【Web版】死ぬ運命にある悪役令嬢の兄に転生したので、妹を育てて未来を変えたいと思います~世界最強はオレだけど、世界最カワは妹に違いない~
Chapter10-5 Long time, The World(3)
Chapter10-5 Long time, The World(3)
真っ先に動き出したのは八体の
とはいえ、その作戦は無意味です。
案の定、
いつの間にか張り巡らされていた
手にする得物で糸を断ち切ろうと藻掻く敵ですが、その程度で寸断できるほど柔ではございません。
お兄さまとノマが作り上げた
あれに捕らわれた以上、
シオンの隠密技量は、相変わらず高すぎます。戦闘開始してから今まで、一切姿を捉えられません。そも、いつ姿を消していたのかさえ判然としません。
魔力消費が増えるのは確かに負担ですが、それを物ともしない実力が三人にはございます。魔力量自体も、鍛錬によってかなり上昇していますし。
ただ、気掛かりな点が一つ。頼みの
何か他の秘策があるのでしょうか? 警戒は緩めないようにしましょう。護衛役の
後衛同士の魔法合戦は、安心して見ていられます。魔力阻害を差し引いても、こちら側が圧倒していました。実力差は明白。決着は時間の問題でしょう。
ところが、前衛は異なりました。ニナとブルースの両者は、ほぼ互角に斬り合いを演じているのです。
ニナは【身体強化】を主軸とした剣士。魔力阻害の影響は少ないため、戦いを一撃で終わらせても不思議ではありませんでした。たとえ、今後を考慮して力を温存していたとしても、です。それくらい、現在の彼女の実力は飛び抜けていました。
ですが、実際は異なります。押され気味ながらも、ブルースは粘っていました。ニナを相手にしている上、後衛の差があるにも関わらず。
手合わせの経験がある
いったい、半年という短期間で何をなさったのでしょうか。魔王が関わっている以上、ロクでもない手段で強化したのだと思いますけれど。
すると、スキアが溢しました。
「ぶ、ブルース教諭、
「はい?」
「えっ!?」
彼女の言葉は衝撃的でした。傍にいた
「どういうことですか?」
「わ、分かりません。あ、あたしは、か、感知しか、でき、できないので……」
当然ですね。スキアが相手の事情を知るはずもありません。驚きのあまり、答えを焦りすぎました。
「申しわけありません。気が逸りすぎました」
「い、いえ。と、突拍子もない内容なので、し、仕方ないと、お、思います」
彼女へ謝罪した後、思考を巡らせます。
そういえば、
あり得そうな話です。ただ、ブルース以外の
呪物と
戦闘が始まって幾分か。こちらの優勢で進む戦況は、一つの決着を見せました。
けたたましい爆発音がその合図。小さなクレーターができた爆心地には、ネグロが黒焦げで倒れておりました。オルカの支援を受けたミネルヴァの火魔法が、彼に直撃したのです。
ネグロはピクリとも動きません。微かに呼吸はしていますが、戦闘不能で間違いないでしょう。二人の魔法をまともに受けて立ち上がれるのは、お兄さまくらいのものです。
ちょうどそのタイミングで、ニナの方も
ただ一人となった彼は、舌を打ちました。
「チッ、所詮は
「あなたの負け。大人しくお縄につくべき」
「チッ」
淡々と事実を述べるニナに対し、ブルースは再度舌を鳴らしました。それから、歯を剥き出しにして吠えます。
「お前は何でそんな強いんだ! 人間辞めた俺より強いとか、反則すぎだろうがッ」
「頑張った結果」
「俺が頑張ってないとでも?」
悲哀混じりの怒声を上げつつ、彼は嘆き語る。
「冒険者時代は血が滲むほど鍛錬を積んだ。下手すれば死ぬほどの修羅場を潜り抜けた。上を目指して走り続けた。こっちに来てからは、あらゆる実験を受け入れた。魔獣部位の移植やら
最後には、目を血走らせて叫ばれるブルース。
同時に、彼の体が二回りも隆起しました。上半身の服が弾け飛び、その内側の惨状があらわになります。
継ぎ接ぎだらけの肉体。それどころか、一部は獣のようなもので埋め合わせされています。また、あちこちに血色の線が走っており、そこには彼とは異なる魔力が通っていました。
これがヒトの手で施されたとは信じたくないほど、ブルースの体は醜悪な状態でした。
眉をひそめたミネルヴァが口を開きます。
「魔獣の合成、他者の血液の外付け移植、
「そういえば」
どこか既視感を覚えておりましたが、総決算という言葉で得心しました。
研究自体は潰しましたが、裏で魔王と繋がっていたのでしょう。そして、流用された技術がブルースに使われたと。
「うがあああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!」
怒りが引き金になったのか、ブルースの肉体から膨大な呪いが放出されます。もはや理性のカケラも残っていない彼は、絶叫とともにコチラへ突進してきました。
身構えようとする
ブルースの進路上に入った彼女は、静かに居合の構えを取ります。それから、剣を抜き放ちました。戦闘で使うには落第であろう、非常にゆっくりとした抜剣。
しかし、効果は劇的でした。
「――――」
ニナの眼前まで迫ったブルースは声なき悲鳴を上げ、衝突することなく塵と化しました。
「苦痛は一瞬。せめてもの慈悲」
彼女が何をしたのかは分かりませんでしたが、これだけは理解できました。ニナの強さは異次元すぎます。
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