第8話 価値の決め方
「じゃあ、こっちはどう?」
ファーラに別の指輪を手渡す。
こっちは純粋に私の魔力だけで作った指輪だ。
「これなら大丈夫だと思います」
受け取ったファーラが躊躇いなく、それを指にはめる。
空中を見上げて、こてんと首を傾げた。
「あれ? 何も、効果はないみたいですね?」
「やっぱり。本人の魔力が混ざってない状態だと効果はなし……と。あ、一回外してもらっていい?」
外してもらった指輪をもう一度、机の上に置く。
これは、なんとなくわかってきたかも。
「この指輪に魔力を付与……ってできる?」
「いえ。私は付与魔法が使えないので……ギルド長ならできると思いますが」
「それだと意味ないんだよなぁ。売り物にするなら、誰でもできる方法じゃないといけないし」
付与魔法が誰にでも簡単にできることじゃないと、売れる人がかなり限られてしまうことになる。
それじゃ、あんまり意味がない。
「ワシのように、魔力水を媒介するのはどうじゃ?」
「それなら誰にでもできますか?」
「魔力水はそれそのものが魔力を蓄える性質があるゆえ、魔力操作ができる人間であればだれでも扱えるしの」
――ほう。そりゃ便利かも。
「あ、でも。あの水って、珍しいものだったりとかは……」
「取れる場所は限られておるが、手に入れるのは簡単じゃ。手元にいくつかあるから譲ってやってもいいぞ?」
「お願いします!!」
――ギルド長がいてくれてよかった!
やっぱりこういうのって、年の功ってあるかもしれない。
ギルド長がいくつなのか知らないけど。
「これだけあれば足りるじゃろう」
ギルド長はそう言うと、ポケットからこの間と同じ小瓶を十個ほど取り出した。
もしかして、ギルド長のそのローブのポケットって、アイテムボックスになってたりします?
「じゃあ、ファーラ。お願いできる?」
「かしこまりました」
その小瓶を受け取ったファーラが、手に持った杖の先端を瓶に近づける。
中の水の色がみるみるうちに淡い緑色に染まった。新緑の色だ。
「綺麗だね。ファーラの魔力」
「あ! ありがとうございます!!」
――顔を染める美人エルフ、可愛すぎか。
受け取った小瓶の蓋を開ける。
その中にこの間と同じように、指輪を一つ放り込んだ。
「わっ……パチパチいってます!」
「こりゃ、綺麗じゃな」
前に見たのと同じ反応が瓶の中で起こる。小さな火花が現れて弾けては消える。
今回は一分ほどでおさまった。魔力水の色も透明に戻る。
「この状態の魔力水に戻るなら、使いまわしがききそうじゃな」
「あ、本当ですか? それはいいかも」
それならたくさん、魔力水の小瓶を用意しなくても済む。
まあ、念のために予備で何本か準備するつもりではいるけどね。
「この指輪。もう一回、はめてみてくれる?」
「わかりました!」
すっ、と指輪に指を通したファーラが目を大きく見開いた。
さっきのギルド長と同じように空中を見上げ、きらきらと目を輝かせる。
「こんなにも……すごいです」
「お。効果が出たかな?」
「これをつけるだけで、DEXが30も上がるなんて……」
――効果は私が確認したのと変わらないな。でも、+30の効果なんて誤差の範囲かと思ったのに。
「ところで、普通に売ってる付与効果のある装備品ってどれぐらいの補正があるの?」
「ええっとですね。私が持っているのは10も上がりません。それでも結構高価なものなんですけど」
――んんん? 10も上がらないって……もしかして、私の作ったものって結構チートだったりする?? ギルド長のつけてるやつとか、INT+300ぐらいあった気がするんだけど……それも、他の効果もあったりして。
ますますヤバい雰囲気がしてきた。
ううん。いや、まだわかんないけど!!
「ところで。それ、売れると思う?」
「はい!! 欲しい人はたくさんいると思います! 私も欲しいぐらいですし」
「じゃあそれは、ファーラにあげるよ。もうファーラの魔力に馴染んじゃったやつだし」
「そんな! ちゃんと代金はお支払いさせてください!! おいくらですか? 金貨10枚ぐらいですか?」
――金貨10枚って十万円? いやいやいやいや、そんなにもらえないって。
でも、値段はまだ決めていなかった。
これって安いのかな? 高いのかな? 装備の相場を調べてみないといけないな。
「――ワシのこれは、ひと財産になるな」
「へ……?」
ギルド長の不穏な呟きに、私は思わず固まった。
◆◇◆
いろいろ、やり方と方向性は決まった気がする。
装飾品はいくつか種類を作っておいて、効果は値札と一緒につけておいておく。相場は今から確認しに行くんだけど、ファーラにつけてもらった指輪一つ、最低でも金貨10枚だと先に念を押されてしまった。
それでも安いんじゃないかとまで言われたぐらいだ。
――それはないと思うけど。
あと、あまり効果の高いものは量産するなとも言われた。
冒険者のパワーバランスが崩れてしまうかららしい。まあ、それはそうだよね。うっかり、ヤバいやつの手に渡った場合にまずいだろうし。
その辺は私もお客さんの見極めが必要なのかも。
「商売って難しいなぁ」
元の世界でも、価格はいつも頭の痛い問題だった。
私の作っていたものは、材料費だけでいうとそんなに高価なものじゃなかった。それに材料を使う量だって、そこまで多くなかったし。
でも、そこに私の技術料が乗っかってくる。
私しか作れない、唯一無二の付加価値ってやつだ。
それを自分で決めなきゃいけないとか……本当に苦手だった。
技術の安売りをするのがよくないのはわかる。でも、最初は「自分の作品にそんな価値あるかな」って思っちゃうんだよね。
そもそも作るのが楽しくてやってるわけだし、材料費だけで充分って。
でも、そういうのはだめだって、周りの仲間が気づかせてくれた。
私を応援してくれる、作品を好きだって言ってくれる人たちが教えてくれた。
「いいものだって、自信を持たなきゃ。それで! お金をたくさん稼いで、もっといい工房に住む!!」
自分のモチベーションのためにも、それは大事なことだ。
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