Chapter9-ep 新しい場所(1)
この間に起こった出来事は、そこまで多くない。
まず、ユリィカの件。
結論から言うと、彼女は村から追放された。あの異空間より帰還した直後、村長直々に言い渡されたんだ。曰く、『お前がいるから、この村に災いが降りかかった』だそう。
そちらが困っていると聞いてユリィカが駆けつけたはずなんだが、彼らの記憶は都合良く置き換わってしまったらしい。本気で彼女が悪いと、信じ込んでいる様子だった。
というか、オレたちが事件解決に奔走している間、責任の押し付け合いをしていたのかよ。ずいぶんと能天気な連中だ。怒りを通り越して、呆れてしまった。
当のユリィカは、この展開をある程度予想していたよう。あからさまに動揺する素振りは見せなかった。たぶん、事前にフォラナーダが受け入れると伝えていたのも大きかったんだろう。
とはいえ、生まれ故郷より捨てられて、落ち込まない者はいない。その辺りのフォローは、師匠たるニナとマリナやオルカといったコミュ力強者に任せた。今のところ、問題はないと判断している。
一方、村への制裁は、村長をしょっ引くだけにした。
何故なら、あの村には、親世代とユリィカの間の年齢層が一人もいなかったから。つまり、限界集落だった。
きっと、学園卒業後に誰も帰省していないんだろう。都会を知った者たちが、あんな偏屈な場所へ帰るはずもない。親思いの健気なユリィカを除いて、な。
彼女を追放した村は、近いうち魔獣を抑え切れずに崩壊する。そんなところに、わざわざ労力を割きたくない。それに、因果応報を味わった方が良いだろうし。
幾名か小さな子どもがいたので、そちらは保護できるよう手を回しておこう。大人連中は知らん。
次に、別大陸からの来訪者の件。この話題は、ウィームレイ第一王子を通して国に伝えた。敵意を持った新種族が登場した以上、情報の共有は急務だろう。あの自称吸血鬼みたいな輩が、再び訪れないとも限らない。
当然ながら、国の上層部は荒れた。
他人事のように言ったけど、オレも
阿鼻叫喚という表現が適当だったよ。魔法とは異なる未知の力に怯える者もいれば、魔法こそ最強だと強気の者もいた。現代は魔法主義の傾向が強いため、どちらかといえば後者が優勢だったかな。
あまりにも会議が踊っていたから、オレが一喝して鎮めましたとも。最初から
その後、当事者であるオレの見解を説明。結果、別大陸の存在を発見した際は『監視をつけて様子見する』という、無難な結論に落ち着いた。
無論、無策のままにはしない。対
この任命は仕方ない。現状、
見事に仕事が増えてしまったが、研究系は【刻外】でいくらでも時間を確保できるので、大きな問題はない。忙しいのは変わりないため、そのうち人員は増やすけどね。
○●○●○●○●
旅行最終日の夜。チェーニ子爵アーヴァスから晩酌に誘われていたオレは、宿の自室より【
ちなみに、この国での飲酒制限は、十五歳から解禁される。この世界の人類の特性上、身体は十五までに成熟してしまうため、成長阻害等の心配がいらないんだよ。
補足しておくと、原作ゲームでは飲酒描写は皆無だった。その辺はコンプライアンスの関係だろう。
閑話休題。
パパっと転移しようと思ったんだが、ふと、リビングの方に気配を感じた。明日の帰還に備えて全員就寝したと思っていたけど、まだ起きているメンバーがいたらしい。
探知術を軽く伸ばすと、その面子はカロンとスキアだと判明した。
特段珍しい組み合わせではない。単なる世間話の延長だとは考えたが、オレは二人に顔を見せることにした。何てことはない気まぐれの一つだ。アーヴァスとの約束にも、まだ時間の猶予もあったし。
「こんな時間にどうしたんだ、二人とも」
「ちょっとした雑談ですよ。お兄さまこそ、
「オレは、これからアーヴァスのところで晩酌だよ。誘いを受けてね」
「むっ、うらやましい限りです」
彼女が誰をうらやんでいるかは、言をまたない。
オレは苦笑を溢し、「また今後な」と告げる。
それから、言葉を続けた。
「少し、おしゃべりに参加してもいいかな?」
「お時間は宜しいのですか?」
「問題ないよ」
「それならば、
「あ、あああ、あたしも、も、もん、問題ありません」
許可をもらったので、オレはカロンの隣に座る。ついでに、飲み物も【
準備を整えた後、オレたちは雑談を交わす。特別な内容はない。ただ日常の出来事を、僅かばかりにアクセントを加えて話すだけ。たわいない穏やかな一時だった。
程なくして、話題は先日の
ホラー染みた事件だったゆえに、『あの時は怖かった』とか『物語と現実は全然違う』とか、そういう方向で盛り上がる。
そんな話に一区切りついた際、不意にスキアが溢した。
「ゆ、ユリィカさん、だ、大丈夫でしょうか?」
あまり関わり合いのない二人だったはずだが、心配する気持ちは別なんだろう。交流下手ゆえに周りから誤解されがちだが、スキアはかなり情の厚い女性である。光魔法を扱えるのも納得の、愛の深さを彼女は有していた。
「大丈夫だと思うぞ。ニナたちがフォローしてる」
「彼女は、これまでの冷遇を耐えてきた強い子です。一人でしたら折れていたかもしれませんが、
「そう、ですか」
オレたちの見解を聞いても、スキアの表情は晴れなかった。どこか、釈然としない色が浮かんでいる。
オレとカロンは顔を見合わせ、首を傾ぐ。
「何か気掛かりでも?」
カロンが代表して問うと、スキアは若干目を泳がせた後、ポツリと語った。
「か、家族に捨てられるなんて、あ、あ、あたしには、とと、とても、た、耐えられそうにないので」
彼女は自分がそうなった時を想像してしまったのか、声をいっそう震わせる。
「ゆ、ユリィカさんを拒絶した村人たちの中には、か、彼女のご、ご両親もいました。そ、それ、それが、ほ、本当に信じられないんです。ど、どうして、お、親子なのに、あ、あん、あんな仕打ちが、で、できるんだって」
涙声になり始めたスキアのセリフを聞き、オレは得心した。
彼女の抱いている疑問は、以前のカロンと酷似のものだろう。自分の親ではあり得ない行動を目の当たりにし、思考が混乱しているんだ。方向性は真逆だけど。
オレは苦笑いを浮かべる。
「どこかの誰かさんと一緒だな」
「お恥ずかしい限りです。弟子は師匠に似るのでしょうか?」
「それは意味が違うと思うよ」
「え、えっと……」
脈略なく和やかな会話を繰り広げるオレたちに、困惑した様子のスキア。
対し、カロンは気まずそうに視線を逸らし、おもむろに呟いた。
「……
「お、同じ?」
「はい、同じです。方向性は真逆ですけどね」
そう言ってから、カロンは説いた。
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