SIX RAD

エリー.ファー

SIX RAD

 完全からは程遠い絵画だった。

 誰も見たことのない絵画だった。

 未完成の絵画はある。

 しかし。

 その絵画は完成していた。

 完成していながら、不完全だった。

 多くの絵画は完全な絵画からは程遠いものである。

 けれど、それは不完全であることがよく分かるものだった。

 人間の首から上がないとか、窓が開いていないのにカーテンが揺れているとか、そのようなものではない。

 見た者に不完全であると感じさせる。

 そのような絵画だった。

 誰が描いたのかは分からない。調べようとしたものは沢山いたそうだが、誰も真相には辿り着けない。昔の昔のそのまた昔から高価な絵画であったことは確かであり、皆は崇め奉ることしかできない。

 経済の線に乗せて、売り買いが行われる。けれど、その絵画だけは全くの別の線を生きていた。人間が絵画の奴隷になっているというのが正しいだろうか。

 額縁にもこだわりがみられた。金色で、木製であり、しかも素材となっている木が今現在では見つからないのだ。絶滅したとも考えられるがそうだとしても、それに似た木というのはあるはずである。でも、それすら分からない。

 宇宙を感じさせるすべて。

 ロマンすら内包する絵画。

 しかし。

 不完全。

 まるで人間のような佇まい。

 美しいとは、なんなのか。綺麗とは、なんなのか。

 絵画はそれを考えさせるが、その美しさや綺麗さを備えているわけではない。

 あくまで、一つの作品の域を出ることはない。

 一度だけ盗まれたことがある。確か、フランドル美術館で火事が起きた時に、そのまま行方知れずとなったのだ。最初のうちは紛失という形だったが、途中から窃盗であることが分かったのだ。

 犯人は売れない画家だった。

 自分のものにして、その絵画の技術を学びたかったそうである。

 模倣から生まれるものは非常に多い。その中の一つとして自分を存在させたかったようである。非常に大きな話題となったが、解決自体は小さいものだった。別に悪気があったわけではなく、その画家も必死だったのだ。

 売れない画家は訴えられることもなく、特にその名前を公表されるわけでもなかった。今もどこかで楽しく絵を描き続けていることだろう。

 絵画の題名はSIX RADである。

 しかし、何がSIXなのか、何がRADなのかは分からない。

 読み取ってみろ、という挑発にも感じられる。

 題名については、作者が考えたものであるというのが有力だが、誰かが勝手に名付けたとも言われている。

「今、あの絵はどこにあるんですか」

「確か、ロシアの国立美術館で展示されていると思いますよ」

「何故、ロシアに」

「さあ、何故でしょうね」

「調べても画像は出てこないし、どんなものなのか見てみたいんです。別に、本物じゃなくてもいいので」

「まあ、そのようなことを言う方は多くいらっしゃいますよね」

「下敷きやポスターもないし」

「えぇ、そうです。おそらく、そのようなブランディングをしているということでしょうね」

「ううん、ロシアか。遠いなあ」

「しかし、一度は生で見ることをおすすめいたします」

「見たことがあるのですか」

「もちろんです」

「どうでしたか」

「そうですね。強いて言うのであれば」

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