オフトゥーン戦記 ~転生も勇者も魔王討伐も神も悪役令嬢も暗殺者もオフトゥンの前では全て無意味ですから~
THE TAKE
第1話 オフトゥンこそ我が人生
後悔はない。
そりゃあそうだ。
最高の居心地、最高のもふもふ、最高のぬくもり、そして最高の多幸感。
大好きなお布団に包まっていられる瞬間は、僕にとってこの上ない最高の瞬間なのだから。
たとえお布団に引きこもりすぎて死んだとしても、1ミリたりとも後悔はない。
ということで僕、
お布団に引きこもりすぎて。
死因は餓死。飲まず食わずで480時間ノンストップ睡眠。
最高潮のオフトゥンライフだ。
全てを捨てて眠り続けた結果、僕は最愛のオフトゥンに抱かれたまま死んだ。
この上ない、極上の死に方だ。
……なのに、である。
「うん、キミね。これから異世界行って悪者倒してもらうから。これ絶対なの」
ピカピカしていて、ヒゲモジャで、もふもふで暖かそうなくせに、厚手の布を羽織った犬だか猫だかもわからない変態野郎が、プカプカ宙に浮きながら妙なこと言ってら。
「うんやだ。やめとくわ」
「ヤダじゃあらへんのよ。キミ、これから異世界行って
「うん、ムリ」
「だからムリちゃうねん。ワシにも立場ってもんがあんのね。行ってもらわな叱られちゃうの、リーダー(バイト)に」
「へー。知らん、ヤダ」
「いつまでもヤダヤダ言うんじゃないよ! 女神だってそのうち怒るんやで!」
ヒゲヅラ犬顔のくせに女神と
自称、女神。
「そんなことより、お前男だろ」
「うーわ、コイツ酷いこと言うし。ジェンダーレスの時代にそんなこと言うんや。信じられへん、マジムリ。いいから早く行けし」
「行かない、めんどい」
「ふふ~んだ、そんなこと言うてると、このポム山様がお前の魂ごと消滅させちゃうもんね~!」
「うん、ならそれで」
「それでじゃねぇし! 消したら異世界行かれへんやろ! ものの例えでしょうが!」
「はー、だる。早くしてよ」
「ああ言えばこう言うやっちゃ。もうあかん、お前もう『子供転生の刑』執行や」
「はいムリ、却下~」
いよいよ堪忍袋の緒が切れたポム山がタクトを振るい、「強制執行ー!」と叫んだ。だが僕は真顔の無言で完全拒否した。
「なんで飛ばへんねん?! 強制執行したら勝手に異世界飛ばされるのがルールやん。この手の物語のお約束やん!」
「知らん。だるい」
「もう頼むて、お願いやから行ったって。異世界救ったって~な、ごめんやけど!」
「イ・ヤ・だ!」
「ウチ、これ以上リーダーに目ぇ付けられたら困んねん。アイツ、メッチャ恐いねんて。そんなら大サービスや、好きなもん一個つけたるから!」
「好きなもの……だと?」
僕には絶対に譲れないものがある。
それは蘇生でも、希望でも、未来でもない。
もちろん……、オフトゥーンだ!
「なんでもええで。好きなもんつけたるさかい、言うてみ!」
僕はグッと睨みつけるように言った。
「オフトゥン。僕の心と身体を暖かく包み込み、幸せな気分にしてくれるオフトゥーンだ。寒いときは暖かく、暑いときも暖かく、快適で、丈夫で、もう食べるとか動くとか全部無視して優しく僕を包み込んでくれる、そんなオフトゥンに、私は……なりたい」
「……なるのはあかん。世界救え言うてるやん」
「ならば消せ! 忌まわしい記憶とともに!」
「ワガママ言わんといて。豪華なお布団つけたるから頼むわ」
「豪華なお布団……。それは本当に豪華なんだろうな?!」
「せやで。ワシが保証したる (なんなんコイツ、マジ面倒くさいわ……)」
「ならばよし、行ってやる!」
「あら、ホンマ? そんなら頼むわ~」
ポム山がピラピラとハンケチを振った。
僕は突然意識がふわ~っとして、そのまま眠るようにブラックアウトした――
――――――――
――――――
――――
――
「で……、なによこの状況。森のど真ん中にお布団だけ敷いて放置とか、あのヒゲイヌ、マジでなによ!」
虫とか草とか枝とか葉っぱとかいっぱい。
とにかく周囲はホント森。
森、森、森、全部森。森泉。
森のど真ん中に、豪華な布団と、僕ひとり。天気は快晴、晴れ。
「しかもなによこの身体。メッチャお子様じゃない。罰ゲームだけ有言実行とか三枚におろすぞあの犬コロ」
もともとガリガリ18歳だった僕の身体は、トゥルトゥルの10歳くらいに戻っていた。何がトゥルトゥルかは割愛。
「でもまぁいいか。オフトゥンあるし~♪」
森の真ん中 in オフトゥン。
お布団は、いつだって僕を優しく包み込んでくれる。
―― 最高だ
大自然オフトゥン。これはこれでありかもしれない。
お布団から顔だけだして芳醇な森の香りを楽しむ僕。
遠くでは鳥のさえずり。チュンチュン、ガウガウ、ウゴラゴゲー。
得体のしれない声もするけど、とにかく今はお布団を楽しむことだけに集中だ。
雄大な地面に根付くような白く寛大な布地は、いつでも僕を癒やしてくれる。
それなのにどんどん大きくなるガウガウ声と、異様に響くデカい足音は、どんどん近くなってはいたけれど。
試しに、パチっと器用に右目だけ開けてみた。
巨大なビルくらいある赤色原色のTHEドラゴンが、僕を不思議そうに見下ろしていました。
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