Chapter1-2 盗賊(2)

 初めて城下町に出て以来、オレとカロンは定期的に外出をしていた。まだ見ぬ場所を探索することもあったが、主な活動内容は、地元の子どもたちとの交流だった。


 あの広場は、城下町中の子どもらが集まる場所だったようで、いつも十人前後の人影があった。


 満遍なく遊んではいたが、その中でも、特に絆を深めた少年少女がいた。


 一人はダン・ビレッド・マグラ。オレたちと同い年の割には体格が良く、野性味の溢れた容姿をしている。その性格も、外面同様に豪快なものだ。やや強引なところはあるが、広場に集まった子どもたちのリーダー役を務める機会が多い。髪も瞳も茶色をしているから、魔法適性は土だろう。


 一人はターラ・ブレミル・マグラ。名前から察しがつくようにダンの妹で、オレたちの一つ年下。大雑把な兄とは違って繊細な性格をしており、少々引っ込み思案の気質はあるものの、真面目で思慮深い。髪や瞳の色は兄と同じなので、彼女の魔法適性も土だと思われる。自分のことをタリィと愛称で呼んでいる。


 最後はミリア・ホザテト・キクス。年齢はオレたち兄妹やダンと同じ。マグラ兄妹とは家が隣同士の幼馴染みで、いつも一緒に遊んでいるとか。年相応の快活な性格をしていて、走り回るのが好きらしい。髪や瞳の色は緑で、魔法適性は風だと推定できる。


 この三人と、最近ではよく遊んでいる。だいたい週二回くらいの頻度で足を運んでいるんだが、毎回顔を合わせるんだよな。彼らとの巡り合わせが良いんだろう。


「今日はかくれんぼ・・・・・をしようぜ!」


「うん、いいよ。カロンたちと一緒にやるのは初めてだから、楽しみ!」


「疲れなさそうだし、タリィも賛成さんせー


 お馴染みの面子が集まると、ダンが拳を掲げて宣言する。


 それにミリアとターラも首肯した。


 ターラの方は些か消極的な雰囲気はあるが、彼女はインドア趣味なので仕方ない。といっても、こうして共に遊んでいるんだから、心から嫌がっているわけではなさそうだ。


 続いて、オレたち兄妹も賛同する。


わたくしも、それで構いません」


「オレもいいよ。ただ、初めてのオレたちに、ルール説明はしてくれ」


 余談だが、カロンは丁寧な口調を継続している。今さら喋り方を使い分けるよりも、子どもたちが敬語を覚える方が早かったためだ。


 閑話休題。


「じゃあ、タリィが説明するよ」


 オレの要請を受け、ターラが進み出た。頭を使う場面は、たいてい彼女が役目を負う。他の二人より年下なのに、割と苦労人の気配がするのは同情したい。


「まず、鬼が百を数える間に、それ以外の人がどこかに隠れる。範囲は広場から2ブロック先まで。一度隠れたら、見つかるまで移動しちゃダメ。制限時間は三十分で、それまでに全員見つけたら鬼の勝ち。質問はある?」


「範囲内なら、隠れる場所はどこでもいいのか?」


「他人の家の中とかはダメ。あと、お店もダメ。怒られるから」


「分かった。これ以上、オレから質問はないよ」


「カロンは?」


「うーん……わたくしも特にはございません」


「じゃあ、鬼を決めようか!」


 オレたちの質疑応答が終わると、ダンが元気良く声を上げた。それから、全員でジャンケンをして鬼を決める。


 結果は――


「オレが鬼か」


 見事に、オレだけがパーを出して負けた。あいこもなく、一発で決定したのは情けないところ。まぁ、駆け引きもなかったし、完全に運の勝負だったんだけども。


「早速始めようか。もう数えるから、さっさと隠れてこい」


「わー、隠れろー!」


 オレが数字を呟き始めると、ミリアはノリの良い発言をしながら駆けていく。ダンもターラもそれに続いた。


 一方、カロンは未だに立ち尽くしている。


「お、お兄さま……」


 不安げな表情を浮かべ、何か言いたそうに声を震わせる。


 オレが怪訝に思ったのも一瞬。すぐに彼女の心情を理解した。


 そういえば、街でカロンが単独行動するのは初めての試みだ。今までは常にオレが傍にいたため、心細く感じているんだろう。


 兄を頼ってくれるのは嬉しい限りだけど、今後のことを考えると、現状を放置してはいけない。


「カロン、行きなさい。かくれんぼなんだから、隠れなきゃダメだぞ」


「で、でも」


 ぐずる彼女だが、オレは首を横に振った。


「カロン一人でも、街中を歩けるようにならないとダメだ。今回は遊びだけど、いつか絶対に必要になる経験だから。今生の別れじゃあるまいし、ちょっとの間だけだよ。何も心配はいらない」


「……分かりました」


 努めて優しく語りかけた末、カロンは渋々といった様子ながらも頷いてくれた。こちらをチラチラと見つつも、広場から去っていく。


 頬笑ましい妹の姿に口元を緩ませる。


「こんな感じで成長していくんだな……ふふっ」


 思わず漏らした自身の言葉に、苦笑してしまった。何せ、今のセリフは妹に向けるものというより、娘を愛でる父親のようだったから。


 まぁ、前世を合わせると親子並みの年齢差なので、抱く感情は近しいかもしれない。


 そんな益体やくたいのないことを考えながら、一から順番に数えていく。みんなが隠れる時間を十分に取れるよう、ゆっくりゆっくり数字を重ねる。


 そうして百を唱えた後、オレは周囲を見渡した。灯台下暗しという言葉もあるし、近場を探ったわけだ。広場は更地だから、隠れられる場所はほとんど・・・・ないんだけど、念のためだった。


 案の定、小さな子どもが集まって遊んでいるだけで、カロンたちの人影はない。別の場所に隠れているのは間違いなかった。


 正直言うと、探知術を使えば瞬時に全員見つけられる。オレの探知は、自身の魔力を波状に拡散させて周囲の魔力を探る、という代物。人捜しには持ってこいの術なんだ。


 とはいえ、それを使うのは大人げない。自分の目と足で捜すのが、かくれんぼという遊びだと思う。


 さてはて、どこに隠れたものか。


 隠れられる範囲は2ブロック――約二百平方メートルになる。その中から三十分で四人を見つけるとなると、四歳児の足では至難の業だろう。闇雲に捜しては間に合わない。


 一応、おおよその見当はついている。ダンは単純な少年だから、きっと広場より一番離れた地点に身を隠したはずだ。彼ともっとも仲の良いミリアも、彼の傍にいると予想できる。


 厄介なのはターラだな。彼女は、ダンの妹とは思えないほど聡明なところがある。制限時間以内に見つからないよう、ダンたちとは正反対の場所で構えるくらいの策は講じる気がした。もしくは、裏をかいて広場のすぐ近くにいるとか。

 

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