第6話 杖のお店と魔法の扉
「おお!! おおおおー!」
何、この店の外観。最高……最高すぎる!!
超魔法のお店って感じする。外観から最高って、中は絶対最高じゃん。
ああ、異世界……本当、最高かな。
「ほら、入るぞ」
「はい!」
師匠が扉を開けて待ってくれていた。
中に入ると、ふわりと木のいい香りが鼻をくすぐる。
「わあ……杖がいっぱいある。すごい」
壁には魔法の杖が所狭しと展示されていた。
どれも師匠が持っているような大きい杖ではなく、某有名魔法学校の生徒たちが持っていたタイプの小ぶりな杖ばかりだ。
形はそれぞれ全然違う。使われてる素材なんかも違いそうだ。
残念なことに細かい装飾がされているようなものはなく、すべて素材を生かしたような無骨なデザインのものばかりだったけど、それでもこれだけたくさん並んでいると、興奮がおさまりそうにない。
「……魔法の杖、っていう響きだけで最高だし」
何度も身震いしながら、壁の杖を一つ一つ眺めていく。
「おやまあ、珍しい方がいらっしゃった。どうされましたか? 黄昏の魔術師殿」
「やあ。久しぶりだね」
奥から店主らしき老婆が現れた。
――黄昏の魔術師?
どうやら、師匠のことらしい。
片手をひらりと揺らして、師匠が老婆の呼びかけに答えている。
「彼女の杖を見に来たんだ。しばらくお邪魔しても?」
「どうぞ、ごゆっくり。そちらのお嬢さんは黄昏の魔術師殿のお弟子さんかえ?」
「そうですね。すぐに追い抜かれてしまうかもしれませんが」
「ほっほっほ。黄昏の魔術師殿を追い抜くかもしれないお嬢さんとは――奥もご覧になられますかな?」
「そうだね。見せてもらおうか」
――んん? なんか二人が私の話で盛り上がってる気がするけど……まあいいや。それより、奥って……もしかして、ここにある以外にも杖があるの!?
私の興味はそっちだった。
そんなの見たいに決まっている。まずはこっちの杖を全部見てからだけど、奥も後からゆっくり見させてください。是非とも。
店の中はそんなに広くないけど、本当にたくさんの杖が並んでいる。
そんな大量の杖を、端から順番に眺めていく。
「師匠……杖って、どうやって選ぶものなんですか?」
「直感かな」
「――お、おう……直感」
杖選びって、そんな天啓的な感じでいいんだ。
ちなみにどこにもお値段は書いていない。値札もついていないけど……これ、お高かったりしませんか?
私の手持ちは城で貰った金貨20枚だけだ。
それも昨日宿で少し使ってしまったので、すでにそれより減ってしまっている。
「……うーん」
「気に入ったものは見つかりそうかい?」
「……うーん。直感っていうのがどんな感じなのかすらわかりません」
「ははっ、そうか。まあ、そうだろうね」
――そうだろうね、って。予想してたんですね。
一通り、ここにある杖は見てみたけど、直感的に「これ」といったものはなかったような気がする。いや、ピカーッて光って見えるわけじゃないだろうし、どれがいいのか本当にわからないんだよ。
造形的に惹かれるやつも今のところない。
面白いとは思うんだけど……うーん。
「そういえば、奥にも杖があるんですか?」
「ああ。奥にあるのは売り物にならないものだけどね……もしかしたら、そっちのほうがキミに合っているかもしれない」
「……売り物にならない?」
どういう意味だろう?
ここは杖のお店なのに、売り物にならない杖って……不良品とか?
「見たほうが早いな。奥に行くかい?」
「行きたいです!」
まあ、そこに私に合った杖があるかどうかはわからないけど――もしかしたら、変わったものが見られるかもしれないし。
「こっちだ」
そう言って、師匠が案内してくれたのは店の奥、小さな扉の前だった。
本当に小さい扉――私の腕すら通りそうにない妖精サイズの扉だ。
「……え、この奥? 入れなくない?」
「このドアノブに触れて、魔力を流すとね」
「わ、わわわ……ッ」
――大きくなった!! 扉!!
きらきら、と光の粒子が舞ったかと思えば、あっという間に扉が人間サイズに大きくなった。
すごい。魔法の扉だ。
初めて目の当たりにしたリアルな魔法に感動が止まらない。
興奮も堪えられなくて、目の前にあった師匠の背中をバシバシ叩いた。
「すごい! すごーい!!」
「……ちょっと、セト。痛いって……まあ、そうやって驚いてくれるのは悪い気はしないが――さあ、中へどうぞ」
「はい!!」
心臓をドクドク高鳴らせたまま、師匠が開けてくれた扉をくぐる。
中には、感動の光景が広がっていた。
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