Chapter24-2 結婚式と襲撃(1)
四月末の某日。それは、聖王国にとって大切な一日となる。何故なら、現聖王ウィームレイと第一王妃ビアトリス、第二王妃クラウディアの結婚式が開かれるからだ。
かの不祥事――『魔王の終末』後、初めて催される国のイベント。聖王国の威信をかけて執り行わなければいけない。ゆえに、その規模は盛大だった。
商人を通して一年前から宣伝しているし、国賓も広く招待した。
告知だけではない。王都では、結婚式の数日前から祭りが開催されている。結婚式自体も披露宴とパレードの二部構成と、非常に豪華だ。まさに、聖王国の全力を尽くした式と言えよう。
まぁ、フォラナーダはあまり手を貸していないんだけどね。『魔王の終末』の結末を考えると、『聖王国はフォラナーダだけではない』と見せつけなくてはいけないんだよ。
オレたちが協力したのは、当日の警備、食材や技術などの提供くらいである。
結構食い込んでいるって? 計画自体は王宮派の主導なので、問題ないはずだ……たぶん。
さて。そんな国家事業であるウィームレイの結婚式だが、当日になって不穏な雰囲気が流れていた。
というのも、王都に入り込もうとする不審者が、今朝になって続出しているんだ。いずれも呪物を所有していた危険人物として、即座に捕縛されている。全員の素性がバラバラなことから、魔王教団の残党との見方が強かった。
詳しい情報に関しては、今のところ不明。絶賛尋問中だが、ギリギリ披露宴に間に合うか否かだろう。
今さら、魔王教団が動く理由とは何なのか。不確定要素がある状況で式を開くことには、不安が残る。正直、延期した方が良いとも思っている。
しかし、簡単に延期できないことも理解していた。数多の国賓が訪れている以上、弱気な態度は見せられないんだ。テロ組織に屈したと判断されてしまう。
危険性が明確なら、躊躇いなく決断できたと思う。だが、現時点では、王都勤めの衛兵でも捕縛できる敵しか現れていない。警備強化の言い分は通っても、式の延期までは難しかった。
「てい」
「うっ」
脇腹を小突かれ、小さく呻くオレ。突然のことだったため、思わず声が漏れてしまった。
隣を見れば、ドレスで着飾ったミネルヴァが半眼をこちらに向けている。
オレたちは、結婚式の披露宴に参加中だった。王城内のパーティーホールにたくさんのテーブルが並べられており、その一席に座っている。
この場にいるのは、オレやミネルヴァだけではない。すでに籍を入れたメンバーとオルカも、同じテーブルにそろっていた。彼女たちも、こちらを心配げに見つめている。
ミネルヴァは小声で続ける。
「慎重になるのは分かるけれど、悲観的になりすぎるんじゃないわよ。心持ちは『私たちがいれば大丈夫』って考えるくらいが、ちょうど良いわ」
どうやら、親友の結婚式を成功させたいあまり、気負いすぎていたみたいだ。いらぬ心配を抱かせてしまって、申しわけなく思う。
オレは努めて笑みを浮かべ、謝った。
「ごめん、もう大丈夫だ。心配かけた」
「まったくよ」
フンと鼻を鳴らすミネルヴァと、安堵の息を漏らすカロンたち他の面々。
いつも通りの彼女たちを見ると、神経質になっていた自分がバカバカしく思えてくる。本当に、できた妻たちだよ。
ミネルヴァの言う通り、オレはドンと構えていれば良い。悩む暇があるなら、全力で警備に当たれば良い話だ。
オレは小さく息を吐き、念のために【
程なくして、ウィームレイたちへ祝辞を告げるプログラムに入る。基本的に爵位順だが、今回は国賓もいるため、そちらが優先された。
順番を待っている間、カロンが静かに口を開いた。
「それにしても、帝国は本当にモナルカ殿下が出席なさったのですね」
ちょうど今、ウィームレイと会話を交わしているモナルカ。彼を見つめる視線には、同情が多分に含まれている。
「損な役回りを押しつけられたのは事実ね。でも、彼も皇族よ。覚悟の上でしょう」
ミネルヴァも頷いたが、カロンほど寄り添ってはいない。王侯貴族の義務を強く意識しているゆえの意見だった。
すると、そこへオルカが続く。
「ゼクス
彼の問いかけに、オレは首肯する。
「そうだな。静観してもらう代わりに、事後処理を任せる約束をした」
正確には、『賠償にモナルカの命を含まない』だが、それが事後処理の一任のためだと、彼も理解しているはずだ。
こちらの答えを聞き、『やっぱりね』と納得した顔をするオルカ。彼だけではなく、他の面々も得心した様子だった。
「気持ち、分かります。ゼクスさまが控えてるってだけで、かなり安心しますからねぇ」
「モナルカ殿下の状況把握能力や決断力は、非常に素晴らしいと思います」
「
マリナ、シオン、ニナの順に、各々の視点からモナルカを評価する。
ちなみに、スキアはコクコクと首を縦に振るだけだ。彼女に、ここで発言できるだけのコミュニケーション能力はない。
皇族に対して若干失礼な物言いではあるけれど、褒めてはいるんだろう。
まぁ、口うるさいことは言わないさ。一応、他者に漏れないよう、防諜系魔法で音や口元をカモフラージュしているもの。
それに、オレもおおむね同意見だった。留学当初の行動を合わせても、モナルカは決断力と行動力に優れていると思う。
でなければ、潜在的な敵対国に留学しようなんて考えないし、僅かな期間で一学年の大半を掌握もできない。
また、オレに勝負を挑んできた点は大失敗と思われがちだけど、案外そうでもなかった。申し出は形式に則っていた上、暴言の類もなかった。オレとの繋がりを得たと考えれば、かなりの大収穫だったんじゃないかな。
こうやって今までの行動を列挙すると、本当にモナルカは優秀だ。若さならではの暴走はありつつも、しっかり責務をこなしている。
やはり、モナルカと事前交渉したのは正解だったな。彼がいれば、戦後の帝国は立て直せるだろう。
周囲の視線を物ともせず自席に戻る彼を眺めながら、オレはそう思った。
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