどいきなりボーナスをカットする程でも無いだろう。
社長や専務は忙しく仕事に飛び回って居るからな、何故だか俺達の仕事は急に暇になったけど。
「門倉さん」
アレ珍しくお局を止めに入ってくれる人物が居る、名前は知らないが確か経理に居る子だったと思う、伝票の精算をしてくれる子だ。
何だか空気が思いなと思いつつ、会社の前までたどり着く、そこれには同僚達が入り口の前で一重二重と取り巻いている。
何が有ったんだと顔見知りを探すと、同じ営業部の先輩が居たので話を聞きに行った。
「先輩何事ですか」
「ああ、上堂か、会社が・・・飛んだわ」
「へっ?」
飛んだってそこに建っているんだが、何トボけた話をしているんだろうか。
「そこに建ってますよ」
「倒産だよ倒産、社長を含めた役員連中には誰一人として電話が通じない。子供が生まれたばかりなのにどうしろって言うんだよ全く」
先輩の話を上の空で聞きながら上を見上げて居た、空が青いなって考えて居たら空から人が降ってきた。
落ちてくる人と目が合った気がした、その瞳には次はお前の番だと訴えて来るような憎悪の色が・・・
ドサッ、鈍い音と共にで周囲に血が飛び散っていた、アレは社長なんだなってなんとなく理解出来て、そこから周囲が阿鼻叫喚の地獄絵図、警察は来るわ救急車が現れるわで大混乱に陥った。
どうやって家に帰ったのかは分からないが、気がついたら家に居た、明日からの事を考えないといけなかったが、今は考える気力がわかない。
実家の母親には連絡しとくかと、何故かそこだけ冷静に親に会社が倒産して無職になったと言う事を話したが、既に親はその状況を知っていて厭われてしまった。
朝だか昼だか分からない時間に目が覚めた、ベットの中では無くテーブルの椅子に座ったまま、寝てしまったようだ。
「やっべボーナスねーじゃん」
引っ越しと敷金礼金で預貯金は使い果たしてしまった、ボーナスを見越して、クレジットで家具や家電も買ってしまった。
ボーナス払いを選択したがリボ払いにでもしないと支払えない。
「あっつ」
エアコンが切れて居る、昨日冷房を着けて居たのかも覚えちゃ居ないが、真夏の東京でエアコンが無いなんて自殺行為だ。
リモコンを探してスイッチを入れたがエアコンが動かない、まさかの故障だ。
スマホを取り出して電気屋に鬼電しようとしたが、繋がらない、『おかけになった番号は現在電源が入っていないか、電波が届かない場所にあります。』と繰り返すばかりだ。
「最の悪」
冷蔵庫に入っているミネラルを取り出しキャップを開けると口に入れる。
「ヌルっ」
もう一度冷蔵庫を開けて見ると電気が着いていない、どうやら停電しているようだ。
「うーわ、マジか」
何時に停電が起こったか分からないが冷蔵庫の中の物が大半やられてた、こわごわと冷凍庫の扉を開けると、アイスクリームは全滅していた。
トイレに入って出すものを出した、水は大丈夫そうだ流れて行った。
財布を探して飯でも買い出しに行くかと、ラフな物に着替え、コンビニに向かう事にした。
「あの・・・」
「エレベーターが動いて無いんですよ、管理組合にも繋がら無いし、とっくに会社は始まってる時間なのにどうしたら良いのか」
エレベーターの前で女の人が椅子に座っていた、あの椅子何処から持ってきたのだろうか。
「階段で降りないんですか」
「ここ20階ですよ、階段降りるなんてあり得ないんですけど」
50階建ての20階に俺は住んでいる、本来の家賃だとトテモじゃないが俺なんかは住めない、ただ20階と言う比較的低層階で人気が無いのと、部屋の形が四角じゃないので安目で借りられたのだ。
それでも俺の給料からしたらギリギリの値段だったので、会社が潰れたから早急に別の場所に移らなければならない。
「停電みたいですけど、ここって自家発電が有りませんでしたっけ」
「そうなんですよ、停電でも3日はエレベーターが動くって聞いてたんですけど、おかしいですよね」
「地震でも有ったんですかね」
「何も感じ無かったんですけど、地震だったらお風呂に水を溜めて置いた方が良いのかな、トイレも流せなくなりますもんね。ありがとう御座います、今日は会社に行くの諦める事にします」
何がありがとうなのか知らないけど、俺も風呂に水を溜めて置く事にしよう、コンビニに行くことは辞めにした。
風呂に水を溜める、シャワーを確認するとまだお湯が出たのでシャワーを浴びちゃう事にして、スッキリしてから部屋に戻った。
家の中に有る食べ物はと戸棚を確認すると、非常食代わりのカップラーメンが一箱置いてある、幸い消費期限は切れてなかったので、カセットコンロを使ってお湯を沸かした。
「しかし熱っついな」
締め切って居た窓を全開にする、ベランダに出られる掃き出し窓を開けた時、外の様子が見えてしまった。
「嘘だろ」
そこかしこから煙が上がっていた、火の手も見える、何が起こったんだかと昔買ってそのまま使って無かった双眼鏡を探しに行く。
震える手でピントを合わせる、まだ遠いけどおっさんが緑の小人と戦っていた。
「えっ、剣を使ってた?」
おっさんは椅子を手にしていたが小人の方は錆びた剣を使っている、剣だよなアレ、俺の双眼鏡の倍率じゃ詳しい事までは分からない。
俺の部屋から見れる範囲では、何が起こっているのかイマイチ掴めない、駅側を確認するには屋上に登った方が早いな。
