桜の樹の下で =24年目の約束=

香鳥

第1話 序章(プロローグ)

 俺には赤ん坊の頃の思い出がある。


 赤ん坊だから思い出というのはおかしいか。

 今となってはそれが本当に記憶なのか、大きくなって出来上がった想像のものかすらわからない。



「へいきだよ、へいき。ね、なかないで」


「ぅ、ぅぇぇ・・・ぇぇぇん・・・」



 桜の咲く頃、かなり広い公園に母さんと来て俺ははぐれた。


 泣いてる俺はまだ言葉も上手く喋れない、2歳にもなっていない頃。


「へいきだよ。ママがすぐにきてくれるから」


「えぇぇ〜〜ん、ママぁ〜ママぁ〜ぅぇぇぇ〜ん」


「はい、いいこ、いいこ、かわいいね」


「・・・ヒック、ヒック・・・・」



 涙の俺を慰める黒目がちの瞳。


 自分も不安で泣きそうな顔をしているのに白い手は優しく俺の頭を撫でてくれている。

 絵本の中に住んでいるような綺麗な人。



「きみもぼくもまいごになっちゃったね。ほら、あそこのおじさんがママをさがしてくれてるから」


「・・・スン・・・クスン・・・うん・・・」


「あ、わらった。やっぱりいいこだね」


 4さいなのにまいごになっちゃった。


 でもぼくよりちいさいおとこのこもまいごみたい。 ぼくをじぃっとみてる。

 クリクリのちゃいろのめ。

 てんしみたいなかわいいこ。


「・・・あれ、あのひと、もしかしてきみのママ?」


「〜〜!ぁああ〜ママぁぁ〜えぇぇぇん・・・」


「陽司!陽司!無事で良かった!」


 あのこ、ようじ、っていうんだ。

 ふわふわのちゃいろのかみのけ、ちっちゃいわんこみたいなこ。

 ママがきてくれてよかったね。

 ばいばい、またあえるかな。


 ぼくのおかあさんはまだかなぁ・・・・・・

 あっおかあさんきた!おかあさん・・・・



 私の心の一番大切なところに棲んでいるのは、あの子が見せた笑顔と包むように舞った桜の花びら。

 可愛い子犬みたいなあの子にまた会いたい。



 今も俺は黒曜石のような瞳のあの子に会うデジャヴを待っている 。

 優しかった白い手、撫でてくれた白い手。


 今もこれからも、

 ずっとあなたに会えると

 信じている。



 次話は「出逢い」です。


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