Chapter28-5 俱利伽羅剣(2)

「オレたちのことを、いつから捕捉してたんだ? どこまで把握している?」


 何よりも先に、魔人王がこちらの情報をどれほど掴んでいるのか知りたかった。相手の抱えている情報次第で、こちらの動きがだいぶ変わってくる。


 無論、虚実を看破するための準備は入念に行う。魔力隠蔽した【白煌鮮魔びゃっこうせんま】を併用して、些細な嘘も見逃さないように注意した。


 すると、魔人王は僅かに身じろぎをする。


「嫌な眼だ。青魔鬼しょうまきのキミがどうやっているかは知らないけれど、嘘を見破る魔法を使っているね? あの看瞳かんどう族も、今のキミと同じような目つきをしていた」


 どうやら、逆に、オレの魔眼行使を見破られたらしい。魔力隠蔽を併用すれば、アカツキにさえ隠し通せたのに。


 まぁ、口振りからして、隠蔽を見通したというよりは、こちらの態度から推測しただけのようだが。


「貴様、まさか反逆者どもの回し者かッ!?」


 魔人王の言葉に、控えていた黄魔鬼おうまきが怒鳴る。二、三歩踏み出し、歯を剥き出しにして威嚇を始めた。


 すぐに襲い掛かってこないのは、魔人王の命令がないためだろう。


 沸点が低い部分は改めるべきだと思うけど、大した忠誠心だ。この場に同席させているだけはある。


 気炎を上げる彼に対して、魔人王は冷静に諭した。


「落ち着くんだ、バウテル。彼らは幽谷ゆうこくに潜んでいた反逆者を殲滅している。連中の味方ということはない。だろう?」


「そうだな。彼らとは相容れない」


 最後に同意を求められたので、正直に頷く。


 それを認め、魔人王は満足げに頬笑んだ。


「ほらね。だからバウテル、控えるんだ。その忠義は嬉しいけど、キミの出る幕じゃないよ」


「……申しわけ、ございません」


 唇を噛み、悔しそうに後退する黄魔鬼おうまきのバウテル。


 しかし、完全に納得してはいないらしく、依然、オレたちを強く睨みつけていた。


 彼の内心を察しているものの、今は無視する模様。魔人王は苦笑いを浮かべながらも、話を続けた。


「で、ゼクスたちについて何を知っているか、だったかな?」


「そうだ」


「順番に答えよう。まず、“いつから”が良いだろう」


 魔人王は滔々とうとうと語る。


「存在自体は、ゼクスが山向こうの国に現れた時から把握していたよ」


 ――なんだって?


 俱利伽羅剣くりからけんの能力【覇動はどう】は、そこまでの広範囲まで網羅できるのか?


 予想を超える発言にオレが内心で眉をひそめる中、魔人王は「ただ」と口を動かす。


「正直、偶然だったけれどね。けしかけたトロールたちの反応を追跡していた、かつキミが非常に強い存在だったからこそ、かろうじて気づけたんだ。捉えた反応自体も、『強そうな何かがいる?』程度の曖昧なものだったし」


「オレが何者か……知性体であるかも分からなかったと?」


「そうだね。僕の有する探知能力は、そこまで万能じゃないんだ。距離は無視できるけど、把握できるのは“力”の度合とその位置情報だけ。しかも、どんぶり勘定。とても諜報には向かない」


「オレたちの位置は把握していたが、それ以外は何も分からなかったのか」


「そうなるね。ゼクスがこっちに進んできた時は焦ったんだよ。やばい奴が来るかもしれないってね。かといって、あんな険しい山岳地帯に準備ナシで突っ込むのは無謀すぎる。だから、キミたちが国内に入るまで、手出しができなかったんだ」


「首都に来るまで、一度も接触はなかった気がするが?」


「それは、ゼクスの隠密が上手すぎるせいだよ。さっきも言ったけど、愛剣の探知はどんぶり勘定。ここまで接近してもらわないと、正確な位置情報を割り出せなかったのさ」


 なるほど。こっそり移動してきたオレたちの行動も、無意味ではなかったらしい。早々に発見されていたら、この国の内情を調査できなかったわけだから。


 ということは、つまり――


「ようやく『どこまで把握しているか』の質問に繋がるわけだけれど、僕はゼクスたちについて、ほとんど何も知らない。分かっているのは、せいぜい経由した町の名前くらいだよ。反逆者たちの件だって、彼らの反応が消えたことから推測したにすぎない」


 ……嘘は吐いていないようだ。


 覗いた感情からも判断したが、一番の根拠は、自身――聖剣を含む――の探知能力をあっさり明かしたこと。


 あそこまで軽々しく喋った態度を見るに、魔人王は探知能力を重視していないんだろう。彼が言葉にした通り、諜報向きの能力ではないから。伝えたところで、何の痛痒にもならないんだ。


 とどのつまり、魔人王は、本当にオレたちの移動ルートしか知らなかったらしい。モオ王国にいた時から捕捉されていたのは、さすがに驚いたが。


 あともう一つ、気づいたことがある。


 ここまで、魔人王はオレにしか触れていない。徹底して、オレ個人に関する話しかしていなかった。


 魔術大陸組にノータッチなのは分かる。魔人たちと比べたら彼らは弱い上、魔力も持たない。取るに足らない存在と考えられていても不思議ではなかった。


 しかし、マリナやマロンに一切言及しないのは不自然だった。強者を察知するのであれば、限界突破レベルオーバーしている二人を気に掛けても良いはずだもの。


 オレと彼女たちの違いは、おそらく、星外判定を受けているか否かだろう。


 根拠のない妄想にすぎないが、俱利伽羅剣くりからけんは星外かつ突出した強者であるオレの存在を優先し、あえて他のメンバーを除外しているのでは?


 聖剣の『星外生物をほふる』という存在意義を考慮すると、あながち間違ってもいないように思う。あれは魔人の本能に近い性質だからね。


 とはいえ、それだと説明がつかない部分もあるんだよなぁ。


 それは現状そのものである。


 俱利伽羅剣くりからけんがオレの存在を警戒しているのであれば、当然、持ち主たる魔人王にもその危険性を伝えるはずだ。


 にもかかわらず、魔人王は襲撃ではなく話し合いを提案した。戦っても無意味だなんて諦念も感じられない。


 これらの齟齬は、無視するには大きすぎた。


 気持ち悪い。この島に来てからずっと感じていたチグハグが、より印象強くなった。うっとうしいこと、この上ない。


 こういう時は、絶対に何かを見落としている。それをしっかり見極めるまでは、慎重に動くべきだろう。慌てず、焦らず、冷静に、腰を据えて。


 幸い、魔人王は『何でも答える』と言っている。今は流れに身を任せ、質問を続けよう。

 

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