第18話 デートイベントに邪魔はつきもの?
ファーラはなんかキラキラ輝いて見える。
実際、発光してるんじゃないかって思うぐらいだ。エルフって輝く生き物なのかな。それとも女神だから?
「それ、気に入っていただけました?」
「うん! すっごい美味しい!」
そんなファーラの放つキラキラを浴びながら、私が食べているのは中央広場の屋台で売っていた綿菓子に似たお菓子だ。
見た目はまんまカラフルな綿菓子なんだけど、あの馴染みのある甘さじゃなくて、フルーツみたいなみずみずしい甘さのお菓子だった。
綿菓子の味の記憶があったから、一瞬、脳が混乱したけど、向こうの綿菓子よりこっちのほうが好きかもしれない。本当に綿みたいになったフルーツを食べているような感覚なのだ。
「ねえねえ。ファーラのやつは味が違うの?」
「ええ。食べてみますか?」
「食べたい!」
ファーラの食べていた綿菓子を一口貰った。ほんとだ、味が違う。
私の食べていたのはリンゴっぽい味だったけど、ファーラのやつは柑橘系に似た酸味のある味だった。えー、これ全種類食べてみたくなるじゃん。
「他の味も気になってるって顔ですね」
「そりゃあ、気になるよ。二十種類ぐらいなかった?」
「ありますね。それも、祭りごとに新しい味が出たりするので、私も全制覇はまだなんです」
どうやら、ファーラも全制覇しようと考えたことがあるらしい。
いや、なるわ。これ。本当においしいもん。
とりあえず、今手に持っている分を食べ終わったらもう一回列に並んで――いっそ、今ある全種類の綿菓子を買って、アイテムボックスに放り込んでおくのもいいかもしれない。
それなら、今ある味は全制覇できるし。よし。我ながらいい考えだ。
「――あ、セト。こんなところにいたのか」
「うん?」
慌てて、パクパクと綿菓子を食べ進めていた私に、誰かが声を掛けてきた。
その声には聞き覚えがある。
顔を上げるとそこに立っていたのは、露店で一番最初のお客さんになってくれた第五騎士団の団長、リードさんだった。
――リードさんって、なんで私が何か食べてるときに現れるの?
◆◇◆
ファーラとのデートも、綿菓子の買い占めも、突然現れたリードさんによってすべて阻止されてしまった。なんでも大事な話があるらしい。
――もしかして、あの少年の件だったりする?
そう思ったけど、私からは何も聞かないで置いた。墓穴を掘るのも嫌だしね。
ここではできない話だと言って、リードさんに連れてこられたのは第五騎士団の本部。といっても、そこまで仰々しい感じの場所ではない。
建物自体は他よりがっちりと丈夫そうな造りをしているけど、特にめちゃくちゃお金が掛けられている感じはしないし、本部って呼ぶより詰所って呼ぶほうが正確かもしれない。
中には何人か他の騎士の姿もあって、リードさんを見かけるたび、みんな足を止めて敬礼をしていた。やっぱり、偉い人なんだなぁ。団長だもんね。
「すまない。男所帯なので、居心地は悪いかもしれないが」
「あ、大丈夫です」
その辺は別に気にしない。
確かに男臭いけど、それより何より、そこら中にある武器や甲冑のほうが気になるんだよね。立ち止まって見ちゃだめかな。だめだよね。
話があるって言われてきたんだし。
「……それで、話って?」
「ああ。その奥の部屋で話そう」
リードさんがそう言って示したのは、廊下の突き当たり、他よりも少し豪華に見える扉だった。
団長室って書いてあるってことは、リードさんの部屋ってことかな。
扉の前には見張りらしい騎士の人が立っている。ぼんやりとその人の持つ長槍を眺めていると、急にバンッと勢いよく扉が開いた。
見張りの騎士の人も驚いている。
「遅いぞ、リード。待ちくたびれた」
「……この、あと少しが待てないというのも、考えものですね」
部屋から出てきたのは、眩しいぐらい綺麗な銀髪の男の人だった。
一つにまとめた銀髪を揺らしながら、こちらに向かって少し早足で歩いてくる。
――うわ……お貴族様ってやつかな。
見るからに高そうな服を着ている人だった。
リードさんに対する態度や話し方も、かなり上からだし……騎士団の団長って偉い人だよね? それより偉い人って、何者なんだろう?
その人は小言を漏らしたリードさんを一瞥した後、透き通った氷のような薄い青色の瞳を私のほうへ向けた。顔をじっと見つめて、ふっと目を細める。
「存外、普通だな」
「……失礼な」
「っふは、すまん。思わず本音が出てしまった」
うっかり言い返した私に、その人は怒るどころか笑い始めた。
――……悪い人ではなさそう?
貴族っていえば、変なことを言えば顔を真っ赤にして怒ったり、問答無用で罰するような人かと思っていたけど、この人はそういうのではないようだった。
割と気さくな雰囲気だし、こうやってすぐに笑うところとか師匠に少し似てるかも。
「部屋に入るぞ」
「……勝手に出てきたのは貴方でしょう」
「悪かったよ。ほら、セト。おいで」
――んん??
そう言った貴族さんに腕を掴まれて、めっちゃ焦った。
いや、だって名前を呼びながら「おいで」とか二次元すぎない?
「あの、ええっと」
「私はヴィヴァンだ。ヴァンでいい」
「……あ、はい」
――いや、別に名乗らなくていいから、手を離してほしかったんだけど。
困った表情で訴えてみたけど、ヴァンさんに伝わる様子は一切ない。
一応、リードさんのほうにも助けを求めてみたけど、申し訳なさそうに眉尻を下げただけで、助けてはくれなかった。
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