Chapter9-4 白兎の里(4)
オレたちが転移したのと
場所は村の広場らしい。その中央にてユリィカと
しかも、攻撃はそこで終わらない。
道中に連携確認は済ませていたんだろう。魔法が発動し終わるジャストタイミングでニナが飛び込み、両手に握っていた剣を横一文字に薙いだ。
【
一瞬の静寂。シンと静まり返った広間は、ガシャンと氷が地面へ落ちる音で息を吹き返す。
ユリィカの生み出した氷が、
しかし、
「効いてない」
ニナがポツリと呟いたように、
創作の
そんな感想を抱いていると、すぅと
「ッ!?」
目前に迫られたニナは即座に姿勢を戻し、すさまじい速度でバックステップを踏んだ。全開の【身体強化】による後退は、たった一歩でも十メートルを軽く跳ぶ。
どうやら、物理どころか魔法も無効化している模様。カロンやスキアの光魔法は効果あったようなので、すべての魔法が効かないわけではないとは思うが。
一連の出来事を観察していたオレは、不意に【
はたして結果は――
「ギャアアアアアアアアアアアアアアア」
笑い続けていた
一見、無属性魔法も
何故なら、相手は無傷だったんだから。
うずくまる前に、きちんと確認はしている。【
つまり、無属性魔法は
「一応、精神魔法も試しておくか。【眠れ】」
他人へ聞こえないように魔力の道を作ってから、
かなり強力な魔法のはずなんだけど、結果は不発。
厄介だ。攻撃手段が光魔法以外に見当たらない。魔眼【
――観察は、これくらいにしておこう。今回は村人の救援が目的。救う対象たちの目がある今、無駄に遊んでいるのは心証が悪い。
「スキア、あとは頼む」
「は、はいッ!」
一緒に連れてきた光魔法師に、残りの始末を任せる。
敵は身動きの取れない状態なので、攻撃を外す心配はいらないだろう。
「【セイクリッドピラー】」
中級魔法の光柱に包まれると、
「ふぅ」
「ご苦労さま」
「あ、ありがとう、ござ、ございます」
無事に一仕事終えて安堵する彼女を労う。
それから、改めて周囲を確認した。
広場には、そこそこの人数が集まっていた。オレやスキア、ニナ、ユリィカ、それに村人――二十名近い兎獣人の男女が地面に座り込んでいる。一部の気絶している者を除けば、全員が酷く息を荒げていた。
十中八九、ここまで
どうして判断できるかと言うと、彼らの魔力はスッカラカンだから。魔法で応戦した痕跡が見当たらない以上、
村人たちは未だ息が整っていない。状況を整理する時間も必要だろうし、襲撃直後に初対面のオレたちが接近するのは、余計な警戒を生んでしまう。
ここは、今しがた村人たちへ駆け寄っていったユリィカに任せて放っておこう。
そう判断し、臨戦態勢を解除したばかりのニナへ近寄っていく。
「お疲れさま。ケガは?」
「問題ない、助かった。まさか、かすり傷も負わせられないとは思わなかった」
オレの問いに、フルフルと首を横に振るニナ。気持ち、声に張りがない気がする。自慢の剣技が通用しなかったことが、結構ショックだった様子。あとで慰めておかないと。
「実体がないからだろうな。魔力も空っぽだから、魔力的な攻撃もほぼ無意味と」
「ゼクスの【
「オレも驚いたよ」
検証のために、対魔法司用の【無効貫通】も一発だけ混ぜていたんだが、そちらも梨のツブテだったし。あれは、魔法司とは別原理の耐性なんだと思われる。
オレとニナが頭を悩ませていると、スキアが口を開いた。
「あ、ああ、あの、ま、魔眼での確認は、し、したのでしょうか?」
彼女には珍しい、積極的な姿勢に見えた。
オレは肩を竦める。
「
「け、結果は?」
「分からん」
「へ?」
『そんなバカな』みたいな表情を浮かべるスキア。話を聞いたニナも似た顔をしている。
非常に共感できるが、事実なんだから仕方ない。すべてを詳らかにする魔眼【
……いや、違うか。
「正確には、理解できなかったという方が正しい。
魔法的な要素も散見されたので、いくつか読み取れる部分もあった。しかし、その根幹は完全に埒外。
「未知の力……」
「読み取れた部分っていうのは?」
ナイーブになるスキアに対し、ニナはどこまでも現実的に尋ねてくる。僅かな活路でも見出そうとする姿勢は、実に彼女らしいものだった。
「
「どういうこと?」
「要するに、
「おお、解決策。さすが」
ニナは目を輝かせ、パチパチと小さく拍手する。
そりゃ、【
とはいえ、素直に喜べないんだよなぁ。今回の解決策は用意できているんだけど、未知の力に対する備えがないのは不安だった。
この段階で、第三の術式が出張ってくるなんて予想できるか!
不満を叫びたい気持ちをグッと抑え、今後の方針を思案する。
オレは良い。
だが、カロンたちは違う。彼女らの力量は、ギリギリ人類の片隅に立っている。未知の力の種類によっては、身に危険が及ぶ可能性は捨てられなかった。
「この辺が、フォラナーダの課題だよなぁ」
オレは、口内で言葉を転がした。
一定範囲の敵なら、部下たちを使ってゴリ押しできる。というか、大半がこれで片づく。
ところが、強敵の類が群れをなすと、対応できるメンバーが限られてしまう。金の魔法司グリューエンの扱う
今までは現状の強さで事足りたけど、今後の魔法司戦を考慮するなら、色々と変えていくべきなんだろう。部下を捨て石にするなんて論外だし。
ただなぁ。カロンたちのレベルまで成長するには、かなりの才能が必要だ。レベル100へ到達するのだって、一握りの人材なんだから。
彼女らは運良く強くなれる素養があったけど、部下たちも同じのはずがない。
オレみたいに無茶な修行を繰り返せば、才能の壁も突破できるとは思う。しかし、そこまで彼らに課して良いのかという疑問が残る。部下たちは仕事としてフォラナーダに仕えているのであって、命を削ってまで強くなる義理はないんだ。
そこを強制しては、誰もついて来なくなる。無人の城に座する趣味はない。
妥協案としては、極力才能のありそうな者に声をかけて、自由意思を尊重する感じかな。断られても今後には響かないと念押しして、一部の使用人に依頼しよう。
そんな風に、つらつらと若干横道に逸れた考察をしていたところ。
ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!!!!!
すさまじい地響きが襲った。
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