Chapter6-2 トーナメントに向けて(4)
某日の放課後。オレは学園敷地内のとある施設に足を運んでいた。外観はドーム会場で、壁の質感等から新設された建物だと判断できる。というより、出来立てホヤホヤだ。何せ、つい三日前に完成したんだもの。
ここは
ステージの内容はこちらの自由に決めて良いと言われたので……まぁ、悪ノリしましたよ。テーマは近未来の市街地で、前世の都会風味の摩天楼を完全再現しましたとも。
ただ、そのせいで広さが若干足りなくなってしまったので、結界による空間拡張を取り入れてみた。試作段階の技術だったけど、思った以上に上手く機能してくれた。だいたい、元の1.5倍は拡大したと思う。
実験も兼ねた導入だったので、結界維持のための自動魔力生成はオマケで付与しておいた。
無論、ここまでのものはオーバーテクノロジーすぎるゆえに、盗用防止は万全である。
それらを伝えたところ、学園長に驚かれたが、割と受け入れは早かった。曰く「お主の技術革新は今さらじゃし、この摩天楼? という方向性はあり得る」らしい。長生きしてきた彼女だからこそ、ヒトの成長予想ができるのかもしれない。
そして、何故にオレがここに訪れたのかといえば、ステージの試験運用を観察するのが目的だった。建てたは良いものの、欠陥があったら大事だからな。
オレは全体を観察する必要があるので、観客席に居座らなくてはいけない。だから、実際にステージを使うプレイヤーは、別口で用意させてもらった。
一つはオレの所属するクラブ。『赤魔法師』カロン、『紫魔法師』ミネルヴァ、『緑魔法師』ユリィカという普段のメンバーに加え、新たな面子であるダンとミリアが参戦している。
対するもう一つのチームは、無難にトップクラブへお願いした。新ステージをいち早く使えるとあって、二つ返事で了承してくれたよ。話を振った時のジェットは、とても目を輝かせていた。
今まさに試合が行われており、市街地のあちこちでドンパチと爆発が発生している。試験運用という名目を加味して、カロンたちはプレイヤーが各自バラバラになるよう仕向けたんだ。お陰で、様々なパターンを解析できている。
視点が多くなりすぎて、エンターテインメントとしては見づらいけど、今回は関係ない。探知を使えるオレなら、状況把握に苦労はしないし。
「ダンくんとミリアちゃん、きちんと戦えてるみたいだね」
その知恵を借りようと同席させていたオルカが、一つの戦地を指しながら言う。
オレやカロン、オルカの幼馴染みに当たる二人は、トップクラブを相手に良い勝負をしていた。ダンは『緑魔法師』ジェット、ミリアは『青魔法師』と戦っている模様。
「カロンが教えたんだから、これくらいはやってもらわないとな」
「プレッシャーが強いよ、ゼクス
オルカは呆れた風に溢したけど、この程度は当然だとオレは考えている。
彼らに、すべての知識や技術を教授したわけではない。後に一般へ広まるだろうものしか伝えていない。それでも、現時点では先進的な魔法をダンたちが扱えるのは確かだ。一歩先んじている彼らが、出遅れている面々に敗北するなんてあり得なかった。チーム戦ならまだしも、一対一を強制されている現状なら余計に。
それにしても、
「ダンの戦い方、もう少しどうにかならないのか?」
「あはは……ダンくんらしいよねぇ」
「猪突猛進」
「実戦では、まず使えない戦法ですね」
苦笑するオルカに続き、ニナとシオンも意見を口にした。
彼女らのセリフから察しがつくかもしれないが、ダンの戦い方はかなり泥臭かった。土魔法で防御を固めてからのステゴロ。相手の反撃の一切を無視して、とにかく突貫。愚直に直進あるのみだった。
いや、『茶魔法師』の彼が『緑魔法師』に勝つには、カウンター等を狙うしかないのは分かる。
でも、自ら突っ込んでいくのはなぁ。シオンの言う通り、実戦なら許可できない戦法だよ。結界のお陰でノーダメージに抑えられる
まぁ、負けたとしても、ジェット相手に単独で時間稼ぎできている時点で、十分すぎる戦果だろう。
一方のミリアは、割と堅実な感じだ。攻撃性能がほぼゼロの『青魔法師』だけど、バフを盛りに盛って火力を上げている。その点は相手も同様だが、
「ミリア、学力の割には頭いい」
「うん。ミリアちゃんのアレは、ダンくんの影響だからね。地頭はいい方だよ」
「恋は盲目」
「ブーメランって知ってる?」
ニナとオルカが何やら漫才しているけど、絡まないでおこう。この流れで突っ込めば、オレまで巻き添えをくらいそうだ。
さて、初試合の二人は良いとして、経験者組の方も確認しておこう。
『トップクラブ『赤魔法師』一名、脱落』
ユリィカが相手を倒したところだった。
先月より更に強くなった彼女は、まさに疾風迅雷。
それほどの速さを持つユリィカに、攻撃はまったく当たらなかったわけだ。呆然とする『赤魔法師』の様子から、一方的にやられてしまったことが窺える。
「うわぁ、ミネルヴァちゃん、やばい」
「さすが」
ふと、オルカとニナが言葉を溢す。
見れば、ミネルヴァの戦いも佳境を迎えていたようだった。
彼女は、同じ『紫魔法師』と戦闘を繰り広げていた。最初に見た時は弱体化合戦をしていたけど、現在は一方的にミネルヴァが魔法をかけている。
というのも、土、水、風の合成魔法で腐らせた地面へ敵を沈め、闇で視界を奪い、火で体感温度を狂わせている様子。完全に相手を封殺していた。
もはや、トップクラブの『紫魔法師』は行動不能。ジワジワとHPゲージを削られるのみである。
ミネルヴァも日々成長していると実感する。元々才知溢れる女性だったけど、努力も人一倍行う真の天才が彼女だ。他の面々に比べ、オレ監修の特訓を受けた時間は短いにも関わらず、心折れずに頑張り続けられたのが良い例だろう。その結果、今ではカロンたちとも互角に戦えている。
しかも、学園に入学してからのミネルヴァは、さらに腕に磨きをかけている。五つの属性を合成しながら同時に扱うなんて、かなり精緻なコントロールが求められる技。最近になって、魔力操作の『免許皆伝』を取得できたのも納得の技術力だった。
普段は“素直になれない可愛らしい女の子”という印象が強いけど、ミネルヴァは誰よりも強い不屈の心を持つ天才魔法師で間違いなかった。
最後はカロンかな。
彼女と相手の『茶魔法師』の戦闘を見るため視線を動かそうとした刹那、ステージ全体に閃光が
「な、なんだ!?」
オルカたちは問題ない。小さく悲鳴を漏らしたものの、特に身体への影響はないらしい。無論、オレも無事だ。
輝きが放たれたのは一瞬にすぎず、すぐにステージは元の色を取り戻した。――が、そこに広がっていた景色は、予想外のものだった。
何故なら、トップクラブが全滅していたんだから。当の本人たちも状況を把握できていないらしく、呆然とその場にたたずんでいる。
オレは、元凶であろう
そこには、掲げる両の掌中に小さな光球を浮かべたカロンがいた。彼女はこちらの視線に気がつくと、ニッコリと笑いかけてくる。
間違いなく、先程の光はカロンの仕業。そして、残存していたトップクラブを倒したのも彼女だろう。敵味方を選別できる全方位範囲攻撃か……とんでもない魔法を生み出したものだ。
想像を絶する攻撃によって、此度の試合の幕は引かれるのだった。
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