Chapter25-1 策動(1)
お待たせいたしました。本日から隔日で投稿を再開します。よろしくお願いします!
☆前回までのあらすじ
神の使徒ダルクが画策した帝国との戦争が始まったものの、初戦は大勝を収めるゼクスたち。
それに乗じた魔女コミュニティ『クロユリ』も難なく撃退した。
ただ、その騒ぎの隙を狙い、転移者の師子王たちが聖王国に潜り込んだ模様。
かつて予言された『ゼクスの死』の期日が近づく中、どんな展開が待ち受けているのか、乞うご期待!
――――――――――――――
聖王国と帝国の国境線
戦争が始まって一週間が経過した。初戦以降も何度か両軍の衝突は起きており、その度に聖王国側が勝利を収めていた。
最初以外は小競り合い程度のものだったけど、勝利は勝利。現在の聖王国軍の士気は非常に高い。それは、働く兵士たちの意気揚々とした動きからも見て取れた。
若干浮ついた雰囲気に、オレ――ゼクスは幾許かの危機感を覚える。成功体験自体は経験しておいた方が良いし、『成功して当然』という自信を持つことも大事だ。しかし、それを『絶対に覆らない事実』と誤認してしまうのは看過できない。
――まさか、こちらの油断を誘うため、わざと負け続けたのか?
そういった最悪の予想が脳裏を過るけど、すぐに
あまりにもリスクとリターンが見合っていない。ここまで、帝国側も多くの兵を失った。多くの戦闘が小競り合いだったとはいえ、それでも一度に数十名の戦力をあちらは失っている。作戦と称するには無謀すぎだ。
まぁ、一応気をつけておいた方が良いか。フォラナーダの者たちなら油断はないだろうし、最悪の事態は防げるだろう。
それに、参謀のアリアノート王妹が、オレでも思いつく予想をしていないわけがない。これは、きっと杞憂に終わるはずだ。
小さく苦笑を溢したオレは、にぎわう兵士たちに背を向けて、本陣である天幕へ歩く。夕餉の前に、明日の予定について話し合うんだ。
大きな天幕の中には、すでに大将格が全員そろっていた。中には、オレの代わりにフォラナーダ軍を率いてくれている我が妻ミネルヴァの姿もある。どうやら、オレが最後だったらしい。
「申しわけない。遅れてしまいましたか」
「大丈夫ですよ、時間通りです。むしろ、最後で良かったくらいです。軍のトップである元帥よりも集合が遅いとなれば、皆さまの顔が立ちませんから」
軽く謝罪を口にしたところ、奥の方の席に座る金髪の女性――アリアノートが首を横に振った。『
それを言ったら、アリアノートは王妹なんだが……。
口を衝きそうになったツッコミを飲み込み、彼女の隣の空いた席に座る。
こちらの着席を見届けてから、アリアノートは「では」と口を開き直した。
「本日最後の会議を行いましょう。本日の報告と明日からの予定を、大まかに語り合おうと思います」
彼女の合図の後、補佐役の貴族が今日一日の情報を語り始める。
主な内容は、辺境の農村手前で行われた小規模戦についてだ。つい昨日までは、街道沿いの自然界を舞台としていたんだが、いよいよ人里を巻き込むようになったのである。
といっても、一般市民への人的被害は出ないよう、細心の注意を払っている。その辺りは、モナルカ第三皇子と約束しているからな。
まぁ、村の建物や畑には多少の被害を出してしまったけど、そこは割り切るしかない。すべて傷つけずに戦争をするなんて、土台無理な話なんだから。
補佐官は
話を聞く限り、今後に影響が出そうな事態には
アリアノートも同じ感想を抱いた様子。彼女は大きく頷いた。
「こちらの被害は最小限で済んでいるようですね。これもゼクスさんやカロラインさんのご協力のお陰ですわ。改めて、ありがとうございます」
「お気になさらず。私も元帥の座を預かっている者です。このくらいの協力は当然でしょう」
対し、オレは何てことない風に笑みを溢す。
今のセリフが言うように、被害が最小で済んでいるのにはオレたちが関わっている。
治療については、語らずとも分かるだろう。光魔法師である我が最愛の妹が、この前線に訪れているんだ。アリアノートと二枚体制ゆえに、ケガ人の治療はあっという間に終わっていた。
