【未完】プロゲーマーの世界へ

キョウキョウ

第1話 生まれ変わってもゲーム

 僕の名前は青木健吾あおきけんご。ゲームが大好きな小学生だ。


 実は僕には前世の記憶があった。ごくごく普通のサラリーマンだった頃の記憶が。なんの変哲もない男の人生の記憶である。


 毎日ゲームをプレイすることに夢中で、仕事は怒られない程度に手を抜きまくって昇進もせず趣味に没頭。恋人や親しい友人も居ない。ネットで一緒にゲームを楽しむ関係の知り合いが居るぐらい。両親は既に亡くなっていて天涯孤独。


 酒や煙草も嗜まない。


 他の人が見たら、何の面白みもないような平凡な人生を送っていたかもしれない。僕にとってはゲームを存分に楽しめる、とても幸せな人生だった。


 それが、通勤途中の交通事故であっさりと終わってしまった。




 暴走したトラックにはねられて意識を失った次の瞬間、僕は老人と出会った。


「私は神だ。そして君は、死んだ」

「……えっ」


 見た目は白くて立派なひげを生やした老人なのに発する声は若々しい男性の声で、いきなりそんなことを言われたので混乱した。そんな僕に構わず、説明が始まった。


 どうやら人類が誕生してから今まで合計してちょうど1000億人目に死んだのが僕だそうだ。それを記念して、転生させてくれるらしい。


 死んだのに記念だなんて、なんというか変な気分である。夢でも見ているのかと、その状況を疑った。


「君は次に、どんな世界に生まれ変わりたい? 剣と魔法のファンタジーな世界か、それとも宇宙を駆け巡るサイエンスな世界か。君の要望を聞かせてくれないかな?」

「えーっと……?」


 問いかけられた僕は慌てて、なんと答えるべきなのか分からなかった。


「心配しなくても大丈夫だ。異世界に行ってもすぐには死なないよう、君には特別な能力を授けよう。さぁ、ゆっくりと考えてみなさい」


 いわゆる異世界転生というやつなのかな。深呼吸して落ち着いてみると、アニメや漫画、小説などで見た物語を思い出していた。まさに今、そんな物語で書かれいてた状況と同じような体験をしている。やっぱり夢を見ているのだろう。


 老人の言葉や直前の出来事を信じられずに、僕は夢を見ているのだと結論付けた。


 まぁ夢だとしても、僕は異世界に生まれ変わりたいとは思わない。やっぱり現代でゲームをプレイして楽しんでいたい。


「なるほど、分かった。君の要望を叶えよう」

「へ?」


 僕は何も言っていないのに、神を名乗る老人は勝手に納得して両手を左右に大きく広げながら宣言した。


「それでは、次の人生を存分に楽しみたまえ」

「うわっ!?」


 老人の身体がピカーっと激しい白色で輝き始めて、眩しくなった僕は目を閉じた。そして、次に目を開いたら赤ん坊になっていた。


 夢じゃなかった。あの老人は本物の神様だったらしい、と驚いたのを覚えている。こうして僕は生まれ変わった。



***



 赤ん坊になってから小学生に成長するまで、特に大きなイベントなどは無かった。転生という大きな出来事の後は、以前と同じように普通の人生を送っていた。


 前世とは別人の両親から生まれて、全く別の家庭で新しい人生が始まった。性別は前と同じ男性だったけれども、顔とか体つきとかは違っていた。なので、最初の頃は違和感を覚えながら過ごしていた。今では、なんとか慣れてきたけれど。


 両親はどちらも仕事で忙しいらしく、家に居ない時間も多かった。けれども大切に育てられて、何不自由なく生活することが出来ていた。


 生まれ変わった時代も、僕のよく知っている現代。よりは、少しだけ昔のようだ。前世と比べると生まれた年が1年だけ早かった。そして少し古臭く感じる家電やら、懐かしいと思えるドラマやアニメ、バラエティ番組などがテレビで流れていた。


 ただ、前世と全く同じ世界に生まれた訳じゃないようだった。


 僕の知っている企業が、この世界には無かった。有名なゲームの開発や製造、販売などを行っていた、あの企業が存在していない!


 その事実を知ったとき、僕は両親を心配させてしまうほど寝込んだ。あのゲームがもう遊べない。新しく生まれ変わったのに、こんな世界じゃ生きる意味がない。そう思えるほど精神的に追い詰められた。


 しかし、落ち着いてから色々と調べてみたら判明した事実。どうやら、前の世界と違う名前で企業が存在していることが分かった。


 その時に僕は、記憶と少し違った世界であることを理解した。そして新たな希望が生まれた。


 この世界には、僕の知らないゲームが溢れかえっている!


 両親に頼み込んで、僕はゲーム機を買ってもらった。遠い記憶に残っていた8bitの据え置き型ゲーム機。ハード名やカセットのタイトルは聞き覚えのないものだけど、とても懐かしいと感じる未知のゲームに夢中になった。


 こうして僕は、生まれ変わってもゲームを楽しむ平凡な人生を過ごしていた。

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