Chapter3-6 決闘(4)

フォロワー16000、☆7000超えました。ありがとうございます!


――――――――――――――



 夜が明け、とうとう運命の時が巡ってきた。王宮派あちらの諜報員が探りを入れてきたりはしたが、こちらの敵ではない。ことごとく返り討ちにした。


 少しゴタゴタしつつも、爵位継承の儀が行われる時間がやってくる。案内の者に先導され、オレは聖王の待つ玉座の間に向かった。


 道中の説明によると、今回の儀式に参列する貴族がそこそこいるようだ。魔道具に魔力を登録するだけの短い儀礼に、わざわざ足を運ぶなんてご苦労なことだ。


 十中八九、儀礼後に行われる話し合いが目当てだろう。王宮側はオレらが謝罪すると勘違いしているみたいだし、その様子を嘲笑いに来たといったところか。暇人が多いようでうらやましい限りだ。少しくらい分けてもらいたい。


 そうこうしているうちに、玉座の間に続く扉の前まで到着した。案内の者はここまでらしく、そそくさと退散してしまう。


 特別に気合を入れる必要もない。やるべきことを、さっさと済ませてしまおう。


 オレは先へ進むため、扉へ手をかけた。


 すると、こちらが腕に力を入れる前に、背後より声がかかった。


「ゼクス殿」


 聞き覚えのある威厳あるそれ。振り向けば予想通りの人物、ロラムベル公爵が立っていた。


 彼は相変わらずの厳格な雰囲気を湛え、その眉間にシワを寄せている。


「このようなところで如何いかがなされましたか?」


 おおよその察しは付いていながらも、あえて惚けた問いかけを投げる。


 それを受けた公爵は、いっそう額のシワを深く刻んだ。


「その先は処刑場だ。それを理解できぬ貴殿ではあるまい」


 彼の言葉に目を丸くする。


 どうやら、こちらを慮ってくれているみたいだ。魔法きょうらしくない気の遣いようだった。思っていた以上に、オレは公爵に気に入られていた模様。再三になるが、色なしに心砕くなんて、本当にロラムベル公爵らしくない。


 忠告してくれるのはありがたいけど、ここで引き返す選択肢はない。


「忠告は痛み入ります。ですが、私に前進以外の道はございません」


「玉座の間に集まる貴族は、王宮派とフワンソール伯爵陣営しかいない。いくら貴殿が政治力に長けていたとしても、四面楚歌しめんそかの状況を打破できるとは思えぬぞ」


「嗚呼。フワンソール伯爵たちもいるんですか。まぁ、内乱の時のことは恨んでるでしょうからねぇ」


 交戦するのは利益が薄いと判断したようで、彼らはずっと沈黙していた。だが、だからといって、何の感情も抱いていないわけではなかった。絶好の機会を前に、ここぞとばかりに便乗してきたらしい。


 呑気に笑うオレを見て、公爵は語気を強める。


「何故、このタイミングで表舞台へ上がった? 明らかに失策だ。今回の一件を鎮静化させた後の方が最善だったはずだ。フォラナーダの暗部であれば、王宮派の作り出した火種を消すのも容易だっただろうに」


「確かに、我々の手に掛かれば、王宮派の思惑を揉み消すこともできたでしょう」


「ならば――」


「ですが、それではダメなんですよ」


 あちらの言葉を遮り、オレは静かに言葉を発する。


「今回の一件を揉み消すということは、第二王子の失態をなかったことにするのと同義。それでは、フォラナーダは自由に動けない」


 元々、オレが実権を握った時点で、表舞台に立つまでの筋書きは決まっていた。当然、そこにはカロンとグレイの婚約を破談させる内容も含まれていた。ただ、そのシナリオに従った場合、少なからずフォラナーダが悪役になる必要があったんだ。


 しかし、第二王子グレイが思わぬ行動を起こした。感情に任せてカロンに魔法攻撃をするという、致命的なまでの大失態を演じてくれたんだ。


 そのお陰で、計画の大詰めを修正することができた。フォラナーダが悪役を担わずとも、カロンの婚約を解消する完璧なプランが出来上がった。


 なれば、それを崩壊させる手を打つわけがない。公爵は今回の事件を凶事と捉えているみたいだが、実際は異なる。フォラナーダにとって、グレイのヤンチャは”鴨が葱を背負って来た”も同然だったんだ。


「『何故、このタイミングで表舞台に上がったか』でしたっけ?」


 オレはニィと頬を上げる。


「このタイミングが、もっとも最適だったからですよ。フォラナーダの――そして、オレの強さを見せつける、ね」


「貴殿は……」


 目を見開く公爵を置き去りにし、玉座の間への扉を開け放つ。


 オレは無数の敵の中へと突入した。









 玉座の間は、聖王国の顔とも言える場所だ。ゆえに、他のどこよりも派手な外観をしている。床には大理石が敷き詰められ、柱一つ一つには一流芸術の彫刻が施されている。天井は突き抜けるほど高く、最奥に置かれた玉座は目映いくらい豪奢だった。


 聖王国内で一番高価であろう広間には、今や多くの貴族が詰めている。数にして二十から三十ほどか。パッと見のために断言はできないが、その大半は王宮派だと思われる。全員の表情に嘲笑が浮かんでおり、見世物にする気概がまったく隠せていない。


 貴族のくせにと思わなくもないけど、罠にズッポリと掛かった相手に取り繕う必要もない、と判断しているのかもしれない。どちらが罠にハマったのかも知らずに。


 玉座には聖王が座っていた。黒髪茶目の三十代後半男性。体格は中肉中背で、普通のイケメン。


 ゲームでは何度か見てきたけど、特徴らしい特徴のない王さまだ。まぁ、ゲームでは出番もあまりなかったからなぁ。


 そんな失礼なことを内心で考えつつ、彼の左右に視線を巡らせる。


 聖王の近辺には、他の王族たちが集っていた。といっても、全員ではない。渦中の人物であるグレイ、グレイの母である第二王妃、第三王子の三人だった。


 グレイと第二王妃は、とても嫌らしい笑みを浮かべていた。オレが謝罪しに来たなんて戯言を信じ切っているらしい。何とも幸せな脳みそをしている。


 第三王子は初めて見たな。ゲームでも全然登場しないキャラだったし、そちら方面の情報はない。諜報員によると、『それなりに優秀な子どもだが、特筆すべき点はない』だったか。


 第三王子のことは置いておこう。この場で重要なのは、聖王と第二王子、王宮派の貴族である。フワンソール派閥が同席しているのは僥倖ぎょうこうだった。彼らにも、今後の邪魔立てをされないように釘を刺したかったから。


 役者は揃った。あとは実行に移すのみである。


 爵位継承の儀の描写は省略しよう。面白くもなんともない。聖王の前で忠義の宣誓をして、聖王より言葉をたまわり、石板型の魔道具に魔力を流す。それだけ。


 一応、興味のあった魔道具を走査してみたが、まったくの期待外れ。何の変哲もない、魔力を登録するのみに特化した代物だった。やろうと思えば、オレでも作れるだろう。


「今この時を以って、新たな伯爵が誕生した。ゼクス・レヴィト・サン・フォラナーダに祝福の拍手を」


 聖王のセリフと同時に、パラパラと手を叩く音が聞こえる。


 その後、進行役を務めている宰相が言葉を続けた。


「さて。新フォラナーダ伯爵より、聖王陛下に陳情があると聞く。陛下は、この場で耳を傾けてくださるそうだ。心より感謝し、内容を述べるが良い」


 周囲から湧き上がる嘲笑の感情。すさまじい量だった。事前に身構えていても頭がクラクラする。


 他者を見下す感情は、いつ見ても醜い。精神魔法は便利ではあるけど、こういった面を直視してしまう点は厄介だな。


 一回瞬きをして立ちくらみを堪えつつ、オレは口を開く。

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る