Interlude-Orca 残された者
時系列は「王道(2)」~「王道(3)」の間です。
――――――――――――――
本来ならゼクス
ボクは走らせていたペンを止め、小さく溜息を吐く。それから大きく腕を伸ばした。本日の仕事が、とりあえず終わったのである。
ゼクス
前者はともかく、後者は慎重に動く必要があった。だって、ゼクス
とはいえ、多忙だっただけで、切羽詰まった状況にまでは
マニュアルの内容は多岐に渡る。不在を伝えても良い人物の記載、各所の運営方針、ゼクス
まさか、これが役に立つ日が来るなんてね。
マニュアルの作成を提案したのはゼクス
言わんとしていることは分かる。今のフォラナーダは、ゼクス
ただ、あまりにも早すぎる対策なのも事実。ゼクス
まぁ、実際はその判断が正しかったんだけどさ。ちょっと釈然としないよ。
ちなみに、振り分けたゼクス
最初は疑問に感じたけど、何てことはなかった。領主が忙殺されるほどの仕事量を、部下たちが回すわけがないのである。そんなことをしては文官失格だろう。ゼクス
では、ゼクス
正直、これらの”プラスアルファ”も含めると、マニュアル程度ではカバーし切れないと思う。マニュアル化が進んでいるのは基本業務の部分だけだし、ゼクス
――というわけで、忙しい日々を送りつつも、無難に日常を回していた。
ずっと働き詰めなのは大変だけど、ゼクス
一番ギリギリなのはカロンちゃんだ。
今の彼女は本当にヤバイ。手足が震え、目が泳ぎ、気分も沈みっぱなし。周囲に当たり散らすことはないものの、中毒症状に苦しむ患者みたいな様相だった。今が夏休みで、心底良かったと痛感しているよ。誰にも会う必要がないからね。
こういった症状を発症するのは、何も初めてではない。たしか、ミネルヴァちゃんの
あれ以降、ゼクス
理由に見当はつく。
一つは、完全な不意打ちによる離別だったせい。心の準備ができず、カロンちゃんは精神が乱れてしまったんだろう。
もう一つは、【
気持ちは分かる。忙しくなかったら、ボクだってもっと不安に駆られていたはずだ。現状でさえ、寝る前にゼクス
”コンコン”
ボーッとゼクス
「失礼いたします。ミネルヴァさまがお見えです」
「ミネルヴァちゃんが? どうぞ、入ってもらって。あと、お茶の用意もお願い」
「承知いたしました」
彼女は慇懃に一礼すると、ミネルヴァとともに入室してきた。
「お仕事中だったかしら?」
「ううん、大丈夫。今さっき終わったところだから、遠慮しないでいいよ。そっちのソファに座って」
ボクとミネルヴァちゃんは、部屋の中央にある応接用のソファへと腰をかける。
うーん、彼女もずいぶん参っているみたいだ。
意地っ張りな子なので、普段と変わらない態度を取っている。でも、いつもより表情に陰りが窺えた。ほんの些細な違いだけど、一緒に生活を送っている面々なら気づけると思う。
ミネルヴァちゃんの心を沈ませている原因なんて、一つしかなかった。
「ゼクス
「べ、別に、彼の心配なんてしていないわ。仕事の疲れが出ているだけよ」
ボクが不調を指摘すると、彼女はバツが悪そうにソッポを向いた。
確かに、仕事が大変なのも原因の一つに含まれるだろうけど、それが全部ではないのは明らかだ。だって、今は外交面の業務が少ない。ミネルヴァちゃんに回される仕事量も僅かだった。
苦し紛れの言いわけだと理解しているからこそ、彼女は顔を逸らしたんだ。
素直に答えれば良いのに。
相変わらず気難しいミネルヴァちゃんに、心のうちで苦笑を溢す。
ゼクス
それでも踏ん張っていられるのは、『ゼクス
「夜も遅いし、本題に入ろうか。何の用事かな、ミネルヴァちゃん」
「マリナから連絡があったわ。魔素バランスが安定するのは四日後よ」
「そっか」
ボクは素っ気ない反応を示す。
でも、内心は違った。あと四日を我慢すれば、ゼクス
「オルカ。正気に戻りなさい」
「ハッ!?」
ミネルヴァちゃんに声をかけられ、我に返る。
帰ってきた時に”してもらう”アレコレを考えすぎて、完全にトリップしていた。
数秒くらいの空白だったはずだけど、ミネルヴァちゃんにはバレバレだった模様。半眼で睨まれてしまった。
「えへ?」
「そういうのは、彼にしなさい。私に可愛さアピールは無意味よ」
「だよねぇ。ミネルヴァちゃんはゼクス
「ゾッコ……そ、そんなことないわよ」
顔を真っ赤にする姿を見せられては、何の説得力もないと思う。
ただ、これ以上は野暮なことを言わない。意固地になるのは目に見えているからね。
ボクは沸きかけた頭を一旦リセットし、冷静に思考を回す。
「しかし、四日かぁ。内側は問題ないかな。事前に準備のお陰で、一年はゼクス
ただし、メンタル面を考慮しなければ、という注釈はつく。
ミネルヴァちゃんも語る。
「外交面はギリギリね。ウィームレイ陛下のご協力も込みで、誤魔化すのは十日程度が限度だったから」
「ゼクス
「良くも悪くも、ね」
注目度の高い人物が姿を隠せば、真偽に関わらず、いらぬ噂が流れてしまう。フォラナーダにとって何の痛痒にもならないけど、避けられるなら避けておきたい事態だろう。
とはいえ、それも杞憂に終わった。今の情報統制を続ければ、問題なくゼクス
そうなると、憂慮すべきは残り一つ。
「用件って、それだけじゃないでしょう? その程度だったら
ボクがそう尋ねると、ミネルヴァちゃんは肩を竦めた。
「話が早くて助かるわ。あの子のところに行くから、付き合ってほしいのよ」
「嗚呼、やっぱり」
得心の声を漏らすボク。
彼女の用件こそ、残された憂慮だった。
「カロンちゃん、四日も持つ?」
先も少し触れたけど、カロンちゃんの容態が割とヤバイんだよね。
「無理」
「バッサリ言うね」
「だからこそ、同行してほしいの。慰める人数は、多い方が楽だわ」
「あはは」
ボクは苦笑いを浮かべる。
カロンちゃんのことになると、ミネルヴァちゃんって普段以上に
「分かった。一緒に行くよ。ボクもカロンちゃんは心配だし」
「そう。なら良かったわ」
用意されていたお茶を飲み、ボクらは席を立ち上がる。
そして、その日の夜は、カロンちゃんを慰めるのに費やした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます