Interlude-Caron リベンジマッチ
お兄さまが実権を握ってからというもの、フォラナーダの城壁内部には多くの施設が新設されています。その中でも
ここは学園の旧式とは違います。お兄さまの【
そのような最新鋭の舞台に
「本当にやるのですか?」
「やる。リベンジ」
察しがつくかもしれませんが、現状はニナが望んだリベンジマッチ。以前に行われた学年別個人戦の再戦です。ご丁寧に、舞台も学園の訓練場を模しております。
どうやら、
まぁ、無理もありません。あの試合は、
これほどの条件が揃えば、あとは詰将棋です。ニナの刃が届く前に、火魔法で舞台全体を蹂躙。向こうも魔法を斬り裂いて接近してくるでしょうが、それ以上の物量で押し込めば問題ありません。最後は、
試合直後こそ『打破できなかった自分が悪い』と仰っていましたけれど、感情は別にあったのでしょう。ニナは、強くなることに誰よりも貪欲ですからね。
先程は念のためにと確認を取りましたが、親友が望むのなら、模擬戦自体はやぶさかではありません。あちらは何かしらの対策を講じてきたのでしょうが、
「準備は宜しいでしょうか?」
審判役を任せた使用人の声。
彼女は、ステージより離れた観客席にいます。というのも、
「では、はじめ!」
間髪入れず、
無論、一発では済ませません。最上級火魔法【
ここまでは前回の焼き増し。この時点でのニナは、高速で剣を振るって炎を弾いていたのですよね。剣で炎を斬るのも凄まじいですが、この物量を一本の剣でどう抑え込んでいるのでしょうか。彼女の剣技は摩訶不思議です。
とりあえず、次の手も同じ流れで行きましょうか。ニナがどのような対策をしてきたか、興味がありますから。
【
これは【
――よし。
【
絶え間なく溢れていた炎が止まり、
「へ?」
――ことはありませんでした。
何故なら、魔法の核たる光球が真っ二つに斬られてしまったから。消滅していく【
あのですね……お兄さまの時も驚いたのですが、【
しかし、間抜けをさらすのは一瞬。即座に魔力を掻き集め、中級光魔法【ライトコクーン】を行使します。
光の膜が
これくらいなら【ライトコクーン】は破られませんが、本命は……
「シッ!」
突如、残留していた炎の塊を突き破り、ニナが剣による一閃を放ってきました。その冴え渡った一撃によって、まるで紙切れのように【ライトコクーン】は突破されてしまいます。
ですが、こちらも攻撃をいただくわけにはいきません。手元の『シャルウル』を操り、槌の部分で刃を受け止めました。
キィィィンと耳に痛い金属音が響き、
とはいえ、距離を取れるのは
断言はできませんが、おそらく土魔法で重心操作を行ったのでしょう。魔法は不得手というプロフィールは訂正すべきな気がしますよ。そこまで細かいコントロールができるのなら、十二分にプロの魔法師です。
迫る鈍色の刃を『シャルウル』で弾きますが、体勢の整っていない状態で達人の技を防ぎ切れるわけがありません。幾度か攻撃をいただいてしまいました。指輪のお陰でケガは皆無ですが、魔力が削れてしまいます。
……ここまで追い詰められてしまったら、使うしかないようですね。もっと熟練度を上げてから公開したかったのですが、出し惜しみして負ける方が嫌です。
「『シャルウル』、【
「イエス、マスター」
「ッ!?」
これには剣戟を振るい続けているニナも驚いたようですが、この程度で驚いていてはダメですよ。お楽しみ、はまだ終わっていません。
試合を捨てたわけではありません。むしろ、その逆でしょう。何せ、『シャルウル』は
そう。誰の手にもない『シャルウル』は、宙に浮きながらニナの剣を
これこそ、
技量差のせいで完璧に防げてはいませんけれど、足止め自体は叶っていました。この
魔力を練り、魔法を唱えます。【
「【ボルケーノレイ】」
詠唱することで発動を補助しました。
途端、空が赤く染まります。赤黒い雲に似た何かが、天を覆い隠します。
「まずい、【ボルケーノレイン】」
その様子を目撃したニナは、即座に小盾を空へ向けて腰を落としました。盾には土魔法の防御バフを施している様子。
まぁ、分かりやすいですよね。モデルとなった魔法は、事前に発動を察知されてしまうのが欠点です。
ですが、はたして、その程度の守りで大丈夫ですかね?
いよいよ、魔法の蹂躙が始まります。
ジュッ。
一瞬でした。何かの焦げた音と臭いが、周囲へ拡散します。
見れば、ニナの掲げていた盾の端が小さく抉り取られていました。その直線上にある地面にも小さな穴が開いています。
それが皮きりでした。ジュッ、ジュッと同様の音が立て続けに鳴り、ステージのあちこちに小さな穴が量産されていきます。それも、徐々にペースを加速させて。
「ぐっ」
ついにニナの体にも命中しました。指輪のお陰でケガこそありませんが、相当量の魔力が減ったのは分かります。
「見えない。【ボルケーノレイン】じゃない?」
「ええ。これは【ボルケーノレイ】ですよ」
焦る彼女へ、
ニナの仰る【ボルケーノレイン】とは、火の最上級魔法の一つです。超広範囲を網羅する高火力の術で、効果範囲に火の雨を降らせるというもの。術者の力量次第では、一発で都市を壊滅できるとか。
そして、現在発動中の【ボルケーノレイ】は、その【ボルケーノレイン】を原型とした火と光の合成魔法です。術理は割と単純で、火の雨に光属性を付与しただけ。結果、威力増加はもちろん、光の速度で降りかかる効果へと変貌を遂げました。回避や防御は基本的に不可能な術です。
最初は、光速で火の雨を降らせるイメージで作る予定でしたが、お兄さまに止められてしまったのですよね。どうにも、単純に速くするだけでは、副次効果で周囲一帯が灰燼と帰してしまうみたいです。危ないところでした、博識なお兄さまには感謝の念が堪えません。
ちなみに、
さて。様子を見る限り、ニナに【ボルケーノレイ】を防ぐ術はなさそうですね。このまま押し切れると良いのですが、どうでしょうか。
次々と降りかかる火の雨は、もはや豪雨の如く。直接術者を叩くという余力もなく、どんどんダメージを蓄積させています。
しかし、諦めた風ではなさそうでした。瞳が死んでいません。
「ふぅ」
ニナが小さく息を吐かれました。同時に、何とか防ごうと足掻いていた動きを止めてしまいます。
火の雨に打たれているにも関わらず、ただただ息を整えるニナ。
数秒後、彼女は一つ唱えました。
「【
ただの詠唱。されど、それは侮れない冷たさを湛えていました。
これはマズイ。そう判断した
ですが、何もかもが遅すぎました。
「あ……」
気がついた時には、
魔力がほぼ底を突いていました。ほんの一瞬、こちらの認識を上回る速度で、
バキッという鈍い音が、近くで響きました。
億劫ながらもチラリと窺えば、いつの間にかニナが隣に立っており、その足元にはバラバラに砕けた剣がありました。
なるほど、先の一撃に剣が耐え切れなかったようですね。
「
「うん。戦ってくれてありがとう」
「いえ。こちらこそ、今後の参考になりました」
さすがはお兄さまの弟子。
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本日18:00にキャラ紹介2を投稿予定です。
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