魔王様、配信しかありますまい

ヘイ

金が欲しい(切実)

 我ら魔王軍の資金が尽きたのだ。

 

 では魔王様。

 

 なんじゃ?

 

 配信活動を始めましょう。

 

 はあ? 何を言っておるか。んな物、出来るわけが無かろう。

 

 ふふふ、魔王様。

 

 怪しい笑いをするでないわ。

 

 今の時代、武による支配より娯楽による支配が効果的であると、悪魔参謀テスタロッサは愚考致します。

 

 ぬ?

 

 何より、魔王様は広告塔。なれば、配信の世界でも世界一であらせまする。

 

 そ、そうか?

 

 ええ、それでは始めましょう。




 

「ん、んっ。おほん、ワシじゃ、ワシ」

 

 魔王がチラリと視線を向けた先にはカンペを持ったテスタロッサが控えている。

 

『名乗ってください』

 

 そ、そうだった。

 と、魔王は珍しく緊張しているのか名前を告げる。

 

「ワシは、魔王! 魔王……えーと」

『サティオン』

「そう、サティオンじゃ!」

 

 名前は特に考えていなかったのだが、魔王改めサティオンは首を傾げる。

 自らは魔王という概念である以上、魔王であって他の何者でもないというのに。魔族の心棒により不滅の体を手に入れた神の如き存在なのだ。

 

「……おい、テスタ」

「…………」

 

 ツカツカとサティオンがテスタロッサのいる方へと歩み寄る。

 

「おい、どうなっておる」

「……魔王様、安心してください。大丈夫ですから」

「いや、サティオンってなんじゃ? ワシ知らんのだが?」

「ふっ、この参謀テスタロッサにお任せ……あー! だ、ダメですよ!」

「いいから、見せんか!」

 

 取り上げた薄い板に映るのは愛らしい女の姿。

 

「おい、説明しろ」

「魔王様。今、人間界ではVtuberなる物が流行っておられるのは知っておりますか?」

「ぶいちゅーばー?」

「はい」

「成る程。……そういう事か!」

「ええ、その通りです」

 

 テスタロッサは何のことだか分からなかったが取り敢えず頷くことにした。この方が参謀らしい気がしたからだ。

 

「つまりは人間たちが自ら、敵である魔王軍に資金を差し出すと。はは、貴様は悪魔か!」

「悪魔で御座います」

 

 テスタロッサには何のことだか分からないが納得してくれたようで深々と礼をとる。

 

「ふっ、すまんな。皆の衆。少しばかり問題が起きたのだ」

 

 具体的にはホウレンソウの。

 

「ところで、どれほど見ておるのだこれは」

『30人です』

「……何? 暫し待て」

 

 ツカツカと再びサティオンはテスタロッサの元に歩み寄る。

 

「おい、どうなっておる。我々は早急に資金を集めねばならぬのだぞ」

「……魔王様、人間の言葉には雨垂れ石を穿つという言葉と、塵も積もれば山となるという物があります。地道な努力が求められるのです」

「……ぐ、貴様! 時間はないのだぞ!」

「分かっております。なので魔王様、歌ってください」

「何?」

 

 聞き取れなかった訳ではない。

 

「世間ではVtuberはよく、歌を歌うものだとされています」

「そうなのか?」

「ええ、何より歌であればチャームも使いやすいでしょう」

「確かにな。貴様は鬼だ。その知謀、流石だな。ワシの目に狂いはなかった!」

「フッ、魔王様。私は悪魔で御座います」

「ふ、言葉の綾だ」

 

 気分の乗った魔王サティオンはそれはもう気持ちよく歌った。彼女の歌声に乗せられたチャームは電子の世界を超えて、人間の心を打った。

 ただ一人を除いて。

 

[魔王、居場所は特定した]

 

 そう、勇者だ。

 

「ん、なんじゃコイツ?」

『    』

 

 カンペには何もない。

 ただ、テスタロッサは真顔でパーソナルコンピュータを弄り始める

 

「どうした?」

 

 テスタロッサは手を止めてサティオンにサムズアップを送る。問題は解決したようだ。

 

 後日、自称勇者が逮捕されたとの報道が人間界で流れた。

 

「待たせたな、皆の衆。魔王サティオンじゃ」

 

 今日も魔王は資金集めに奔走する。

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魔王様、配信しかありますまい ヘイ @Hei767

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