第三話④

 チャイムがなり終えてから、休み時間お目付役の先生たちは、校庭に残って遊んでいる子どもたちがいないかどうか見廻りに行きます。ナカノ先生は、おや、もうそんな時間か、と言いました。


「掃除の時間だ。カンザキさん、チャイムが鳴った」


 私の素晴らしい発見と発表は、その言葉でおしまいになりました。私は、また唇をむうっと突き出します。先生は、その様子をこれまた愉快そうに眺めてから、ほら、と校庭の方を指差します。


「友達がむかえにきたんじゃないかな」


 見ると、友達の何人かが、おそおそる私と先生が話しているところを遊具の陰から見ていました。指差された私の友達は、驚いたのかひゅっと遊具の陰に隠れてしまいます。


 そうでした。先生と夢中になっておしゃべりをしていましたが、私は、友達とかくれおにごっこをしていたのでした。


「そうだ! 忘れてた。かくれおに、していたんだった!」


 ああー、みつかちゃった、という私の言葉に、「タイヤの下に隠れたつもりだったのか……」と呆れたように言います。


「では、カンザキさん。私はこれから校庭を見回りに行くから、きみもお友達と一緒に掃除場所に行きなさい」


 そういって、すたすたと歩いて行く先生の背中に、私はまた話しかけます。


「あ、ねえ、先生! あのね、先生もね、ダルマさんがころんだをするときみたいにね、ニッコリ笑って見たらどうかな!」


 先生は、びっくりしたように振り向いて、しばらく考えるようなそぶりをして、言いました。


「そうだな、考えてみることにしよう」


 そうして、先生は今度こそ校庭を見回りに、立ち去ってしまいました。


 ひとり取り残された私は、怖いと思っていた先生と楽しくおしゃべりすることができて嬉しかったのか、ニコニコとその背中を見送りました。


「カーンザーキさ〜ん、捕まえたっ」


「わぎゃっ」


「カンザキさん、おにー。おれ、ぬーけたっと」


 私が先生の背中を見送っているスキに鬼役の子が、私の背後に回り込んだようでした。私が驚いて、振り返ると、なんとイマミヤ君でした。


「ええっ。イマミヤくんそれは、ないよ!そういうのね、セコいっていうんだよー」


 そんなことないもんねー、とイマミヤくんは意地悪いじわるそうにいうのです。


 一緒に教室に戻りながら、イマミヤくんなんかきらいだー!と私も応戦します。


「大丈夫だった?」


「え?なにが?」


「ナカノ先生だよー。すっごく長いこと話していたでしょう。怖くなかった?」


 先ほどの意地悪さはどこへやら、イマミヤくんは心配そうな表情をするのでした。


「ううん、ぜんぜん! ナカノ先生っておもしろいんだよー。イマミヤくんもいっしょに、おしゃべりすればよかったのにー」


 私の言葉に、イマミヤくんはぎょっとしたような顔をします。


「え…あの先生と…? ナカノ先生がおもしろい? カンザキさん、いったいナカノ先生となにを喋っていたの?」


 私は、うーん、と首を傾げてから言いました。


「ダルマさんがころんだと自由作文じゆうさくぶんについて、かな?」

                    


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