第3話 ヒーラー、寝床を探す

 国を出てから何の当てもなくぶらぶらとこの広い大地を彷徨っていた。無一文になり、これからどうすれば良いのか何をしてご飯を食べて行こうか考えながら歩き続ける。

 取り敢えず、野宿できる場所を探そう。最初の目的をそれとして歩くことにする。

 時々周りの風景を楽しみつつ歩く。外に出て来たのは数ヶ月振りだったから1人でもこの自然の風景を楽しんでいる。


 今は街道を歩いているが少し道から逸れれば、森の中へと入ることができる。しかし、俺はあくまでも回復術士だ、戦闘専門ではない職業でもあるし、なんと言っても俺は回復魔法しか使うことができなかった。

 一般的に回復術士は回復魔法を重点的に覚える。多少の攻撃魔法や味方を支援する補助魔法は一応覚えることは可能なのだが、俺はいかんせん経験がかなり少なく、魔法の習得も悪い。

 だから俺は単体回復魔法である"治癒ヒール"しか使うことができなかった。

 だから、ギルドで舐められてたんだけど……


 はぁ……と大きなため息を吐きながら歩いていると街道の向こう側から複数人の人影が見えた。あれは、クエスト帰りのB級パーティのギルドメンバー達だった。

 俺はあまりバールの国のギルドメンバーとは出来るだけ接触を控えたいと思っていた為、咄嗟に街道からそれて人気が無い森の中へと入って行った。


「くそ……何でビクビクしなきゃいけないんだよ……」


 本当はもう赤の他人だから堂々としていれば良いのだが、気持ちはまだそこまでできる余裕がないようだ。

 森に入ってしまった以上、ここを進むことを決意して魔物と遭遇しないことを願いながら歩いて行く。


 数分歩いたところで森の中に石造りの入口出てきた大きな穴があった。覗くとそこは地下へと続く階段がある。


「ダンジョンへの入り口か……」


 これがこの世界のダンジョンである。ダンジョンは魔物によって地下に作られ、最深部にはダンジョンを牛耳るボスがいるのだ。それを討伐し、報告する事で国から報酬を得る事ができる。


 じゃあそれで生計を立てていけば良いじゃんって思うじゃん? ダンジョン攻略はそんなに甘くはない。ダンジョンにも難易度があり、F〜Sまで階級ががある。しかし、F級ダンジョンの難易度でさえも4人パーティを組む事で安心して挑戦できる難易度であるので、1人で挑むなど無謀な事だった。ましてや戦士や騎士ナイトの様な職業であるなら1人で挑んでも良いのだが、俺は回復術士……明らかに無謀である。


 難易度はモンスターによって決まっている為、モンスターとエンカウントするまではこのダンジョンの難易度は分からないのだ。


「俺1人で入るのは危険か……例えF級ダンジョンでもキツすぎる」


 そう言って離れようとした時、ダンジョン近くから物音が聞こえてきた。剣が弾き合う音……誰かが戦っているのか? 


 心配になった俺はそのダンジョンの中へと入って行く。

 階段を降りて行くと先駆者のお陰で周りには松明の灯りが付いており、周りの様子が分かった。


 ダンジョン内は石造り出てきており、真っ直ぐに道が続いている。俺は音のする方へ歩みを進めると女性の声が聞こえてきた。


「きゃあっ‼︎」


「女性の声⁉︎」


 俺は声の方へ走る。

 ある程度進むと道の真ん中で小柄な少女が倒れていたが、持っていたロングソードを使い、ゆっくりと起き上がっる。頭には大きな獣の耳がついており、綺麗な銀髪セミロングの可愛らしい少女だった。しかし、綺麗な容姿とは裏腹に体は傷だらけで女性用に作られた軽量レザーアーマーもボロボロになっている。


「大丈夫か⁉︎」


「はぁはぁ……あなた……誰……」


 俺は少女が戦っている対象を確認する。そいつは片手に剣を持ち、大きな目をぎょろぎょろとさせた2足歩行の蜥蜴だった。


「リザードマンか……てことはこのダンジョンは低くてもB級、高くてA級か!」


 そう、俺が最初に入ったのはB級冒険者達が4人以上でやっとクリアできる高難度のB級ダンジョンだった。

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