Chapter14-2 落ちこぼれの責任(1)
校長とのトラブルの後。さすがに校内巡りという気分でもなくなったため、部屋で休むこととなった。
ただ、すぐに自分の部屋へは向かわない。エコルと情報をすり合わせる必要があったので、彼女の私室に足を運んだ。
どう提案したかと言えば、直球に尋ねた。校長に排除を検討されていた原因を、まったく知らずにはいられないもの。ある意味、今回のトラブルが良い方向に転んでいた。
「お邪魔するよ」
「狭いけど、遠慮なくどうぞ」
エコルの部屋は、学生寮の隅に存在した。
というか、ここは通常の部屋ではない。デッドスペースを利用した完全に物置部屋だった。
謙遜でも何でもなく、めちゃくちゃ狭いんだ。彼女が寝転んだだけで床が埋まってしまうほど。窓はないし、天井も低い。ヒトが寝泊まりする場所とは、とうてい思えなかった。
当然、そんなところに私物を置くスペースはない。たたまれた布団と教科書の類しか見当たらなかった。
校長の態度より嫌な予感はしていたけど、学校ぐるみで扱いが悪かったようだ。実際の状況を目の当たりにすると、結構驚いてしまうな。
オレが引いているのを察したんだろう。エコルは苦笑を溢す。
「中には、優しい先生もいるんだよ」
「ロクーラとか?」
「んー。あの先生は、良くも悪くも中立だね。どの生徒にも、おんなじ対応してるだけ」
「それはそれでスゴイな」
「まぁね。身分差を考慮しないから、貴族の親御さんには評判悪いみたいだけど」
「生徒は違うのか?」
「噂を耳にした程度だけど、慕われてるっぽいよ。さあ、空いてるところに座って。いくら狭くても、二人が並んで座るくらいはできるでしょ」
立ち話も程々に、オレたちは向かい合って腰を下ろす。ノマはオレの肩の上に座った。
「本当はお茶とか出すべきなんだろうけど……」
「気にするな。無理なのは分かってる」
「ごめん」
申しわけなさそうに後頭部を掻くエコル。
対して、こちらは軽く手を振るに留めた。この話題を掘り下げる意味もないため、そのまま本題へと切り替える。
「――で、エコルの事情を伺いたいんだが」
「そうだね。呼び出しちゃった以上、ゼクスも他人事じゃないし」
命が繋がっている件を差し引いても、彼女の事情は無視できるものではなかった。
何故なら、オレはエコルの使い魔だから。
契約の有無は関係ない。他人はそう認識するという話だ。校長と同様の見解を、その他大勢も持つらしいんだ。ゆえに、オレも関係者として狙われるのは確定事項だった。
まったくもって面倒くさい。呼び出されたのがオレだったから良かったものを、他の魔法師だったら、どうなっていたことか。
大きな魔法を使えば使うほど、自然災害が発生するんだ。その事実に気づいても気がつかなくても、多くの人々を巻き込んだ事態へと発展したに違いない。
……いや。レクスがサザンカを召喚していたことから察するに、一定以上の実力者が呼び出される仕組みなのか?
“刻印”には『術者に相応しい相手を呼び出す』といった曖昧な術式しか組み込まれていないけど、その解釈次第ではあり得そうだな。
そんな益体のないことを考えつつ、オレはエコルの話に耳を傾ける。
「アタシはカナカ王の実子なんだよ。母さんは小さな商家の出だから、いわゆる庶子だけど」
「やっぱりか」
「バレバレだったね」
こちらが納得したと頷くと、彼女は乾いた笑声を溢す。
とはいえ、すべてに疑問が払拭されたわけではない。
「何で、ここまで迫害されてるんだ? いくら庶子とはいっても、王族の血筋なのは変わりないだろう?」
物置に押し込んだり、イジメの対象だったり、校長に命を脅かされかけたり。庶子という危ない立場のみでは考えられない仕打ちだ。他に原因があって
「ちょっと、複雑な事情があんだよねぇ」
エコルは気まずそうに頬を掻き、より詳しく内情を語る。
「アタシが庶子だって事実が判明したのって、ここに入学した後なんだよ。あっ、学校は十三になる年から通うんだ。だから、三年前くらいかな?」
「「はぁ?」」
思ってもみなかった回答に、驚きの声を上げてしまう。
それは大人しくしていたノマも同様だった。フォラナーダでの生活を経て、彼女も貴族の風習に詳しくなったので、何がおかしいのか理解したんだろう。
王家が自分たちの血の行方を把握できていないなんて、愚者を通り越してゴミ以下だ。
何せ、僅かでも血を継承していれば、後継として立候補できるんだ。きちんと管理できていなければ、『この子は王家の血を継いでいる』と語り放題になってしまう。無限に王族が湧き出る事態は避けられない。
特に、この世界は魔法等を受け継ぐため、前世よりも遺伝の重要性が高かった。甘い管理体制は、下手を打つと反乱に直結する。
だのに、十三まで把握できていなかった? 部外者のオレでも、阿呆かと怒鳴りつけたい気分になったよ。
しかも、さらなる暴露がエコルより吐き出される始末。
「お忍びで街に来たカナカ王に襲われて、その結果に身ごもったのがアタシなんだってさ。まぁ、あとで調べた情報から導き出した話だから、本当のことかは分からないけど」
「母親は何て?」
「過労で死ぬまで何も教えてくんなかった。王の醜聞になりかねないって脅されてたみたい。そのせいで、実家を勘当されて、一人でアタシを育てるハメになったのに。よっぽど王家が怖かったんだと思う」
「……」
頭が痛かった。
一国の王が一般庶民を襲っておいて、アフターフォローもせずに黙殺させる?
究極のバカだ。下半身でしか物を考えられない、獣の類に違いなかった。
当時の側近の責任でもある。王を止められないにしても、何かしらのケアはしておけよ。どうして脅しで済ませるんだよ。
しかし、得心はいった。そのような事情があるなら、エコルの現状も理解できる。
「要するに、エコルの存在を許すと、カナカ王家を騙る詐欺師が続出しかねないわけか」
「そうみたい。ちゃんと調べれば嘘かどうかは分かるんだけど、混乱を呼ぶのは間違いないって」
「だろうな」
真偽を判別する席に立たせるまでに、それなりの労力や時間を要する。つまり、詐欺師たちに猶予を与えるのは確定しているんだ。その間、国内が混乱するのは間違いない。
また、調査もタダでは行えない。血筋を名乗り出る者の規模次第では、かなりの負債を抱えるだろう。政治に携わる者として、そんな事態は認められるわけがなかった。
だからこそ、エコルを徹底して
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