第2話 ヒーラー、国を出る

 俺はギルドの自室で身支度をしていた。自室に置いている荷物はそこまで多くはなかったので生活に必要な野宿道具を鞄に入れ、いらない物はゴミへと出した。身支度が終わると新ためて部屋を見回す。


「この部屋ともおさらばか……次住むとこどうしよう……」


 俺の中で一番問題なのはお金だ。基本お金はGゴールドと呼ばれ、ギルドメンバーは依頼クエストをこなし、その報酬金で生計を立てるのが普通なのだが、俺は勿論クエストなどに連れて行かれることがなかったため、無一文に等しかった。食事はギルド側が無料で出してくれていたので食には困らなかったが今では自分でなんとかしなくてはいけなくなった。


「今、手持ちにあるのは……10Gか……」


 薄っぺらい金貨袋の中を見ながら深い溜息を吐く。この国の宿屋の相場は大体安くて15G、更に食事を入れると10Gは足される。つまり、俺の全財産は食事一回分で底がつきる状態であった。


 どうしたものかと悩んでいると急に自室のドアが開いた。


「おっすフール!」


 入ってきたのはあの忌々しきダレンだった。


「俺に何かようか?」


「お前、戦力外通告くらってこのギルド追い出されるんだってな」


「だからなんだよ」


「だっせぇな、お前」


 ダレンのその言葉に反応して拳を振ったがダレンに軽々と回避される。


「へぇ……良い度胸じゃねぇかよ」


「もう、俺はギルドの一員じゃない。だから、お前とはもう敬語で話さなくても良いだろ?」


「なるほど……」


 そう言ってダレンは咄嗟にフールの懐に入るとそのままフールのみぞおちに殴りかかった。ダレンの拳はフールのみぞおちにめり込み、フールは壁際へと吹き飛ばされる。


「けほっ! けほっ! ……て、てめぇ」


 フールが顔を上げた瞬間、ダレンがフールの前髪を掴み上げる。


「調子に乗るんじゃねぇぞ? てめぇみたいなF級冒険者が俺のようなS級冒険者に手を出すなんて考えるんじゃねぇぞ?」


 ダレンは目を見開き、激怒した様子で俺をにらみつける。その時、ダレンの背後に人影が現れた事に気がつく。


「ダレン、やめなさい!」


 それは、ダレンのパーティに所属する”魔導師”であるシュリンだった。


「ちっ……シュリンか……」


 そう言ってダレンは俺をゴミを捨てるかのように頭をぶん投げた。

 俺は横たわり、自分自身に回復呪文である”治癒ヒール”をかけた。

 疲労感は取れないが殴られたみぞおちと壁にぶつかったときに切れて血が出ている頭部の傷が塞がっていった。


「舐めやがって……出てけよ、俺たちのギルドからな!!」


「出てってやるよ……こんなところ!!」


 そう言って俺は立ち上がり、荷物の入った鞄と自分の愛用する木製の杖を持ち、自室を後にした。


「ダレン、あんな無能の相手をしてると貴方まで落ちぶれちゃうわよ」


「うっせぇ……」




 ーーそして、ギルド後にした俺は10Gしか入っていない金貨袋を片手に街を歩いてた。


「はぁ……これからどうしようか……」


 そう考えながらとぼとぼと歩いていると前から来た通行人の女性とぶつかってしまった。


「す、すいません」


 謝るがその通行人の女性は一言も言わずそそくさとどこかへ行ってしまった。

 そして俺は気がつく。


「あれ!? 金貨袋がない!?」


 俺はなんとも運が悪いことにスリに遭ってしまった。残り少ない全財産……わずか10Gだけを奪われた俺はもうこの町で何もすることができなくなってしまった。

 たかが10G、されど10G……俺にとっては大事な金だった。

 絶望感に浸りながらふらふらとまた歩みを進めると気がついたら国の門まで来てしまっていた。


 ここから外に出れば国にまた入るのに10G必要とされる。しかし、無一文である俺はこの国に居る意味など無かった。それにあんなギルドなんてもう見たくない。


「ここには居られない……」


 そうして俺はこのバールの国から外に出て、”ソローモ世界”の大地に立ち、旅立つことを決めた。

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