また、オレの功績というのは、物資に関してだ。【
もちろん、【
アリアノートは言う。
「我々が強気に進軍できているのは、転移魔法の存在と光魔法師が潤沢にいる二点のお陰です。また、個人の武勇に優れた方が多いことも大きいですね。ただ、一つの懸念があります」
「懸念、ですか?」
順調な戦績に浮ついていたのは、一般兵だけではない。あからさまではないものの、代表たる貴族たちにも気の抜けた部分があった。だから、“懸念”という言葉を受け、僅かばかり騒めく。それを口にしたのが、誰もが認める頭脳を持つアリアノートなら余計に。
「初戦からここまで、我々は順調に進んできましたわ。それ自体は良いことなのですが、あまりに手応えがなさすぎないでしょうか?」
「……順調すぎるゆえに、何らかの罠の可能性を疑っていらっしゃると?」
「考えすぎでは? 罠にしては、帝国側は身を削りすぎている」
アリアノートの考えを察した貴族が問い、別の貴族がその予想に反論する。
それをキッカケに議論が白熱しそうになったが、誰よりも早くアリアノートが再び口を開いた。
「今回占領した農村の状況を見ると、『帝国も身を削っている』とは一概に言えないのではないでしょうか」
「「「「「……」」」」」
アリアノートの言葉に、場は静まり返った。
誰も反論できなかったんだ。彼女の言うことが正しいと感じられたから。
我々の現状に、一つ不思議な点が生じていると思う。それは、村を占領したというのに、自陣を丘陵地帯に敷いていることだ。現在地は、占領した村よりも、さらに先へ進んだ場所だった。
普通は人里に寄せて組み立てた方が良いにもかかわらず、聖王国軍は自然のド真ん中に待機している。
理由は至って単純だった。今回の小競り合いで獲得した村が、あまりにも拠点を設置するのに適していなかったのである。
家屋は掘っ立て小屋がメインで、魔道具なんて当然あるわけがなく、井戸も紐で引っ張り上げるだけの代物。時代に取り残された人里が、そこには広がっていたんだ。
それだけではない。金銭的な余裕がないせいか、大勢が飢えており、衛生状態も最悪だった。あちこちに腐敗物が転がっており、生きたヒトが生活しているなんて信じられないほどの、劣悪な環境だった。
幹部待遇のカロンがこの場にいなかったのは、隔離した天幕で、今にも死にそうな村人たちを治療しているためだった。飢えた子どもたちを見た彼女は、かなり憤慨していたよ。
要するに、この地を治める貴族は、この周辺をまともに管理していなかったわけだ。少なくとも、オレたちが占領した村は放置していた。削り取られたところで、痛くも痒くもないに違いない。
貴族の一人が、難しい表情を浮かべて尋ねてくる。
「しかし、初戦ではあちらの第二皇子が戦死し、多くの兵士も死にました。いくら帝国軍の規模が大きかろうと、かなりの痛手だったと思います」
確かに、初戦の敗北は軽く済まされるものではない。罠の仕掛けにしては、リスクが見合ってなかった。
それに対して、アリアノートは淡々と答える。
「初戦は別と考えるべきでしょう。あの戦は、勝てないとしても、こちらに打撃を与えるための人員配置だったように思います。罠はそれ以降、我々が帝国内に進軍してからと考えれば、あちらの被害は軽微で済んでいますわ」
「都合良く考えすぎでは?」
「罠を考慮しない方が、楽観的かと思いますが?」
疑問を呈した貴族が負けじと続けたが、それを一刀両断するアリアノート。
これは勝負あったな。
慎重を期すなら、罠を考慮した方が良い。まったくの見当外れでないのなら、なおさら気をつけるべきだ。可能性の芽が見えていながら、『考えすぎ』で片づけるのは愚かである。
他の貴族たちも、同じ結論に至ったよう。その後はトントン拍子で話が進んだ。
最終的に、進軍は一度中断。現在地でどっしり構えつつ、偵察部隊を先行させることに決まった。
これが敵の足止め作戦だった場合、見事に踊らされた結果になるが……無謀に突貫するよりはマシだろう。多少は損しても、命大事に、である。
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