第9話 祭りの準備開始
それから祭り前日まで、私は工房にこもって
集中しすぎて、うっかりご飯を食べ損ねたり、睡眠を取り損ねたりして――気づけば気絶するみたいに、床で眠っていることもあったけど。
これ、師匠に見られたら絶対に怒られるやつだ。
でもそのおかげで、販売するのに十分な量の商品を準備することができた。
「こんなもんかな」
ギルド長に言われたとおり、効果はきちんと抑えてある。
いや……中にはうっかり調子に乗って、細かいデザインを加えてしまったものもあったんだけど。それは泣く泣く今回の売り物からは省いておいた。
だってさ、作ると楽しくなってやっちゃうんだよ……造形オタクの
一個二個なら効果の高い商品を目玉として置いてもいい、とは言ってもらっていたけど、さすがにこの量は多すぎる――結構あるんだよ、いいやつ。
「ええっと、明日はいつもより早く開門するってファーラが言ってたよね。それに合わせて王都に行って、露店場所を決める抽選に参加して……」
陳列用の台も魔術造形で作っておいた。
っていっても、元の世界のイベントでもお馴染みだった会議机ほどのサイズの机とそれに合わせた椅子、階段状の陳列什器ぐらいなんだけど。
どれも色はダークブラウンに統一してあるから、商品は映えると思う。
あ、もし暗めの露店場所に決まったとき用に照明とかもあったほうがいいかな。ランプみたいなものなら簡単に作れるだろうし。
――吊り下げ式で、小さめのをいっぱい作って……ステンドグラスみたいにするのもいいなぁ。あ、いや、そっちが目立っちゃだめなんだって。
やっぱり調子に乗ると凝ったものを作りたくなってしまう。
シンプルに、できるだけ……シンプルに。
気づけば、時間は夜半を回っていた。
◆◇◆
「おはようございます。セトさん」
「あ、ファーラ。おはよ」
門を入ったところで、ファーラが出迎えてくれた。
隣に見慣れない人も大勢いる。受付をしているところを見ると、商人ギルドの人かな?
「おはようございます。今日はよろしくお願いします」
イベント参加の基本は挨拶!
私が声を掛けると、受付をしていた人たちが一斉に驚いたような視線をこちらに向けた。
――んん? なんかおかしかったかな?
でも、挨拶って大事だよね。
露店で隣になった人も、ちゃんと挨拶しないとなぁ。差し入れもちゃんと持ってきたし。
「セトさん。今日は大荷物ですね」
「あはは。つい、イベント気分を味わいたくって」
師匠のくれたアイテムボックスを使えば手ぶらで来ることもできたんだけど、イベントといえば重いキャリーバッグを引きずって行きたくなっちゃうよね。
イベント前から腕が死ぬやつ。でもそれも楽しいんだよ。
ちなみにキャリーバッグも私のお手製だ。中には陳列台と今日の売り物がたんまり入っている。
さすがに机と椅子は入らなかったので、アイテムボックスのほうに放り込んだけど。
「それでは、抽選をどうぞ」
「あ、はい!」
私の番が回ってきた。
抽選は箱の中に入った玉を一つ選ぶ方式だった。こういうの好き。
くじとか抽選とか、無駄にワクワクしちゃうよね。
「ええっと、青の……5番?」
「東広場ですね。行けば数字が書いてありますので、その場所をお使いください」
「わかりました。ありがとうございます」
説明してくれた商人ギルドの人に頭を下げる。
また、ちょっと不思議な顔をされてしまった。なんで?
「東広場かぁ……中央広場のほうがよかったのに」
結果を聞いたファーラが少し不貞腐れている。
そういう顔も可愛い。
「まあ、初めてのお祭り参加だし、それぐらいのほうがいいって」
「……でも、東って」
「なんかあるの?」
「近くにあまり治安のよくない地区があって……だから、普段から荒くれものが多いんですよね。さすがにお祭りの間は騎士たちの巡回警備もあるので大丈夫だとは思いますけど」
「ほう……この王都にもそんな場所があるんだね」
そういえば、王都で師匠の家にお世話になっていた間はほとんど引きこもっていたから、街を探索したことはなかった。
今も必要な場所には行くけど、それ以外、うろつくことはしてないし。
王都にもまだまだ私の知らない場所があるらしい。
「セトさんの売り物、すごいものがたくさんあるので――ちゃんと注意してくださいね?」
「うん。ありがと」
本気で心配してくれているらしい。
こんな美人エルフに心配してもらえるなんて、私幸せだなぁ。
しっかし、荒くれものかぁ。
「ところで、そういうときの正当防衛ってどこまで大丈夫なのかな? 向こうから手を出してきたなら、気絶させたり、倒しちゃっても問題ない?」
「気絶……? 倒す?」
私の質問はファーラの想定外だったらしい。
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