Interlude-Caron 三学期より
年が明けて一ヶ月。学園の新たな学期を迎えました。肌を撫でる風は冷たく、吐く息も白く染まる厳しい季節ではありますが、久方振りの学友との再会とあって、学友たちの気分は上々でしょう。もちろん、
今学期は初日より授業が開始されます。集会が終わってすぐ、
目当ての教室に入ると、
「あ、カロンちゃん。こっち空いてるよ」
「カロンさん、こちらです」
二人の女子生徒に声をかけられました。中央付近の席に座る、浅緋色と紅色の髪を携えた女性です。
彼女たちは
「お久しぶりです、ザラさん、イヴェットさん」
「うん、久しぶり!」
「お久しぶりです、カロンさん」
天真爛漫といった態度のザラさんと、落ち着き払った様子のイヴェットさん。ちなみに、体格もザラさんは小柄で、イヴェットさんは長身の部類です。
何かと正反対の彼女たちですが、実家が隣接した土地らしく、いわゆる幼馴染みの関係と聞いています。昔から仲が良いのだとか。
まだ授業開始まで時間が残っているため、
「お二人も実家に戻っておられたのですよね。
以前、北部の沿岸部の土地だと耳にしていました。
対して、ザラさんは眉を寄せて首を傾げられます。
「うーん……あんま変わりないかなぁ。相変わらず、古臭ーい田舎町だったよ」
特筆すべき内容はなかったようです。地元ゆえに、よっぽどの変化がないと語れないのでしょう。
閑話休題。
すると、イヴェットさんが口を開く。
「そうではありませんよ、ザラ。カロンさんは、海の様子をお聞きしたいんです」
「そうなの?」
「ええ、実はそうなのです。フォラナーダには海がありませんから」
「嗚呼、フォラナーダは内陸だもんね」
「とはいえ、私たちにとっては身近なものですから、どう説明すれば良いでしょうか……」
「だよねぇ。見たことないヒトに、どう伝えればいいんだろう?」
イヴェットさんとザラさんは、顔を見合わせて頭を捻られます。
「そのように、難しく考えられなくても大丈夫ですよ。些細なことでも構いません。”人伝に聞く海”を楽しみたいのです」
「かなり曖昧な感じになっちゃうよ?」
「ザラの言う通りです。正確性には欠けてしまいますが、大丈夫でしょうか?」
「はい。お二人の見る海を知りたいのです」
「そういうことなら……」
それから授業開始まで、
○●○●○●○●
授業後。
侍るシオンも合わせた四名で廊下を歩いていたのですが、些か気になる点がございました。
「何故、皆さんは
当然ながら、廊下には他の生徒もいるのですが、どういうわけか
「個人戦の影響でしょうね」
「個人戦?」
「嗚呼、なるほどー!」
対する
疑問符を頭に浮かべたまま、状況を理解しているお二人に問います。
「どういうことなのでしょうか?」
「簡単な話ですよ」
イヴェットさんは
彼らは、
「仰りたいことは理解できますが、過剰反応すぎませんか? 廊下ですれ違ったくらいで文句は申しませんよ。どこの当たり屋ですか」
「ぷふっ、当たり屋って」
ツボに入ったのか、笑いが止まらない様子のザラさん。
そのような彼女に呆れつつも、
「そういった反応をしてしまうほど、カロンさんとその他大勢の実力はかけ離れているんですよ。正直、私も大会当時はとても驚きましたから。それに……」
「それに?」
「カロンさんは、高火力広範囲の魔法で殲滅する戦い方をなさるでしょう? あれが物語に出てくる魔王のようだと恐れられていますね」
「ま、魔王……」
イヴェットさんのセリフに愕然としてしまいました。
たしかに、
かつて、聖女と呼ばれた際は恐れ多く感じましたが、だからといって、正反対の魔王呼ばわりは衝撃的すぎました。
意気消沈する
「他にも、ベスト16の半分以上がフォラナーダ出身であるとか、決勝戦の内容であったり、その後の悪魔騒動も要因でしょう。特に後者二つは影響力大だったと思います」
「決勝戦はヤバかったよね!」
笑いから復活したザラさんが、目をキラキラさせながら首肯されました。
「まさに、魔法合戦って感じですごかったよ。ロラムベル公爵家のご令嬢が凄腕の魔法師なのは分かり切ってたけど、それ以上にすごかったのはフォラナーダ伯爵だよね。あんな魔法、見たことなかったよ」
「そうでしょう、そうでしょう。お兄さまはすごいのです!」
お兄さまの話題が出ては、いつまでも落ち込んではいられません。お目の高いザラさんに同意するよう、深く頷きました。
そこへイヴェットさんも言葉を重ねられます。
「カロンさんの話を窺っていましたから、前評判等がデマであることは知っていましたけど、あれは想定外でしたね。だいぶ前に広がっていた『フォラナーダ伯爵が剣聖を下した』という噂が真実だったと、今ならためらわずに納得できます」
「そうですよ。何せ、お兄さまは世界最強ですから!」
「最強……たしかに、あの戦いぶりならば、あり得る話でしょうね」
”あり得る話”ではなく、事実として最強なのですが……まぁ、荒唐無稽すぎて信じられない気持ちも理解できますので、追及はしないでおきましょう。それに、ミネルヴァとの戦いでもお兄さまは本気ではなかったようですし、無理もありません。
ふと、
「そういえば、お二人とも、お兄さまへ挨拶をされたことがありませんでしたね。今度、紹介いたしましょうか?」
タイミングが合わないのか、ザラさんとイヴェットさんはお兄さまと顔を合わせていないのです。
お二人は顔を見合わせて、苦笑を溢されました。
そして、
「えっと……実は、もう挨拶は済ませてるんだよね」
と、ザラさんが衝撃的な発言をなされるではないですか。
「えっ、いつの間に!?」
「カロンちゃんとは別行動してる際、そこのメイドさんに案内されて」
「シオン!?」
バッと背後に侍るシオンを見ると、彼女は澄ました顔で一礼するだけでした。否定しないということは、事実で間違いないのですね。
そこへイヴェットさんが補足される。
「フォラナーダ伯爵は現役の当主ですから、一介の貴族子女が気軽に会える相手ではないんですよ。たとえ、同じ学生という立場でも」
「それは……」
以前、ミネルヴァとともに友だちの話をした際、似たような発言をお兄さまがされていた気がします。
「それでも挨拶する機会を設けたのは、カロンさんを心配されてのことだと思います」
そう締めくくるイヴェットさん。
改めて痛感する。
――早く大人になりたい。
そうすれば、
強く、強く、そう願わずにはいられませんでした。
とはいえ、焦りも禁物です。焦ったせいでお兄さまを心配させては、本末転倒ですもの。
ですから今は、
「どうして挨拶したことを
「へ!?」
何を驚いているのでしょうか。密かに面会するのはお兄さま側の都合。その事実を
加えて、今の反応……。怪しいですね、キリキリ吐いてもらいますよ!
その日、二人の女子生徒の悲鳴が学園中に響いたとか、響いていないとか。
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