第99話 闇空へと堕ちる
次に気がついた時には、空へ向かって堕ちていた。
眼を失い、肌を失い、感覚を失い…なのに堕ちていることはすぐに理解ができたのだから不思議だ。堕ちている。落ちているのではない。堕ちているのだ。
無いはずの眼を開いた。そこには闇が広がっている。黒を黒で塗りつぶしたどす黒い闇……一体、この闇の正体とは何なのだろうか? 答えを出せないその疑問にはとっくの前に背を向けた筈なのに。空へと堕ちていく過程にて、脳裏をチラついたのだった。
ふと横を向く。見知った顔ぶれがそこには在った。
アサギ、サユキ、エイガ、レイン。他にもたくさん……知っている者から、知らない者まで。
彼らを認知し、自らを悟った。捨て置かれたのだと。
……………。
無いはずの眼を閉じる。自らの中に、自らでは無い存在を感じ取った。ただ、彼らは入ってきたのでは無いのだ。ずっとずっと昔から。それこそ自らが存在を始める前から、自らの中にあり、自らを象っていた。故に、“忘れていた”という表現が最も近しい。
自分は、自らへと“確認”を行うことにした。
(ごめん。たくさん混ざり過ぎちゃってて、今まで声に気がつかなかったけどさ。君たちは、生命があった頃の人間だね? )
そう尋ねると、自分の中で自らの声が反響をした。無いはずの耳で確かに聞き取る。
(そうか……この闇の原因はやっぱり人間だったんだね。取り返し用の無い罪を……隠す? 美談? そうかい。教えてくれて、ありがとう。ありがとう)
お礼を言うと、人間の声は聞こえなくなってしまった。多分だけれど、人間が語ることを止めたのではなくて、自分の方に問題があったのだ。
――もう、思い出せない。自分とは……一体どのように呼称をされていたのだろうか? 横に在る顔ぶれとは、一体誰なのだろうか?
無いはずの頭を使った。
自分はたった2つを
――でも、もう1つのことはちゃんと覚えていた。その名前を繰り返す。
(シヅキくん、シヅキくん、シヅキくん…………)
自分を捨て置いたホロウ。自分を犠牲とし、己が力として取り入れたホロウ。その目的とはとてもくだらなくて……自分はシヅキの為に犠牲となった。犠牲、犠牲となった……。
(でも……それは、君が救いへと辿り着くために必要だったんだね)
その原動力は痛いほどに理解ができた。99と100、どちらを選ぶかって訊かれれば、後者を選ぶことは当然で……。これはそのような話なのだ。つらつらと語るは、たったソレだけなのだ。
無いはずの眼を再び閉じた。1つ目の追録、その内容がポッカリと抜けているのはきっと、自分の半分程度が
(自分は……酷い奴だね)
闇空へと堕ちる、堕ちる、堕ちる。末路とは闇だった。 ……闇で待っているよ。また会えたら、その時は少しくらい愚痴を聞いてもらってもいいかな? それくらいは許しておくれ。
――たださ、それまではさ。
(今は、君のことを手伝うよ。シヅキ)
無いはずの心に、誓いを立てた。
※※※※※
……………………
……………………。
……………………!
腕が熱い。熱い、熱い、熱い、熱い、熱い。
魔素がみなぎる。なんだこれは? 余力なんて言葉は不適格だ。 ……だとするならば、この力の名前とは何なのだろうか?
それについて思考を巡らせる前に、幻覚がシヅキの前に現れた。
――ダボダボの白衣を着た、背の低いホロウが、何を言うでもなく、通り過ぎていく。
ああ、お前だったのか。お前はまだ俺なんかのことを後押してくれるのか。
…………。
「……ブラフとは、ワタシの得意分野だ」
次の瞬間、視界一杯にコクヨが映った。蔦で拘束をしたシヅキの身に向けて、剥き出しの刀を振るい上げていた。このままでは
故に、シヅキは
『仕方ないなあ。分かったよ、シヅキくん』
その幻聴が、後押しをした。
「…………っ!!!!!!!!!!!!!!」
グシュ
肉と骨を裂く、最低な音が棺の滝にて虚しく鳴った。
「ガ…………アァア゛…………!!!」
耐えがたい痛みに、コクヨがその顔を歪める。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます