第13話 ヒーラー、行商人と出会う

 ボスが倒され、ダンジョンが攻略されたことによって魔物の残党たちはダンジョンから逃げていくのでキャンプ地へ安全に戻ることができた。それからというもの、俺たちはリザードマン鍋でお腹を満たし、満腹になったセシリアと俺はダンジョン攻略の疲れからかそのままぐっすりと朝まで眠ってしまった。


 眠っている最中、俺が寝返りをうつと何か肌触りの良い毛の感触が顔に触れた。何だろうと俺がゆっくりと目を開けると、目線の先には銀色の毛並みの猫のような耳があった。さらに目線を下に向けると俺の胸元ですうすう寝息を立てて気持ちよさそうに眠るセシリアの顔があった。超至近距離で寝ていたセシリアに俺は少しドキッとしてしまった。目が覚めて、目と鼻の先に超絶美少女が眠っていたら誰だってびっくりするだろう。俺は一瞬にして目が覚めてしまった。セシリアが近くにいるため、起こさないようにゆっくりと体を起こす。

 起き上がったとき、さらに俺の目線の先には誰かがいた。クリーム色の二つ結びにした髪に赤いマリンキャップの帽子を付け、華やかな赤い柄のワンピースを着た小さな少女がしゃがんで俺たちの方をじっと見ていた。

 ワンピースの下は短めの白いドロワーズを穿いている様で、俺からは丸見えだった。急に起き上がった俺とその少女は目と目が合う。すると少女は目を開いて驚き、尻もちをついた。


「ふわぁああああ!! ごごごご、ごめんなさーーい!! オイラは決して覗きに来たわけじゃないんだぞーー!!」


 そう言いながら、涙を目に浮かべて怯え始めた。


「とりあえず落ち着いて! な、泣くんじゃない!」


 俺は少女を泣かさぬよう、落ち着かせるために少女を宥める。


「んぅ……フール……どうしたの?」


 目をこすりながらセシリアが起き上がる。俺たちが騒いでいたから起こしてしまったようだ。セシリアは欠伸をしながら体を上へと伸ばす。


「起こして悪いなセシリア。早速だけど、一緒にこの子を宥めてくれ‼」


「へ?」


 何が何だかわからないまま、セシリアと俺でその少女をなだめ始めた。そして、数十分間の説得の末にようやく落ち着てくれたようだ。


「お騒がして申し訳ないんだぞ……」


 少女はペコっと頭を俺たちに下げる。


「全然大丈夫だ。ところで君、名前は? 俺はフール、回復術士をしてる」


「私はセシリア、戦士よ」


「オイラはパトラ! 職業は商人マーチャントで今は行商人ペドラーをやってるんだ! よろしくな!」


「パトラは行商人なのか?」


「そうだぞ! ここからちょっとだけ遠い”商業都市ウッサゴ”からバールの国へ行く為に来たんだぞ」


 商業都市ウッサゴはここから結構離れた場所だ。それをこんな小さい子がはるばるこんなところまで来るとは大したものだ。


「よくここまで来れてパトラちゃんはえらいね~~♪」


 セシリアはパトラの頭を撫で始めるが、パトラは頬を膨らませて、セシリアの手から頭を離した。


「ぶぅーー!! オイラは子供じゃないんだぞ!! 立派な行商人なんだぞ!!」


「えぇーー良いじゃない♪ パトラちゃんちっちゃくて可愛いもん、そーーれ♪」


 セシリアはパトラの両脇を持って自分の膝の上に持ってくるとパトラのぷにぷにの頬を揉み始めた。 


「わぁーー! やめろーー‼︎」


 楽しそうにしてるセシリアの笑顔はなんとも微笑ましいのだが、流石にパトラが可哀想だったので、俺がセシリアからパトラを取り上げ、元の位置へと戻した。


「セシリア、あまりパトラを弄らないの。悪いなパトラ」


「おお、お前はフールって言ったよな? お前は良いやつだ‼︎」


「ははは、それはどうも」


「むぅ……」


 今度はセシリアが頬を膨らませる。自分の尻尾を前に出して撫でながら、膨れっ面でいじけてしまった。こういう時、セシリアは子供っぽくなるよな。


「ところで、なんでお前らはこんな所で寝てたんだ?」


 パトラが目を丸くして俺に質問してくる。


「色々あってな……俺は近くのバールの国でギルドをやってたんだが解雇されちまってさ。金も無いからダンジョンで寝泊まりしてたんだよ」


「あ、危なく無いのかそれ?」


「一応ダンジョンは攻略したんだ」


「はぁ⁉ お前たち2人で⁉︎」


 パトラのは俺の言葉で目が飛び出る程驚いていた。

 普通の冒険者なら驚いて当然だろう。なんせ、B級ダンジョンを2人で攻略してしまったんだから。


「むむむぅ……お前らすごい奴なんだなぁ、解雇される理由が分からないぞ。解雇……解雇? うっ……頭が痛くなってきたぞ」


 パトラが急に頭を抱え出し、急に俯いてしまった。


「どうしたの? 具合でも悪くなっちゃったの?」


「ううぅ……オイラ、解雇って言葉に弱いんだぞ……」


「パトラもどうしてはるばるウッサゴから来たんだ?」


 俺がそう質問すると口をとがらせて、両人差し指を合わせながら話し始めた。


「実は……オイラ、ウッサゴで商人見習いとして道具屋さんで働く予定だったんだけど、子供は雇えないって追い出されちまったんだ。ウッサゴ中の店に行ったんだけど誰一人雇ってくれなかったんだぞ……こんな身なりのせいでオイラ誰からも子ども扱いばっかりだ。だから、一か八かバールの国にでもオイラを雇ってくれるお店を見つけるために来たんだ」


 つまり、パトラは外見のせいで仕事予定の店から解雇されてその後も相手にされなかったんだな。なんだか方向性は違うが、俺たちと同じ境遇のように見えて俺はパトラの苦労を共感してしまった。

 俺は思わず、パトラの頭を撫でる。


「な……なんだよ! やっぱりお前もオイラを子ども扱いするのか!!」


「違うよ、パトラも苦労してるんだなと思って。つらいよな、外見だけで判断されるなんて……こんなところまで怖がらずに一人で来られるほど行商人としての力はあるはずなのにな。だから、俺たちだけでもお前の気持ちを知れてよかったと思ってる。ありがとな、パトラ」


「そうよ、私たちはパトラちゃんの味方だからね」


 すると、パトラは少しだけ頬を赤くすると、かぶっていたマリンキャップで口元を隠した。


「お前ら……やっぱり案外良いやつらだぞ……」


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