第13話 騎士からの事情聴取
「じゃあ、君が到着したときには、すでにこの状態だったわけだな」
「はい。そうですね」
路地に駆けつけてきたのは、三人の騎士だった。
二人が手分けをして、地面に倒れている男たちを縛り上げている。
――まだ話も聞いていないのに、その人たちの扱いはそれでいいの? まあ、見るからに悪人っぽいけど。
私に話しかけてきたのは、この三人の中で一番偉い騎士の人だった。
残りの二人に命令していたから、たぶん間違いないと思う。
年は二十代後半か三十代ぐらいかな。たぶん、結構モテるんじゃないかなって思う見た目だ。ウェーブのかかった見事な金髪だし、騎士服はかなり見た目の補正効果があるから、絶対に女子からキャーキャー言われてると思う。
でも、そんな顔より私が気になるのは、その鎧と武器のほうだけどね。
城の広間で見た騎士よりも、その装備は軽装備だった。こうやって、街中を巡回とかする人だからなのかな。
騎士や鎧に詳しいわけじゃないからよくわからないけど。
――腰に装備してる短剣。もっとじっくり見たいなぁ。
メインの武器っぽい長剣は割とシンプルな作りだったけど、もう一本装備している短剣は少し変わった形をしていた。
独特な三日月状の刃もそうだし、持ち手の部分はかなり凝っている。
他の二人は持ってないから、この人だけの愛用の武器って感じなのかな?
「どうした?」
「――あ、いえ」
短剣に見惚れていたとは答えられず、適当にはぐらかす。
騎士の人も、それについて追及してくることはなかった。
まあ、私はただの目撃者だし、男たちに直接何かしたわけでもないから、何を聞かれても後ろめたいことは一切ないんだけどね。
少年のことを話すかどうかは少し迷ったけど、今は言わないことに決めた。
――やられたほうが話すかもしれないけど……いや、それはないか。
十歳ぐらいの子供にやられたなんて、たぶんこの人たちも言いたくないだろう。
見た目は子供、中身は大人――みたいな、いわゆる合法ロリショタがこの世界に存在しないとも限らないけど、男たちが完全に少年の見た目に油断してやられたんだとしたら、そういうケースは少ないんだろう。
……わかんないけど。
ほら、だって……師匠だって、あの見た目で結構なお年だし。
「君は魔術師なんだな。あの大賢者が後見人とは――」
ギルドカードを見て、騎士の人が小さく唸った。
騎士相手でも師匠の名前は効力を発揮するらしい。すごいな――ありがたすぎるよ、師匠。
露店の許可を商人ギルドに申請したときもそうだったけど、師匠の名前はそこに書かれているだけで、かなりの信用が得られるらしい。
大賢者って一体何をした人なんだろう……そういえば、師匠のことはあんまりよく知らないままだな。
「あ、そうだ。露店……」
師匠のことを考えている場合じゃない。
結界を張ったとはいえ、露店を開きっぱなしだったことを思い出した。
「あの! 私、露店を置きっぱなしにしてきてるので、そろそろ戻って大丈夫ですか?」
「――露店?」
「今日のお祭りで自分の作ったものを売ってるんですけど」
「魔術師だというのに珍しいな――別にそれは構わないが、店の場所はどこだ? こいつらの話を聞いて、また君に話を聞く必要があれば、こちらから出向こうと思うのだが」
「場所は東広場です。入ってすぐの目立つところなんで、すぐにわかるかと」
まあ、話せそうなことは全部話したけどね――少年のこと以外。
こういうの、黙っていることがあるとバレちゃうのかなぁ。この人、結構場数とか踏んでそうだし。刑事の勘、みたいなやつ?
「わかった――それでは、気をつけて」
「失礼します」
三人の騎士に向かって、ぺこりと頭を下げてその場を去る。
駆け足で東広場へ戻った。
◆◇◆
「おお。心配したぞ、嬢ちゃん」
「すみません!」
戻ると、すぐにアルジャさんに声を掛けられた。
制止も聞かずに走り出していったもんね。ごめんなさい、心配かけて。
「まあ、こんな立派な結界が簡単に張れるんだ。嬢ちゃんも強いんだろうとは思ったけどな」
「あはは。でも、私の出番はなかったですけどね」
嘘は言っていない。私は本当に何もしていないし――やったのはあの少年だ。
アルジャさんは私の説明を聞いて〔何も揉め事はなかった〕と勘違いしてくれたみたいだった。わざわざ詳しく話す必要はないよね。
それにしても、あの子……どこに行っちゃったんだろう。
少年が魔法を使った気配はなかった。
あの路地はあそこで行き止まりだったのに、あんな風に消えちゃうなんて――どこを探しても少年の姿を見つけることはできなかった。
あの少年の正体について、なんとなく想像はつきはじめていたけど……それも確信があるわけじゃないし。
「ほら、嬢ちゃんも早く店の準備しな。客が来るぞ」
そんなことを考えていたら、アルジャさんから急かされてしまった。
確かに、ここで呆けている場合じゃない。
「さっきより、お客さん増えてきてますもんね」
「留守の間にも、嬢ちゃんの店の商品を気にしてるやつが何人かいたんだがな。結界で近づけねえんで困ってたぜ」
――なぬ。客を逃しただと?
ううう。いや、でも気にしてくれる人がいるってことは、これからもまだまだチャンスはあるはず。
気を取り直して、頑張らねば。
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