第8話 レベルとステータス
杖の店の後は、服を売っているお店に立ち寄った。
私的には着られればなんでもいいや、って感じだったんだけど――師匠がそれを許してくれなかった。私の服を選んでくれたのは全部師匠だ。
――師匠、確かにおしゃれさんだもんな。
あんまり気にしていなかったけど、よく見れば今日着ているローブも昨日のものとは違う。
中に着ているひらひらしたシャツもかなりいい素材のものに見えた。師匠はおしゃれにこだわるタイプらしい。
――でも、私の見た目でそんなにこだわってもなぁ。
ガラスに映った自分の顔を確認する。
うん、超平凡で安心する顔だな――って、ちょっと悲しくなってきたけど。
荷物の中にメイク道具がなかったので、こっちにきてからはずっとスッピンだ。まあ……元からあんまり化粧はしてなかったけどさ。
そんな顔で着飾っても、って私は思うんだけど、師匠は違うらしい。
というわけで、予算である金貨一枚分きっかりの服を買わされた。
その荷物を抱えて、師匠の家へと向かう。
師匠が一時的に借りているという家は、結構な大豪邸だった。広い庭までついている。
建っている場所は王都のはずれだけど、かなりいい家だと思う。すごいな、これ。
「友人の別荘なんだよ。安く貸してもらっている」
「……立派なご友人のようで」
「はは。そうだな。恩は売っておくものだと思ったよ」
――そういうの、確かに大事だと思う。私も頑張ろう。
「この部屋に荷物を置いておくといい」
「あ、ありがとうございます」
通されたのは、二階にある個室だった。
中には一通りの家具が揃っている。昨日、私が寝泊まりした宿の部屋の二倍以上の広さはある立派な部屋だ。
「キミさえよければ、しばらくここに住むか?」
「え? いいんですか? 喜んで!」
「即答か。いいのか? キミはボクを疑ったりしなくて」
「……疑うより信じたいな、と。まあ、人を見る目に自信はないですけど」
裏切られるかもしれないって気持ちがないわけじゃない。
異世界の常識なんてまだわからないし、偶然、宿の食堂で出会った師匠が本当にいい人かどうかなんて、まだわからないけど。
でも、疑うよりは信じてみたかった。
「セト。キミの信頼に応えよう」
「その言い方、なんかカッコいいですね」
ちょっと、じんとしてしまった。
無理やり連れてこられた王城で、ろくな対応を受けなかったからだろうか。
あ、でも宿ではニャオが優しくしてくれたし、城の出口まで送ってくれた騎士さんだって親切にしてくれた。
そう考えてみると、私は結構、人に恵まれているのかもしれない。
「これから、よろしくお願いします!」
改めて、師匠に向かって頭を下げる。
軽やかに笑う師匠の声に、私も笑顔になっていた。
◆◇◆
「魔法の基礎は、魔力操作だ」
「魔力っていうのは、MPのことですか?」
「ステータスを見たんだったな。魔力値を聞いても?」
「1000です。レベルは1ですけど」
「……レベル1でそんなにもあるのか。転移者は能力の優れたものが多いと聞くが、キミは元々魔術師向きなのかもしれんな」
どうやら、この数値は高かったらしい。
転移者補正ってやつなのかな? 一応、チートもあったりする?
「師匠はどんな感じなんですか?」
「ボクか? レベル328でMPはようやく100,000を少し超えたところだな」
「わ……すご。桁違いすぎ」
「いや、そんなことはない。キミがボクと同じレベルになれば、おそらくはボクの何倍ものMPを得ることになるんじゃないかな」
「え……いや、でもそれ以前にレベル328っていうのは……普通に目指せるレベルなんですか?」
「それは無理だろうな」
――無理なんじゃん。
でも、これで師匠がすごい人なのがわかった。
杖のお店でお婆さんから「黄昏の魔術師殿」って呼ばれてたもんね。あれってたぶん、二つ名ってやつでしょ?
ものすごく滾るじゃん。
「INTは高いのか?」
「ええっと、84です。これってどうなんですか?」
「レベル1にしては規格外だな」
「……ほう」
――ってことは、DEXは頭おかしいレベルかな?
とりあえず、そっちは聞かれるまでは黙っておくことにする。
別に言ってもいいんだけどさ。でも……後でびっくりさせるのも面白そうじゃない?
「魔力操作を試してみて、できそうなら簡単な攻撃魔法を教えるか。レベルを上げる必要も出てくるだろうしな」
「そういえば、魔法はスキルって形で覚えるんですか?」
「ああ。基本的にはそうだ」
「基本的には……?」
聞き返した私に対して師匠は小さく頷くと、手のひらを上に向けて私のほうに差し出した。
そこにぽっと火が点る。
「え。杖も呪文もいらないんですか?」
「これぐらいの魔法ならな。これは火属性魔法の中でも初歩の初歩だ。ボクのスキルには『火属性魔法』がある。だが、そこに細かくボクの扱える魔法がすべて書かれているわけではない」
「あ、スキルってそんな大まかな感じにしか表示されないんですね」
「そういうことだ。だから、一つでも火属性魔法を扱えるようになると、キミのスキルにも『火属性魔法』が表示される。使える魔法の大きさ問わず、な」
「……なんだろう。雑ですね」
「ああ。雑だ」
でも、細かく書かれれば人によっては大量のスキルになってしまうだろうし……ステータスウィンドウを延々スクロールしなきゃいけないレベルになってしまわないとも限らない。
――ウィンドウにスクロール機能があれば、だけど。
スクロールできなかったら、レシートのようにだらーんと長いステータスウィンドウになる可能性だってある。
うん。不便だ。これは、雑なほうがいい。
「何か面白そうなことを考えていないか?」
「いえいえ、そんなことは。あ、そういえば! 前に『生まれ持ったスキルがあると魔法の範囲が狭まる』って言ってましたけど……あれは?」
「ああ。スキルを生まれ持っている場合、属性がそちらに傾きやすいんだ。その属性については極められる可能性は高いが、それ以外の魔法があまりうまく扱えないことが多い」
「……へえ。何もないところから覚える分には別にそういう影響はないんですか?」
「ないな。ただ一つを極めるために、かなり努力は必要になるが――キミはそういうのが苦にならない類の人間だろう?」
「ですね!」
師匠には、すっかり見抜かれているようだった。
そういうものほど燃える。私はそういうタイプの人間だ。
何が自分に向いていて、何がそうでないのかは――自分で試して、決めたい。
「さて、では実際に魔力を感じてもらおうか」
師匠の指が私の額に触れる。
「目を閉じて、身体の中心に意識を集中して」
「――はい」
胸のあたりに熱の気配を感じた。
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