星好きな子と付き合ってた頃に買った望遠鏡が有る、この双眼鏡もその時に購入したものだが、望遠鏡の方が倍率は高いと押し入れの一番奥に入っていた望遠鏡と足を持って屋上に向かって移動した。
屋上に出る為の扉は施錠されていた、当然鍵なんて持って居ない訳なのだが、今は非常時だ思いっきり蹴り飛ばしたら、アルミのパネルが抜けた。
ドアの鍵を壊すつもりだったのだが、鍵の方が頑丈で壊せなかった。
抜けたパネルを潜って屋上に出る、風は無いようで、真夏の太陽だけが照り続けて居る。
駅側に移動して望遠鏡をセットする、セットする前から大変な事に成っている事は理解出来たが、望遠鏡を覗いてみて尋常じゃ無い事が起こっている事が理解出来た。
「嘘やん」
豚人間が人を襲っている、改札口の前ではもしゃもしゃリーマンが食われて居て、ロータリーの中心でOLが犯されて居た。
この世の物とは思えない光景に思わずその場で膝を着いて、座り込んでしまった。会社が潰れたと思ったら、世界まで壊れてしまった。
どれだけの時間その場で座り込んでいたのだろうか、肩をトントンっと叩かれて振り返ると見知らぬ女性が逆光の中立っていた。
「どなたですか」
「**************、*******、*********」
「えっ何って?」
聞き慣れない語源で話しかけられて来た、英語でもポルトガル語でも中国もでも無い不思議な言葉だった。
女は何を思ったか俺の両肩を掴んで顔を近づけて来た、キスでもされるのかとウェルカムで待っていると、おでこをくっつけて何やら歌を歌い始めた。
「ねえこれで判る?」
「びっくりした」
不思議な言葉で再び話しかけられたのだが、何故が意味が理解出来た。
「私の言葉判るのよね」
「なにこれ手品?」
俺は混乱して何を口走っているのやら、これが手品な訳が無い、でもそう聞かずには居られなかった。
「今のは精霊魔法よ、それでここって何処な訳、私勇者と一緒に魔王を討伐した筈なんだけど」
魔王に勇者と疑問しか残らない中二ワードを聞きながら場所の説明だけはしといた。
「新宿だけど」
調子を合わせて魔界都市と言ってやろうかとも思ったが、俺ももう社会人、中二病は完治している。
「どこよそれ」
「東京だけど」
「?」
「Do you know japan」
「ここって日本なの?!!」
驚いた表情を見せた女は日本を知ってるらしい、何故か俺の中学英語が通じて、俺も驚いている。
「じゃあ琵琶湖って近くに有るの」
「琵琶湖って湖の琵琶湖?」
「そうだと思う」
「ここから西に500キロくらい行かないと駄目だよ」
「500キロってどのくらいの距離なの」
距離を説明するのか、難しいな。
「このくらいの長さが1mで、それが1000個つなげると1キロだよ」
「判ったわ、大凡500ケルンって事ね」
やっばいな、俺も実家に帰った方が良さそうだ、東京がこんなじゃ、両親がどうなっているのか心配に成ってきた。
「この近くにギルドって有る?」
「ギルド?」
「冒険者ギルドの事よ、もしかして知らない?」
「意味は判るつもりだけど、日本には無いよ。俺は上堂直樹、君の名は?」
恐らくと言うか絶対にこいつは異世界人だ、だって耳が尖って長いのだから。
「私は真紅の森のイオナ、古き森の一族の最後の1人よ」
恐らくエルフだと思われるイオナから詳しい話を聞くために、俺の部屋へと招待した、いつまでも屋上に居たって仕方ない、現状を把握する事が勝利の方程式だ。
「靴は脱いでね」
「あなたも大地と同じことを言うのね、日本族はみんな裸足で家の中を歩くの?」「土足で家の中を歩く方がどうかしてると思うんだけどな、犬の糞でも踏んだら最悪じゃん」
「そうかもね」
イオナの世界にも犬が居るらしい事は判った、玄関の鍵を閉めてチェーンを掛ける、別にやましい理由で締める訳では無く、化け物が入ってきたら怖いから施錠しただけだ。
「あの化け物が現れたのってイオナが原因か」
「違うわよ・・・多分」
「きっと魔王の呪いが大地に作用したのね、故郷に帰りたいって言ってた物」
「大地って名前か」
「そうよ、勇者大地小川、日本族なら直樹も知ってるんじゃない」
小川大地だよな、変わった名前だけど、もっと変な名前の子供が最近じゃわんさか居る、当然俺がそんな奴の事知ってるわけがない。
「知らんよそんな奴、大体日本国民何人居ると思ってんだよ」
「知らないけど、何人くらい居るの」
「1億2000万くらいじゃね」
「うん億?」
億と言う単位を知らないらしい、指折り数えて見せて、1万の1万倍だと知った時には仰天していた。
「そんなに居るんじゃ知ってる訳が無いか、琵琶湖ってのもココから遠いみたいだし」
「ああまあ遠いけど、俺の実家は琵琶湖から割と近い場所に有るから、土地勘が無い訳じゃ無いよ」
うちは京都と福井の間に有る漁師町で、親父は役場に務めて居て、お袋は学校の先生をしていた。
お袋の方は大分前に学校を辞めて、主婦をしながら畑を耕して居たが。
「なら近くまで案内してもらえないかな、お礼ならするわよ」
この女すげーな、眼下に広がる地獄のような状況を目にして、琵琶湖に連れて行けと言う。
俺1人だけだとどうやったって実家に向かえそうも無い、イオナに便乗して実家に逃げ込んでやろう。
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