Interlude-Akatsuki 上限知らず

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」


「はぁぁぁあああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」


 二人の雄叫びが木霊する。


 一人は俺――神の元使徒であるアカツキだ。拳に目いっぱいの魔力を溜め、渾身のストレートを放つ。


 もう一人は俺の弟子であるゼクス。あっちも動きを合わせて拳を繰り出してきた。


 両者の攻撃が衝突すると空気が爆ぜ、周囲に轟音と衝撃波が拡散してく。拳に込められた魔力が放出し、俺らの周囲の地面を、天を、空間を裂いてった。


 チッ、これ以上は【異相世界バウレ・デ・テゾロ】が持たないか? 今回はゼクスが発動したものだけど、やはり俺たちの本気に耐え切れる強度じゃないか。


 仕方なしと僅かに力を緩めた瞬間、驚きの展開が待ってた。


「なにッ!?」


 パワーを制限するこっちとは対照に、向こうはギアを上げてきたんだ。これには瞠目どうもくしてしまう。


 おいおいおいおい。今よりも出力上げたら、【異相世界バウレ・デ・テゾロ】が崩壊するどころか、現実世界にも多大な影響を及ぼすぞ。本気か?


 俺はゼクスの正気を疑うが、当の彼は手を緩めない。こっちを見る瞳も、真剣な色をしてた。あいつ、このまま突っ切るつもりだ。


 というか、おかしい。こう思考を回している間にも、そろそろ俺が吹っ飛ばされそうなほどに力を上昇させてるけど、世界への被害が広がってない。多少裂けたくらいで、崩壊が始まらない。


 そこまで考えて、ふと気づく。まさか、こいつ――


「あっ、やば」


 しかし、その結論に至った直後、俺はゼクスの攻撃によって彼方まで吹き飛ばされた。








 満点の星空が仄かに大地を照らす夜闇の草原に、俺は大の字で寝転がっていた。


「はぁぁぁ」


 通常なら大自然に心洗われるところだけど、今この瞬間だけは無理くさい。何せ、模擬戦に負けた直後だからな。


 最近、負けが込んできた。ゼクスの戦術が巧みになってることもあるが、俺と彼の根本的な差異に、今日やっと気づけた。


 隣に腰を下ろすゼクスへ、俺は声をかける。


「お前、最大出力で攻撃放っても、外に被害が及ばないようにしてる?」


 今日の決着は、そうじゃないと辻褄が合わない内容だった。『どんなに力を放出しても攻撃対象にしか影響がない』なんて、阿呆かと正気を疑う推論だと思う。でも、俺たちみたいな超越者にとっては、常識破りが常識なところがあるからなぁ。


 対して、ゼクスはあっけらかんと答える。


「当たり前だろ」


「マジかよ」


 余波を生み出さない技量を達成していることにも驚愕だが、それを為すことが当然だと考える思考回路の方がヤバイだろう。頭のネジ、何本か外れてるんじゃないの?


 こっちが愕然とした表情を浮かべてるのを見て、彼は肩を竦めた。


「最初から、こういう方向で調整するつもりだったんだよ。マンガ……物語じゃ、パワーインフレがすぎて本気を出せないって展開がザラだったし。元々、オレはカロンを守るために鍛えてるんだ。周囲に被害をもたらす力は本末転倒だろう」


「そりゃそうだけどさ」


 だからといって、それを実現させるのは、やっぱり頭がおかしいと思うぞ。言うなれば、全力疾走しながら体力を回復させるようなもの。正反対の作業を同時に行っているんだからさ。


 何度も感じてるが、ゼクスの強さのイメージは、割と狂ってる。”強い”イコール”不可能を可能にする”とでも考えてそうだ。神の使徒でも得手不得手はあるっていうのに。


 俺は呆れ混じりの溜息を吐きつつ、良い機会なので、ついでに別の質問も投じる。


「その魔力隠蔽も、妹ちゃんを守るのに必要ってわけか」


「やっぱり気づいたか」


「気がつかない方が無理ある。俺よりも多いはずの魔力が、今はまったく感じられないとか、どういうトリックだよ……」


 模擬戦が終わった直後より、ゼクスの魔力がまったく感じ取れなくなっていたんだ。負けすぎて自分の感覚が変になったかとも最初は考えたけど、どうやら彼の仕込みらしい。


 いくら戦闘後で魔力を消費してるとしても、俺を超える魔力量をゼロに見せかけるなんて化け物すぎだ。


 こっちが感心と呆れを混ぜた複雑な感情を抱いてる間に、ゼクスは滔々とうとうと語る。


「最近の敵に、専売特許だと思ってた転移系やら認識操作系を使う奴が出てきたんだよ。なら、魔力感知を習得してる輩も現れるかなと想定して、魔力隠蔽を練習してるんだ。精霊王どころか、アカツキの目も騙せるなら申し分ないな」


「嗚呼、まったくもって心配いらんよ。何というか……うん」


 ゼクスのコレは、向上心という言葉で済ませて良いものか。いや、俺も魔法の開発は度々するけど、こいつの場合は方向性がぶっ飛んでる気がする。だって、普通は神の使徒に勝てた時点で満足しないか? 世界最強なんだから、それ以上に強くなる必要ないじゃん。


 ゼクスの力量は上限知らずすぎる。お陰さまで、師匠の威厳はゼロよ。……え? 最初っから威厳はないって? はは、笑えねぇ。


 まぁ、この分なら最悪の結末が訪れる心配はなさそうだ。この調子で、用心深く成長してほしい。


 とはいえ、いつまでも負けっぱなしは癪なので、俺も久しぶりに修行しますか。次は勝つ!

 

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