サスペンスからほど遠い

エリー.ファー

サスペンスからほど遠い

「殺されるぞ」

「分かってるよ」

「分かってねぇよ」

「分かってる」

「お前は、何も分かってない」

「これは遊びじゃないからな」

「そうだ、これは戦争ゲームじゃない。マジだ、マジの戦争だ」

「そうだな」

「戦争を舐めていた俺たちの責任かもしれない。でも、それをお前ひとりが抱える意味はない。そうだろう」

「かもな」

「だったら」

「だとしても、行く」

「なんでだよ」

「ここで俺が死ぬのか、もしくは相手が死ぬのか。殺すのか、殺されるのか。結論を出さないまま、ここから帰ることはできない」

「なあなあで終わらせられるんだぞ」

「無理だ」

「無理なもんか。できる。他の道がきっとあるはずだ」

「じゃあ、思いつくのか」

「時間が必要だ」

「その時間がない」

「なかったとしても」

「まず、俺が突っ込む。その後にお前が来てくれ。俺が囮になるから、お前はきっとそれ以上の怪我を負うことなく帰ることができる」

「俺は、帰りたいわけじゃないんだ」

「ここに来るまで、帰りたいって叫んでたじゃないか」

「みんなで帰りたいんだよ」




 日章二十八年、九月、九日。

 午前九時十二分四秒。

 菱火関町、田関海岸、上陸戦。

 捌甲兵器の使用禁止条例に違反をしていることから、戦争法による適用を受けて行われた雨戸戦争の第一次作戦である。

 犠牲者は零とされている。しかし、上層部が生死を確認できない兵士については逃走をしたという形で記録を行うとの決まりを通したため、記録上の零ということになる。実際は千人以上とされている。

 使われた兵器、武器等は以下の通りである。

 第四次光線四方銃。六十。

 黄瀬蔵通し。七十。

 白泉長剣。六百。

 宮廷飛行爆弾。七千。

 策素。一。

 魚亭回覧小銃。九。

 雨戸通香。五千五百。

 疼回。一。

 聴々。一万二千。

 九例短剣。四千。

 以上。

 ただし、策素と疼回に関しては上層部からの許可は出たものの公式書類には残さないとの命令が下っている。

 樋田任一教授率いる学善同志からは、戦争法を主としている点に批判が集中している。内容は、勝利したところで諸外国から攻撃される理由を作っているだけで、利益が少ないというものである。そのため、兵器の使用を控えること、また相手側の降伏を狙うべきとの議論が今もなされている。おそらく、問題として残ると考えられ、学善同志が政府の相談役としての立場から降りる可能性が非常に高い。その場合、次の相談役の候補としては、日米の会、闘争同志、由美木雅子会の三つが有力となる。命令はないが、既にこの三つの会へ打診を行っている。しかし、学善同志の面子を保つ必要があるため、こちらで稼働する隊員は清勝団から選んでいる。発覚した場合の責任は上層部ではなく、第一団から第十団までの団長にある。

 クレイド交渉役からは、四杯条例の適用は一週間を切っており素早い判断をお願いしたいとの最終通告が来ている。おそらく、一週間後には問答無用の爆撃が行われることを示している。クレイド交渉役の父上は、国家思想連盟の会長であるためクレイド交渉役の機嫌を損ねることは、敗北に直結している。

 上記の内容については、この書類のみでの閲覧を可能とし、コピー及び口頭での情報伝達等のすべてを禁止する。

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