第1話 元勇者の決断

ひとしきり泣いた後、落ち着きを取り戻した俺は謝っていた。


「恥ずかしい姿を見せてしまったな…わりぃな」


「なぁ〜に?いまさら」


君島と俺は幼馴染で、近所に住んでいる。

学年も一緒だが、なぜか高校も一緒でクラスも同じだ。

そうだ!ここは現世かどうか確認しないといけない!


「ステータス!」


「えっ?!なに急に!」


君島は驚いているが、これで目の前に半透明の板ようなものが出なければ現世だ!!


ブゥンッ…


…出てしまった…


登録者名:天神龍一

職業:無し

レベル:777

魔力:7945

攻撃力:8367

防御力:8736

俊敏力:7987

知力:6839

運:9999

スキル:{破壊者}{ホワイトホール}

称号:{元勇者}{転生者}


…ん?

スキルがよく分からないものがセットされているが、能力値は以前のままだ!

いや、運がカンストされている!!

称号も良く分からんな。

俺が最後に確認した時はこんなんじゃなかったはずだが…


「…ねぇ!ねぇってば!!無視しないでよ!あっちあっち!!何かいる!!!!」


君島が騒がしく、腕を引っ張っている。

もう片方の手で指をさすその先に見慣れた生物がいた。


二本足で立ち、手には棍棒、外見は豚のような生物。

オークだ。

それもオークの上位種、オークキング。


「ねぇ、あれは何?!知ってるの?!」


「あぁ、そんなに慌てなくていい。それにあんまり騒ぐと気づかれるぞ」


「…!!」


君島は急いで口をつぐんだ。

しかしどうしたものか。

死ぬ前はあんなに敵対していた魔物も何故か少し可愛く見える。

レベルの違いではなく、おそらく魔王の最後の言葉と俺の死因によるな。


「…勇者、信じるか?…だと?あそこで死んでたら信じる気持ちもどっかに消えたのにな…」


「???」


君島は口を押さえながら不思議そうな顔で覗き込んできた。


「ちょっとここで待ってろよ」


君島はさらに不思議そうな顔をして見上げた。


「おーいっ!!!そこのオーク!!!聞こえるか!!俺は元勇者だ!!!」


「「!!!?????」」


オークはこちらを振り向き、突進してきた!!


「もうっっ!!!自分で静かにしろって言ったくせにぃぃ!!!」


君島には後で説明するとして、今は目の前のオークをどうするかだな。


「ゥゴォオオオオ!!!!」


オークは手に持っている棍棒を振りかぶり、龍一に殴りかかる。


「止まれ!スキル{サスペンション}」


「ゥゴォオオオオ!!!!」


「あれっ?!効かない?!」


時間停止魔法だったはずだが!?

魔王のために必死に習得したのだが!?

そういえばスキルがセットされてなかった?!


「ちょ…!まっ…!くそっ!攻撃したくないが、棍棒さえ無ければっ…!」


スッ


「?」

「?」

「?」


オークが振りかぶった棍棒は消えていた。

何が起こったのか一同分からず、困惑していた。


「なぁ、オーク!待ってくれ!話を…」


「ゥゴガぁぁァァア!!」


オークは話を聞く素振りも無く龍一に襲いかかる。


「ちょ!まっ…!!…昔は翻訳のスキルとかあったからか?!」


「龍一君!…そ…その豚さんと話したいの?!…わ…わたし、出来るかもっ!」

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