Chapter6-4 個人戦(5)

 翌日。第二回戦が行われた――が、割愛しよう。語りたい気持ちは山々だけど、そう物珍しい展開にはならなかった。実力の抜きんでているオレとミネルヴァ、エリックが順当に勝ったんだ。


 カロンとニナの戦いのみは予想がつかなかったけど、最終的にはカロンが勝利を収めた。やはり、カロンの魔法火力はすさまじく、魔法の不得手なニナでは防御し切れなかったよう。


 カロンは一回戦に続いてゴリ押しによる勝利だ。うーん……得意な部分を押し通すのは良いんだけど、もう少し戦術面にも目を向けてほしいと思うのはワガママだろうか? カロンの火力押しは、どことなく悪役っぽく映ってしまうんだよなぁ。


 今後の課題としよう。個人戦後、訓練メニューの見直しだ。それに、ちょうど良い機会・・もある。


 閑話休題。


 さらに翌日となり、いよいよ準決勝となった。


 第一試合、ミネルヴァ対エリックは、語るまでもなくミネルヴァが勝った。エリックが得意とする剣の間合いに一切入れさせず、魔法攻撃で着実に落としていった。


 第二試合はオレとカロンという、夢の兄妹対決である。二回戦でもオレとオルカが戦っているので、二連続の兄弟対決だった。


 本来なら話題性の高い内容なんだけど、観客が半分程度のところから察するに、悪い方向に働いてしまったらしい。おそらく、八百長を疑われたな。


 ただ、現時点で観戦しに来ている者たちの意識は変わり始めている様子。耳を傾ければ、チラホラとオレの実力について話す生徒がいる。オルカとの試合を観戦していたようで、「色なしが魔法を使っていた」みたいな内容だった。徐々にではあるが、オレの実力は浸透していっているんだろう。


 さて、意識を目前に戻そう。すでにオレとカロンは準備を整えており、二十メートルの間合いをとって対面していた。


 カロンはとても楽しそうに笑う。


「お手柔らかにお願いします、お兄さま」


「こちらこそ、よろしく。それにしても楽しそうだな」


 オレがそう問うと、彼女はコロコロと笑声を漏らす。


「ええ、ええ。何せ、お兄さまと戦うのは初めての経験ですから。わたくしが思っていた以上に、興奮しているようです」


 そういえば、カロンと一対一で戦うのは何気に初めてか。訓練でも、オレ対多数という形式ばかりだったもの。


 初めての経験ゆえに、ワクワクしているといったところだな。ブラコンの彼女は、たとえ戦闘でも、オレと一緒なら楽しみに変わってしまうんだろう。まぁ、オレも他人のことは言えないけども。


「楽しもう、カロン」


「はい!」


 オレが口角を上げて告げると、カロンは小気味良い返事をした。


 程なくして、審判が試合開始の合図を出す。


「はじめッ」


 ――と同時に、早速カロンは攻めてきた。


 彼女は両手を胸元に掲げ、その掌中に煌々と輝く球体が現れる。


 間違いない。あれはカロンのオリジナル合成魔法【遍照あまてらす】だ。生命体を一切合切燃やし尽くす、破壊の権化のような術。


 初手から切るなんて、なかなかに型破りな戦術を取るものだ。


「最初っから全力全開だなッ」


 ハッと笑い飛ばし、対抗策を講じる。


 【遍照あまてらす】は弱点が明確な魔法だ。何が来るのか分かっていれば、それを潰すのは難しいことではない。


 発動するのは【コンプレッスキューブ】。輝く球体を魔力の箱で覆い、圧縮して潰す。一秒に満たない時間で行われたそれに、カロンはほとんど反応できていなかった。


 これで【遍照あまてらす】は不発に終わった。核が分かりやすい術は、対面で使う場合だと真っ先に狙われる。あの魔法は確かに強いけど、今回は使いどころが悪かった。


 というか、開幕から必殺技とは、やっぱり火力のゴリ押しだった。カロンはそれでも勝てるスペックを有しているが、火力オンリーは正直いただけない。


 となれば、この試合で戦術の大切さを教えてやろう。一種の訓練だな。


「ッ」


「そんな単調な攻撃じゃ、いつまで経ってもオレには追いつけないぞ」


「ッ!?」


 魔法を妨害されて小さく息を呑むカロンに、軽い調子で語りかける。


 すると、彼女は目を見開き、絶望した雰囲気を出した。……何故?


 疑問は後で解消しよう。今は試合を優先したい。


 オレは無数の魔力刃を宙に展開する。そして、それらをカロンの方に放った。


 当然、彼女は防御する。【魔力視】を使えるので、事前にこの攻撃は察知できていただろう。発動済みである上級光魔法【セイントウォール】で、群れをなす魔力刃を防いでいた。


 かなり魔力を込めた攻撃だったが、カロンの光の壁を突破するには及ばない。上級魔法、かつ一面防御に特化した魔法だから無理もなかった。


 とはいえ、ここまでは想定内の行動だ。彼女が防御魔法を発動するのは分かっていたし、こちらの攻撃の威力を考慮してウォール系を使うことも予想済み。


 ゆえに、次の一手が活きる。


「キャッ!?」


 カロンが魔力刃を防ぎ切ったと同時、短い悲鳴が上がった。


 見れば、カロンが片膝を突いている。地面に落ちている方の足首に、魔力で作られた縄のようなものが巻きついていた。


 言うまでもなく、オレの計略だった。彼女が攻撃を防ぎ切った瞬間、ほんの僅かに気を緩める間隙を狙って、拘束系の魔法を発動したんだ。


 普段の彼女なら引っかからなかっただろうが、高火力の魔法を受けるのに必死だったこともあり、細かいところまで警戒できていなかったんだと思う。まぁ、それを狙っていたんだけどね。


 ウォール系を使わせたのもそう・・。たとえば、【ライトコクーン】のような全方位防御型だと拘束は成功しなかった。その選択を潰すために、一面防御特化の魔法でなければ防げないレベルの火力技を叩き込んだんだ。


 火力で押し込むのは良い。でも、時には長所を囮にするくらいの戦術を立てないと、いつか足元をすくわれるかもしれない。その点をカロンには理解してほしかった。


 オレはすかさず【位相連結ゲート】を発動し、動けなくなったカロンの傍に移動する。それから、首筋に【位相隠しカバーテクスチャ】より出した短剣を突きつけた。


 カロンは苦笑を溢す。


「さすがはお兄さま。参りました」


 とうとう決勝戦のカードは決定した。

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る